川本眼科だより 106眼内レンズの度数決め 2008年12月31日
白内障の手術は時期を選ぶことができます。早めに手術しても、進んでから手術しても、術後の見え方に大差はありません。
そうは言っても、早めに手術したほうが良い点もいくつかあります。
その1つが眼内レンズの度数合わせの問題です。あまり進行してからの手術だと、度数合わせが不正確になり、誤差が出やすいのです。
水晶体を取って眼内レンズに
白内障は水晶体が濁る病気です。水晶体はレンズの働きをしているので、水晶体が濁ると、もやがかかったようにかすんで見え、光がまぶしく感じられるようになり、視力も低下します。
白内障手術では、濁った水晶体を取り除き、代わりに「眼内レンズ」を入れます。要するにレンズを交換するわけです。透明なレンズに代わることでよく見えるようになります。
眼内レンズは人工のレンズですので、メガネやコンタクトと同様に、レンズの度数を希望に合わせて選択することができます。
通常は正視かごく弱い近視を狙います。ぴったり合わせられれば、日常生活はメガネなしでさほど困らず、字を読むときだけ老眼鏡をかければよい、という状況になるので便利です。
近視を狙うこともあります。もともと強い近視だった方は、遠くがぼやけても苦にせず、近くがぼけるのを嫌う傾向があるからです。30cmなり1mなり特定の距離がよく見えます。
遠視は避けます。遠方も近方もピントが合わないので、メリットがないのです。
眼内レンズの度を合わせる
正視か近視か、その方の希望に合わせて、眼内レンズの度を手術前に決めています。
手術前に眼球の奥行き(眼軸長)を測り、角膜のカーブを計測し、計算で求めます。残念ながら完璧なものではなく、どうしても誤差が出ます。
昔に比べると度数合わせは正確さを増し、大きくずれることは少なくなってきました。それでも狙った通りにぴったりと、とはいきません。
例えば「裸眼視力1.0にして」などと要求されても無理です。たまたまうまくいって裸眼で1.0になることはありますが。
メガネやコンタクトなら、実際にかけてみて合わなければまた修正すればすみます。それに対し、眼内レンズは入れたり出したりするわけにはいきません。一発勝負です。
誤差でずれた分はメガネで調整します。そもそも、眼内レンズでは乱視の矯正はできないし、老眼の問題もありますから、手術の後でも全くメガネが要らなくなるわけではありません。
「メガネなしでもそんなに困らないが、メガネをかけたほうがもっとよく見える」という感じになると思って下さい。
もちろん、「このくらい見えれば十分だし、メガネはうっとうしいから要らない」という方は結構いらっしゃいます。
眼球の奥行きを測って計算
眼内レンズの度数を決めるためには、眼球の奥行きの長さを測らなければなりません。この奥行きの長さを眼軸長(がんじくちょう)と言います。
眼軸長の測定が、眼内レンズの度数決めの精度を上げる鍵を握っています。角膜のカーブは比較的正確に計測できます。計算式自体も改良の余地があると言われてはいますが、専門の研究者でなければどうしようもないことです。結局残るのは眼軸長の測定というわけです。
現在2種類の測定方法があります。レーザーを使った測定法と、超音波を使った測定法です。
レーザーのほうが測定精度が高いのですが、欠点は測定できない場合があることです。白内障が進んで水晶体の混濁が強くなると、レーザー光線が透過しにくくなってしまい、測定不能となるのです。
超音波は測定精度がレ-ザーより悪くなりますが、水晶体の混濁がいくら強くてもほぼ100%測定可能です。
つまり、超音波だけですますことは可能ですが、レーザーで測定する場合は両方の機械を揃えなければなりません。そのため、レーザー測定機は徐々に普及してきているものの、まだ多くの眼科では超音波測定機しか置いていません。
川本眼科はかなり早い時期からレーザー測定機を使っています。声高に宣伝しているわけではありませんが、当院の隠れた自慢です。
白内障が進むと精度が落ちる
白内障が進んで水晶体の混濁が強くなるとレーザーでの測定ができなくなり、超音波で測定することになります。その結果、眼内レンズの度数決めの精度が落ちてしまいます。
つまり、白内障があまり進行しすぎないうちに手術したほうが、狙った度にぴったり合わせやすいわけです。手術時期は選べるとはいえ、待ちすぎるのも考えものということです。
あらかじめ眼軸長測定
最近、川本眼科では、白内障がまだ初期で手術は先になるような場合でも、散瞳をした機会にあらかじめ眼軸長を測定しておくことにしました。
2~3年ごとに測定し直す予定です。
手術の直前にレーザー測定ができなくても、あらかじめ測定しておいたデータを使って眼内レンズの度数を決めることができます。
何年も受診していなかった場合、測定時と手術時で眼軸長が完全に同じか保証はできないでしょうが、それでも超音波で測定するよりは正確だろうと考えたわけです。本当にそうなのか、後日よく検証してみなければなりませんが、患者さんにより良い視生活を送っていただきたいという取り組みの1つです。
もっとも、そこまでサービスしていても、いざ手術という時に患者さんが他の眼科に行ってしまうと、私たちは骨折り損のくたびれもうけなんですよね。(^o^)
2008.12