川本眼科

文字サイズ

小 中 大

川本眼科だより

川本眼科だより 108女性医師 2009年2月28日

女性医師は増えています。これは時代の流れで止めることはできません。

女性医師が増加したにもかかわらず、そのことに対応した環境整備を怠ってきたことが、医師不足問題の一因になっています。

女子医学生の増加

私が医学生の頃、同学年約100人中に女子学生は5人だけでした。最近母校の名簿を見てみたら女性と思われる名前が1学年に25人います。時代は変わったなあとつくづく思います。

医学部学生の男女比率を調べてみました。個々の大学で発表しているところはあっても、日本全国の統計はないようです。感触としては30%を超えて40%に迫りつつあるようです。次第に増えているので、将来はおそらく男女ほぼ同数になるのではないかと予想されます。

能力に男女差はないが

医師としての能力に男女差があるとは思いません。大きいのは個人差のほうです。優秀な医師もいればダメな医師もいるのは、男でも女でも変わりません。

ただ、男と女では社会的な立場が異なるようです。男性医師のほとんどは家事や子育てをする必要がありません。結婚すると家庭のことは奥さんに任せて仕事に専念できます。これに対し、女性医師の多くは、家事や子育ての負担を一人で背負います。日本社会における男女の役割分担は簡単には変わりそうにありません。

仕事優先を選んだ女性医師

医療現場では、初めは男も女も同じように仕事をしているのですが、結婚・出産・育児を機に、女性医師は「仕事か家庭か」という選択を迫られます。どちらを選ぶかによって二極分化する傾向が顕著です。

仕事優先を選んだ場合、家事や育児は誰かに委ねることになります。多くの場合は肉親、とくに母親です。母親に専業主婦になってもらって女性医師は働くという構図は、専業主婦の妻を持った男性医師が家庭のことはすべて任せて働くのと同じです。

専業主婦役になってくれる人がいなければ、家政婦・保育園・ベビーシッター等々をとんでもなく長い時間頼まざるを得ません。所得制限により公的補助は全く受けられませんから、必要なだけ頼むと給料と同じくらいの金額がかかってしまって、何のために働いているのかわからないような状況に陥ります。

実際、フルタイムで働く女性医師には時間の余裕が全くありません。患者の容態次第で病院に貼り付けになりますし、救急のために呼び出されることもしばしばです。患者や家族に説明を求められれば時間を割かなければならないし、書類書きなどの雑務も年々増える一方です。家庭との両立なんて夢物語で、「男並みに仕事一辺倒」になってしまいます。

その代わり、男性医師と同等のキャリアを積み、手術の腕も上がりますし、論文や学会発表で評価される機会も増えます。大病院の部長になったり、大学教授になったりした女性医師は、そういう生活をしてきたと思って間違いありません。

家庭優先を選んだ女性医師

家庭優先を選ぶ女性医師は多く、女性差別の障壁が取り除かれてきたのに、むしろ昔に比べて若い女性医師の意識は保守化しているように感じられます。

女性医師の多くは、週に2回だけ出勤とか、手術はせず外来だけ出るとか、当直は免除とか、家庭に比重を移した働き方になります。多忙で厳しい職場だと辞めざるを得ません。

女性医師は経験を積むことができなくなり、仕事一筋の男性医師に実力で差をつけられてしまいます。私と同年代の女性医師たちの多くは、そのことにすごく悩んでいました。今の若い女性医師たちは、屈託がないというか、最初から男と同じように働こうなどとは思っていない様子なのは、ちょっと寂しい気がします。

医師不足の一員に

さて、家庭優先を選ぶ女性医師が多くなると、当然、医療現場の実働医師数は減ってしまいます。昨今問題になっている医師不足は、女性医師が増えたことも影響しています。そう言えば、医師不足が顕著な産婦人科や小児科は、女性医師が多い科でもありますよね。

女性医師自身ももちろん非常に苦労しているわけですが、女性医師が多くなると、一緒に働いている同僚の医師も相当大きな影響を受けます。例えば、女性医師が当直をしてくれなければ、同僚の医師がその肩代わりをしなければなりません。

女性医師が多くなれば、同僚も女性ばかりという事態もありえます。誰も仕事の肩代わりができなければ、入院数を減らすとか手術を中止するとか、何らかの診療制限が必要になります。

女性医師のための環境整備

もっと前から、女性医師の増加に合わせて対策を立てておくべきだったのです。

女性医師が家庭に入って仕事をしなくなる分を見込んで医師数を増やすか、あるいは女性医師が働きやすい環境を整備してできるだけ長い時間女性医師に働いてもらうか、どちらかということになるでしょう。

医学部定員の増員は大慌てで実施されました。来年度は一気に770人(総定員の約1割)も増やすそうです。ただ、医師の養成には時間がかかり、効果が出るのは8年以上先の話です。

女性医師に働いてもらうためには、託児所や保育園などを整備し、安心して子供を預けられるようにすることが不可欠です。仕事で夜遅くなっても預かってくれなければ役に立ちません。

今の保育園だと、なかなか入れなかったり、入れても「お迎えは遅くても6時まで、熱が出たらすぐに迎えに来て下さい」みたいな感じですから、女性医師は安心して働くことができません。

逆に、この点さえ劇的に改善すれば、女性医師は職場に戻ってくるでしょう。少なくとも、女性医師が出産や育児を機に病院をやめてしまうことが減るはずです。

給付金みたいなバラマキでなく、こういうことに税金を使ってほしいものです。

2009.2