川本眼科だより 90個人情報保護の見直し 2007年8月31日
個人情報保護法が施行されてから2年あまり経過しました。当初は混乱しましたが、だいたい落ち着いてきたように思います。
最近では、あまりにも個人情報保護が行き過ぎ、社会生活上ひどく不便なことになってしまっていたり、地域コミュニティの形成を妨げたりしているケースが目立ち、反省期に入っています。
川本眼科でも、最近、個人情報の取り扱い方法を改め、暗証番号方式を廃止いたしました。このことのお知らせを兼ねて個人情報保護の問題点を取り上げます。
家族への情報提供
個人情報保護法では、たとえ家族であっても本人の承諾なしに個人情報を知らせることを禁止しています。
確かに、家族であっても知らせたくない事項というものはあります。患者本人が「知らせないで欲しい」と希望しているのに家族に伝えるのは間違っています。たとえあらかじめ聞いていなくても、性感染症の検査結果などは本人に確認した上でなければ家族には知らせないのが当然です。
しかし、一般的には家族に病状を知らせないでほしいという人は少数です。家族が病状説明を求めて来院したときに、「本人の同意書がないとご説明できません」と追い返すのが親切な対応とはとても思えません。できればその場で説明したほうがよいに決まっています。
家族に限りません。学校の先生とか、介護のヘルパーさんとか、家族以外にもある程度の病状説明が必要になります。
電話での問い合わせ
電話では、本当に患者さん本人がかけているのか確認することができません。他人がなりすましていても見抜けません。生年月日で本人確認することはよく行われていますが、生年月日など簡単に調べることができますから、本人確認法としては心もとない方法です。
そこで、個人情報保護法を厳密に守ろうとすれば、電話での問い合わせには応じないほうがよいとされています。
しかし、もちろん、電話での問い合わせをすべて断るというのでは不親切きわまります。
暗証番号方式の理想と現実
個人情報保護法を遵守しながら、不親切にならない対応をとるために当院で採用した方法が「暗証番号方式」です。あらかじめ暗証番号を決めておいていただき、電話の場合は暗証番号を知っている方だけに個人情報を伝えます。病状説明は暗証番号を知っている方のみに行います。
患者さんは個人情報を伝えてもよい人にだけ暗証番号を教えればよいわけです。どの範囲の人に個人情報を伝えるか、患者さんの意向を最大限に尊重する理想的な方法のはずでした。
しかし、現実にはうまくいきませんでした。
まず、患者さん自身が暗証番号を忘れてしまうケースが続出しました。忘れてしまったら個人情報を絶対に伝えないのが本来正しい対応ですが、実際にはそういうわけにもいかず、かなり柔軟に対応しました。もちろん、それではわざわざ暗証番号を決めておく意味がありません。
病状説明を求めて来院した家族もほとんどの場合、暗証番号をご存じありませんでした。家族から本人に電話で暗証番号を尋ねてもらいましたが、電話が通じなかったり、本人も忘れていて困ることがありました。
そこで、本年7月から暗証番号方式は廃止することにいたしました。
事前に包括的な同意を
暗証番号のかわりに、個人情報を下記のように取扱うことをあらかじめ同意しておいていただくことにしました。
まず、家族にはいちいち患者さんの同意を取らずに説明してよいことにします。その際、身分証明書の提示を求めることも通常はいたしません。身分証明書を持参していないことも多いですし、家族の方に不快感を与えるからです。そもそも、眼科では、どうしても秘密にしておかなければならないような事項は通常ほとんどありません。
電話でのお問い合わせにも、特別不審な点がない限り、応じることにいたします。なりすましを見抜くことはできませんが、そのことで患者さんに不利益がおこる状況というのはきわめて考えにくいと思います。
もちろん、保険会社の人や報道関係者などからの問い合わせには、患者さん本人の同意がない限り答えることはありません。こういう人たちが身分を偽ることは考えにくいことですから、それでまず問題はおこらないと思います。
そのほか、現実にはさまざまなケースがありえるので、すべて事前に想定しておくことは不可能です。患者・家族の便宜を最優先にして、できるだけ患者さんの不利益にならないようにするという方針に基づき、ケース毎に院長が判断させていただきます。
以上のような趣旨の包括的な同意書を事前にいただいておくことで、不便・不利益をできるだけ避けることにしました。
なお、万一同意がいただけない場合には、家族への説明には患者さん本人の同意書が必要になりますし、電話でのお問い合わせにはお断りせざるを得ないことになります。ご了解ください。
個人情報保護の行き過ぎ
個人情報の取扱いに注意することはもちろんですが、最近は行き過ぎが目立ちます。
学校などで名簿を作らなくなったり、病院に身内が入院しているか問い合わせても教えてくれなかったり、試験の成績掲示が名前でなく番号だけになったり、すごく不便になったと感じるのは私だけでしょうか?
法律家は、そういったことは過剰反応で、何ら法律に抵触しないと言っています。
個人情報を隠すことを究極まで追求すると、人と人とが関わりを持たない完全な匿名社会になってしまいます。インターネットやコンピュータに営業目的で大量に集めるのでなければ、あまりやかましいことを言わないほうが住みやすい社会だと私には思えるのですが・・・
2007.8