川本眼科

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川本眼科だより

川本眼科だより 88ドクター・ショッピング 2007年6月30日

あちらの医師、こちらの医師と次から次に受診してまわる行為を「ドクター・ショッピング」と呼ぶそうです。主婦がいろいろな店をまわって買い物をするのになぞらえているのです。

ドクター・ショッピングには否定的な意見が多いのですが、本当にそうなのでしょうか?

 医療への期待と不満

医学の進歩はめざましいものがあります。現代医療により、従来は治療不可能だった病気が、次々に治療できるようになってきました。

その結果、今日、医療に対する期待はかつてないほど高くなっていると言えるでしょう。

あまりにも期待が高すぎるのも問題です。実際には現代医療でもどうしようもないことは多く、特に慢性疾患では病状の好転は難しくて現状維持が精一杯ということもよくあることです。高すぎる期待はしばしば裏切られます。

その結果、医療の結果に満足できない人もかつてないほど増えているのです。

別の病院にかかれば、別の医師に診てもらえば、もっと良い医療が受けられるのではないか、という思いから「ドクター・ショッピング」が始まります。A診療所の診療に納得できず、B病院を訪ね、そこでも納得できずにCクリニックを受診する・・とあちこちの病医院を渡り歩きます。

「通院していても自覚症状が改善しない」「自分がこだわっている点を医師がとりあってくれない」などの理由が多く、医師の説明が不十分(少なくとも患者さんの理解が不十分)なことが大きな原因だと思われます。

川本眼科の場合

川本眼科もドクター・ショッピングと無縁ではいられません。他院から移ってくる場合もあれば、他院に移っていく場合もあり、これはおそらくどこの医療機関でも同じでしょう。

患者さんは他の眼科に移るときにわざわざ報告されるわけではないので、正確な数を把握することは困難です。

ただ、川本眼科の場合、他の眼科からの転医のほうが逆よりもかなり多いという印象です。

また、通院を中断していた患者さんが数年後に再び川本眼科に舞い戻るケースも結構多いので、結局他院でも十分満足するような治療は受けられなかったのだろうと推測しています。

ドクター・ショッピングをしている患者さんにはできるだけ時間をかけて説明するようにしています。重大な病気でないならそう考える理由を説明しますし、効果的な治療法がなくて投薬が気休めに近いならそのことをきちんと説明します。

説明に納得すればそれでドクター・ショッピングが終わることもあります。ただ、いくら説明してもやっぱり納得せず、また次の医師にかかることもあるようです。

医師は否定的                        

医師がドクター・ショッピングという言葉を使うときには、たいてい否定的なニュアンスが込められています。「医師を信用しない、わがままで困った患者だ」という感じでしょうか。

医師が否定的なのには理由があります。

同じ医療機関に続けて通っていれば検査結果などのデータが集積していきますが、転医すれば過去のデータを捨てることになってしまいます。

また、転医したからといって、画期的な治療法などなかなかあるものではありません。残念ながら、どこの医療機関を受診しても、たいていは同じような検査を受けることになりますし、治療法も大同小異ということが多いのです。

そのため、ドクター・ショッピングは医療費の無駄づかいだとしてやり玉に挙げられています。

それに患者さん自身もX線被爆など検査に伴う負担が増えてしまいます。

本当に利点はないのか?

そうは言っても、どの医師もまったく同じ治療をするわけではありません。いくつか治療法があればどれを選択するか医師によって異なるでしょうし、薬の投与法も何かしら違いがあるものですし、患者さんへの説明のスタイルもさまざまです。

つまり、医者を変えれば、診療内容も大なり小なり変わってくるのです。

患者-医師関係には相性の問題があり、相性が合わないと信頼関係が築けず、治療がスムーズに進みません。何度か転医を繰り返すうちに相性の合う医師に出会えることもあります。

そもそも、患者さんは、実際に受診する以外に医療内容を知ることができません。あちこち受診してみるのはやむを得ない面があります。

それに、医師自身も患者さんからの選別の目にさらされることにより、医療内容を向上させようという意識が働くことになります。

ドクター・ショッピングは度を越せばマイナスの面が目立ちます。けれども、全面的に否定すべきものではなく、利点もあるのです。

フリー・アクセスを守ろう

日本では、誰でも、どこの医療機関でも受診できます。これをフリー・アクセスと呼んでいます。

フリー・アクセスを許す限り、ドクター・ショッピングは必ずおこります。

そこで、フリー・アクセスを禁止して「家庭医登録制度」を導入しようという動きがあります。登録した家庭医以外を受診することを禁止し、専門医にかかるには家庭医の紹介が必要とする制度です。

こういう制度は英国などで既に実施されています。確かに医療費は削減できます。しかし、英国では競争のない家庭医の診療レベルが低下し、まともな検査もしないことが問題になっています。専門医にかかろうとすると急性疾患なのに何週間も待たされるなどとても信じられないような状況です。

日本の医療水準を守ろうとするなら、多少の医療費増大には目をつぶって、フリー・アクセスを堅持すべきだと信じます。

2007.6