川本眼科

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川本眼科だより

川本眼科だより 93患者と医師の会話 2007年11月30日

医師は患者さんにいろいろとお尋ねして病気に関する情報を得ます。昔は「問診」と言っていましたが、今は「医療面接」なんていうもっともらしい名前で呼ぶそうです。

最近は医学部で医療面接の技術に関する講義があり、実習も行われるんだそうです。私たちの世代では医師になってから見よう見まねで覚えました。結局は経験を積んで体得していくしかないことではあります。

今回は診察室で行われる患者と医師の会話を取り上げてみました。

オープン・クエスチョン

「今日はどうされました?」

「調子はいかがですか?」

「何かお変わりないですか?」

このような質問で私(院長)は患者さんとの会話を始めます。おわかりのように、非常にあいまいで、どういう答でも可能な感じです。

こういう質問の仕方を、気取った学術用語ではオープン・クエスチョンOpen-ended Question  と言います。患者さんの発言を制限せず、患者さんの気にかかっていることを自由に話していただくわけです。

忙しいとこういう手続を省略して失敗することがあります。右目の手術後なので右目ばかり一生懸命診察して、右目の所見を説明していたら、「先生、今日は左目のめんぼを診てもらいたくて来たんだけれど」

こんなことも実際ありました。

患者さんの満足

患者さんにとって、「言いたいことが十分話せた」ということは重要です。

医師が途中で患者さんの発言を強制的に遮ってしまうと、言いたいことが話せず、不満が残ります。「あの先生は話を聞いてくれない」ということになってしまいます。

実際には、患者さんがこだわっていることでも、医学的にはあまり重要性がないことがあります。

例えば、飛蚊症の患者さんは一生懸命どんな風に見えているのかを説明されますが、実際にはどう見えようと診察には大して役に立ちません。

それでも、できるだけ話を遮ったりせず、最後まで聞くことが大切で、それによって患者さんの満足が高まり、信頼関係ができるわけです。

脱線

ただ、困ることもあります。

高齢者でしばしばおこるのが話があらぬ方向に脱線してしまうことです。

孫の話や飼い猫の話が延々と続いたり、腰を痛めて往生したときの話が止まらなかったりします。

理想を言えば、そういう話もすべてよく聞いたほうがよいのです。その患者さんがどんなことに一番関心があるのかがわかりますし、生活習慣上の問題を発見することもあります。少なくとも、患者さんは話を聞いてもらって満足します。

ただ、残念ながら現実の外来は忙しすぎます。病状が安定していれば3分、いろいろ問題がある場合でも最大15分で診ていかなければ外来がパンクし、待ち時間が長すぎると苦情が来ることになります。(実際に苦情は絶えません)

その日の外来の混雑状況に気を配り、時間切れだと判断すれば、途中で話を遮って、YES-NOで答えられる質問に変えたり、器具を使った診察を早めに始めたりすることになります。

細かい点の聞き出し

自由に話していただく一方で、具体的に細かい点を明確にすることも大事なことです。

例えば、目が痛いという訴えなら、

「どこが痛いのですか?」

「鋭い痛みですか、重苦しいような痛みですか」

「いつから痛みますか」

というように、細かい点をお聞きして、診断に必要な情報を引き出していきます。

このような質問も診断のためにはやっぱり必要です。特に症状の現れた時期というのは診断上重要な手がかりになるので詳しくお聞きするのですが、多くの方は記憶があいまいです。

「いつ頃から痛くなったのですか」

「最近です」

「最近というのは、昨日からですか、1週間前からですか、1ヶ月前からですか」

「うーん、かなり前からなんとなく変だったんですが、ここのところ、痛いな、と感じることが多くなって・・・」

「その、かなり前というのはいつ頃で、ここのところというのはいつからですか?」

「いつからかなあ・・・」

こんな感じでなかなかうまくいかないことも多いですね。かと言って、あんまり詰問調で聞いていると警察の尋問みたいになってしまいます。

相づち・共感

患者さんの話に賛成できなくても、むげに完全否定してしまうことはよくありません。これは友だち同士で会話をするときだって同じだと思いますが、ある程度相づちをうち、共感を示すことが大事です。

これはあたりまえのことで、自分の言うことに真っ向から反対し、「あんたは間違っている」みたいなことを言われたら、誰しも相手に好意は持てないですよね。人間関係で感情が関係する部分は非常に大きく、患者-医師関係も例外ではありません。誰しも嫌いな医師には診てもらいたくないのです。

そういうことは百も承知でも、あまりにも変な話だと強く否定してしまうこともありがちです。医師も人間ですから仕方ないですよね。後になってから「あの態度はまずかったかな?」と反省することもしばしばです。

マニュアル化はできない

「医療面接の技術」なんていうマニュアル本が出版されています。確かにある程度は一般化できる部分もあります。ある程度は話を引き出すテクニックというものもあります。

しかし、ハンバーガーを売るような商売とは違い、あらかじめあらゆる問答を想定してマニュアルとして準備しておくなんてことができるはずもありません。患者さんは一人一人違いますし、病気の現れ方もケースごとに異なります。

月並みですが、結局最後は、誠意をもってきちんと話を聞き、誠実に対応するということにつきると私は思います。

2007.11