川本眼科だより 126累進メガネ 2010年8月31日
40歳代半ばから老眼に悩む人が増えます。個人差が大きくて、40歳になる前から老眼鏡のお世話になる人もいますし、50歳を超えてもメガネなしで平気な人もいます。
それでも最後はやっぱり歳には勝てず、シニア用のメガネをかけることになります。(私も昨年からかけ始めました)
今回は累進焦点眼鏡(累進メガネ)、すなわち「境目のない遠近両用メガネ」の話です。
二重焦点と累進焦点
遠近両用メガネには、窓のように境目が入っているものと入っていないものがあります。
二重焦点眼鏡は境目が入っているタイプです。
遠方が見えるように合わせたメガネの下方に窓がついていて、近方を見る時はこの窓から見るのです。わかりやすいのが一番の利点で、歪みもありません。ただ、遠用部と近用部の境目で像がとんでしまうのが欠点です。また、中間距離にピントが合わなくて困ることもあります。
累進焦点眼鏡は境目のない遠近両用です。
バリラックスという名前に馴染みがある方も多いと思います。この名前は世界で初めて累進焦点眼鏡を発売したフランス・エシロール社の登録商標で、このタイプの眼鏡の代名詞になっています。
段階的に度が変わり、像がとんでしまうことがありません。また、他人からは遠近両用か否かわからないため、「老眼鏡を使っていると思われたくない」という要望に応えるメガネでもあります。現在遠近両用メガネの主流になっており、集中的に研究開発が続けられています。
遠近/中近/近々
累進メガネは様々な設計が可能で、用途によって遠近/中近/近々などと分類されています。ただ、実はそんなに明確に分けられるものではありません。一般の方にわかりやすくアピールするためのキャッチフレーズです。遠近はともかく、中近や近々は言葉遊びですね。
遠近も中近も、上方は遠方が見えるレンズ、下方は近方が見えるレンズになっていて、中間部分は段階的に度が変わり、中間距離が見えるようになっています。
遠方・近方は相対的なものでメガネによって違います。
完全矯正にするのか低矯正にするのか、老眼はどの程度か(調節力は残っているのか)によっても違います。ですから正確には定義できません。ただ、それでは不親切ですから、あえて誤解を恐れず大ざっぱな目安を申し上げると、近方とは30cm~40cm、中間距離とは40cm~1m、遠方とは1m~無限遠をさすとお考え下さい。
遠近は遠6中1近3くらいに設計したメガネ、中近は遠2中4近4くらいに設計したメガネです。遠中近をどのような比率にするかは自由度が大きく、設計思想によって様々なメガネが可能です。
最近の中近は遠用部をかなり広くとって常用を可能にしたものが増えており、遠近/中近の分類に迷うレンズもあります。
遠近レンズ
遠近は上方に遠方を見るためのレンズ面積が広く確保してあります。下方は近方を見るための老眼鏡部分ですがその面積は狭くなっています。近くを見る時にはそれほど目をきょろきょろ動かすことが少ないだろうと想定しているのです。
中央は段階的に度が変わる「移行帯」です。ここで中間距離が見えるはずなのですが、遠近の場合は移行帯が狭く、度が急に変化するため、歪みが強くなって見にくく、あまり役に立っていないようです。
遠近はあらゆる状況に対応できる万能レンズと宣伝されていますが、実際には制約が多くて決して万能ではありません。
例えば、日本語に多い縦書きの本を読む時は目線を動かさずに頭を上下に振りながら読む羽目になります。これは不自然です。
また、足元を見ようと目線を下にするとピントが合いません。お辞儀をするように頭を下げないと足元はよく見えないのです。遠近レンズに慣れていない人は階段を踏み外しそうになって怖い思いをすることになります。
初めて遠近両用を使う方が欲張って老眼鏡部分を近くに設定しすぎると(加入度3.0D)おこりやすく「遠近は怖くて使えない」という評価になってしまいます。対策としては老眼鏡部分を60cmにピントが合う程度(加入度1.75D)に控えることが有効です。それでは本が読めませんが、読書用には専用の老眼鏡を用意して使い分けて下さい。
中近レンズ
中近は遠近の遠用部分を狭くし、「移行帯」を広くとって中間距離を重視したレンズです。近用部分(老眼鏡部分)も広く、デスクワークなど室内での作業が多い方に適しています。遠近は遠用重視、中近は近用重視なのですね。
最近はパソコンを長時間使用する仕事が増え、多くの方が疲れ目を訴えます。単焦点レンズから中近に替えることで改善することが期待できます。30歳代くらいの若い方でも目の疲れが軽減することがあります。遠近では対応できません。
実は私(院長)も中近レンズを常用しています。昨年51歳になって初めて遠近メガネを作りましたがどうも使いにくく単焦点に戻ってしまい、今年になって遠方を重視した中近レンズを作ってみたらなかなか具合がよいので現在は常用しています。車の運転も特に支障ないようです。私の場合、加入度が弱いのとパソコンを使う時間が長いのが成功した理由でしょう。
近々レンズ
近々は遠方をカットし、30~60cmくらいの距離に特化した累進メガネです。新聞を広げた時に端から端までピントが合うようにという設計思想です。これだけで用が足りるわけでなくメガネの使い分けが必要となり、中途半端という意見が多いのですが、あくまでも老眼鏡の一種と割り切ればこれはこれで便利です。
単焦点の老眼鏡よりピントが合う範囲が広いのが利点です。反面、累進レンズにつきものの歪みは避けられません。普通は気にならない程度ですが、人によって好みが分かれるところです。
トライアルレンズがない
メガネ処方の際には、メガネ枠にレンズを入れて見え方を確認していただくことが大事です。これを装用テストと呼び、川本眼科では眼鏡処方時に必ず実施しています。
累進レンズにはお試しのためのトライアルレンズが用意されていますが相当に高価であり、現在川本眼科では遠近・中近・近々それぞれ1種類だけトライアルレンズを用意しています。
しかし、設計思想の異なる別のレンズで装用テストをしても実際にできてくるメガネとは異なってしまい意義が薄れます。眼鏡メーカーが無償で提供して下さると助かるのですが。
2010.8