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川本眼科だより

川本眼科だより 189利き目はどっち? 2015年10月31日

誰にでも「利き手」はあります。自分が右利きか左利きかは、誰でもわかっています。同じように「利き目」もあるのですが、普段の生活で左右どちらの目が利き目か意識することはほとんどありません。

専門的には利き目のことを優位眼と呼びます。反対側の目は非優位眼です。眼科の診断・治療上どちらの目が優位眼か問題になることがあります。

利き手と利き足

利き手は誰にでもありますね。右利きは左利きよりも圧倒的に多く人口の9割を占めるそうです。しかも人種や文化の違いはあまり関係がなく、世界中どこでも同じような傾向があるそうです。幼少時に左利きを右利きに矯正するせいだと主張する人もいますが、左利きに寛容で矯正がほとんど行われない社会でも左利きはせいぜい2~3割と報告されています。

右利きが多い理由はわかっていません。左脳に言語中枢があるせいだという仮説が提出されていますが、きちんとした科学的根拠は示されていません。

利き足というのもあります。でも、一般人では利き足は利き手ほどはっきりはしていません。これがサッカー選手だと明確です。ペナルティキックでシュートを打つ足が利き足です。ある程度複雑な一連の動作に習熟する場合に利き足が問題になるように思われます。

右手利きの人では9割が右足利きなのに対し、左手利きの人手は右足利きと左足利きが半々だそうです。このような左右非対称がなぜ生じるのか理由はわかりません。

利き耳

利き耳というのもあり、物の本によると電話の受話器を当てるほうが利き耳だそうです。

これには少々疑問があります。例えば私は普段右耳に受話器を当てますが、メモを取るときには左肩で受話器を挟んで左耳を使います。それで聞きづらいと感じたことはありません。単に右手利きだから受話器を右手で取って右耳に当てているのだと思います。

壁の穴から盗み聞きするのに使う耳が利き耳という説もあります。利き耳と言うより聞き耳ですね。これも疑問です。私なら右側に壁があったら右耳を当てるし、左側に壁があったら左耳を当てるでしょう。私は両耳利きなのかしら?

左右に聴力の差があれば良く聞こえる耳ばかり使うのは当然です。でも、右耳が良く聞こえる人が、例えば右耳の中耳炎で左耳のほうが良く聞こえる状態になったら、その日から直ちに左耳を使い始めるでしょう。そんなに困らないし違和感もないはずで、利き手の場合とは大きく異なります。

利き耳は利き手ほどはっきりしたものではないようです。

利き目

利き目というのもあります。望遠鏡をのぞき込むときに使う目、単眼の顕微鏡で観察するのに使う目が利き目とされます。

スマホの画面も狭いので、自然に利き目の正面にスマホを持ってくるのだそうで、電車の中で観察していると利き目がわかるそうです。

利き目は専門的には優位眼と呼び、反対側の目は非優位眼と呼びます。左右の見え方がほぼ同じ場合、利き目はそれほど明白なものではなく、条件によっては変動しうるとされています。

一方、利き目が非常にはっきりしている人もいます。幼少の頃の成長発達段階において左右の見え方に違いがあると、よく見える目ばかり使うようになって、脳が利き目を使うようにプログラムされると考えられます。

遠方視と近方視で使い分け

近視は「遠くは見えづらく近くは見やすい」という状態です。一方、正視の人は若いときは遠くも近くも見えますが、老眼になると「近くは見えづらく遠くは見やすい」と近視の真逆です。

そうすると、右眼が正視で左眼が近視だった場合、遠くを見るときは右眼を、近くを見るときは左眼を使ったほうが良く見えます。そういう使い分けをしている状態をモノビジョンと呼びます。

このように屈折(遠視・近視・乱視等)を考慮する必要がありますし、そもそも遠方視と近方視で利き目が異なるという考え方もできるわけで、利き目の判定は実はそんなに単純明快なことではないのです。

メガネをかけているときと裸眼のときでも状態は変わってしまいます。

利き目を考慮して診療する

眼科診療上、利き目を考慮しなければならないケースはそれほど多いわけではありません。一番問題になるのは斜視や弱視の診療をする場合ですが、それ以外ではあまり気にしていません。

ただ、視力や視野が悪くなった目が利き目だとQOV(Quality of Vision=見え方の質) に影響するとされます。反対側の目の視力が結構良くても見えづらさや不便さを強く感じます。利き目が見えづらいなら早めに手術に踏み切るなど、手術や処置の時期を判断する際に役に立ちます。

メガネを合わせるときも利き目を考慮する必要があります。例えば、片目の近視の度が極端に強いとか、左右で乱視の軸が違っているとか、どちらかの目を重視して合わせざるを得ない事態はよく起こります。そういうときには、利き目を優先して利き目がよく見えるように合わせたほうが満足していただけます。

ただ、利き目がどちらかそれほど明確でないことも多く、時間が経つとよく見えるほうの目が利き目に変わる人もいます。ですから、利き目について過剰な心配は無用です。

モノビジョンと利き目

老眼対策として、わざとモノビジョンにする方法があります。近視の方なら、コンタクトを片目は完全矯正にして反対目は度を弱くして近くが見えるようにするわけです。この際、通常は利き目で遠く(70cm以遠)を見るように合わせます。

同様に、白内障手術でもモノビジョンを狙う方法があります。(川本眼科では推奨していません)この場合も利き目で遠くが見えるようにします。

ただ、白内障で視力に左右差がある人は当然よく見えるほうをよく使う傾向があります。そしてその目は元々の利き目とは違う場合があります。こういう場合、どちらを利き目として合わせるべきなのでしょうか?

利き目が完全に固定されている人はごく少数で、視力や屈折によって見やすい目が利き目に変わりうるのだと考えます。利き目が強固でない人では今どちらの目を使っているかで判断すればよいと思いますし、さらに言えばどちらの目に合わせてもそのうち落ち着いてさほど問題は起きないはずです。目や脳が新しい環境に慣れるのに時間はかかるかも知れませんが。

(2015.10)