川本眼科

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川本眼科だより

川本眼科だより 134地震と医療 2011年4月30日

東北地方太平洋沖地震で被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。

1日も早く復旧復興し、落ち着いた生活が取り戻せるようお祈りしております。

地震の被害は甚大でした。起こるはずがなかった原発事故も起きてしまいました。ニュースを聞いて不安を感じられた方は多いと思います。

ふだん、私たちは地震や事故の可能性を考えたりはしません。日々の生活に取り紛れて忘れていることが多いでしょう。あの阪神大震災を経験しても、時間が経てばまた忘れてしまう・・それが人間の常です。

地震の衝撃が覚めやらぬ今こそ、地震の時の医療問題を真剣に考えてみましょう。

 

医療機関の停電対策

手術や処置を受けている最中に大地震が直撃したらもちろん大変でしょうが、揺れ自体は仕方がありません。建物が倒壊することはまずありません。揺れが収まってから医師が何とかします。

むしろ、そんなに大きな地震なら病院より木造家屋の中にいるほうが危険かも知れません。

揺れ自体には耐えられても、停電する可能性はかなり高いでしょう。医療機器のほとんどは電気で動きます。停電したら手術は続けられません。幸い、大病院には自家発電機が整備されています。緊急時には自家発電に切り替わるので大丈夫なはずですが、ちょっと心配もあります。

突然の停電と通電再開の際には瞬間的にきわめて大きな電圧がかかり、それが原因で機器が故障してしまう恐れがあるのです。生命維持に必要な機器なら対策がしてありますが、コスト高になるため対策していない医療機器もあります。例えば計画停電で人工透析機やモニター装置が故障したと報道されています。

透析は1日おきくらいに長時間電気を使いますから、停電が長引くと自家発電でまかなうのは困難です。患者さん自身を移送するよりないと思います。

小規模な医療機関にはふつう自家発電機はありません。あってもせいぜい1000ワット供給できる程度の小型発電機でしょう。医療機器を1つか2つ、数時間動かせる程度です。それでもないよりましなので、当院も1台用意しておくことにしました。(今注文すると被災地に迷惑をかけるので1年後くらいに)

医療用コンピュータやサーバーには無停電電源装置が付いていますが、これは停電時に故障しないためのもので、15~30分くらいしか保ちません。

被災時に病院で不足するもの

大地震が起きると病医院も被害を受けて診療が続けられなくなることが多いでしょう。被害が軽く診療が続けられても医薬品が不足します。薬だけでなく、プラスチック手袋、留置針、点滴ラインなども不足します。おむつやお尻ふきなど衛生用品は消費も激しいのですぐ不足します。

こういう非常時に下痢、嘔吐、発熱等に伴う脱水に対処するには点滴だけに頼るのは現実的でなく、経口補水塩(塩分・糖・水の混合物で言わば飲む点滴)が有効です。ポカリスエットである程度代用できます。

以上のような物資は病医院特有ですが、今回の東北沖地震で被災した医療機関からの要請をみると、むしろ燃料とか食料とか水とか通常の生活で必要な物資が不足していました。入院患者さんにとっては生活の場ですし、職員もガソリン不足で車通勤ができず、多くは病院にずっと泊まり込みのようです。

非常時に必要な薬

非常持ち出し袋には薬も忘れないで入れておきましょう。被災した場合、薬が入手できるまで1週間くらいかかると考えたほうがよいでしょう。ですから、その薬がなければ翌日から困るのか、1週間くらいはなくても大丈夫なのか、あらかじめ知っておくことは大切です。

糖尿病薬は、のまないと血糖が400mg/dl以上になる場合があり、命に関わります。高血圧の薬も、のまないと200mmHg以上に上がって 脳卒中のリスクが大きくなります。

ステロイド(プレドニンなど)やワーファリンなども中止するとまずいですね。こういう薬は、携帯用のピルケースに入れていつも持ち歩いていたいものです。薬を入れておけるロケットペンダントも市販されています。首からぶら下げておけば安心ですね。

携帯用ピルケースに入れておく薬には日付を書き入れておいて下さい。定期的に新しい薬と入れ替える必要があります。もらってから1年以上経ったら処分したほうが安全です。

一方で、1~2週間ぐらいなら無くても構わないという薬もあります。目薬の多くはこちらに入ります。緑内障の目薬をしばらく中止していても眼圧が多少上がる程度で、薬が入手できてから再開すればまず問題ありません。(もちろん、何事にも例外はあります)

原発事故と放射線

話は変わって、今回は原発事故がおこりました。放射線の量が少なければ急性放射線障害はおこらないので「直ちに健康に危害を及ぼすことはない」のは確かです。しかし、癌になる可能性が高くなる、という意味では「これ以下なら絶対安全という閾値はない」と考えられていて、どんなに少ない被曝でもそれなりに癌になりやすくなります。

よくCT1回分以下だから心配ない、という言い方をしますが、もともとCTの被曝量は結構多くて単純X線撮影の約200倍です。それに自分自身が利益を受ける医療被曝と原発事故による迷惑被曝を同列にはできません。

ただ、私のように50歳以上で、もう子供を作ることもないような人間が少々被曝したところで大きな問題にはなりません。癌になりやすくなると言ったって、もともと日本人の2人に1人は癌にかかって死ぬのです。癌死の確率が50%から51%になったって大した違いではありません。

問題は小さな子供(特に赤ちゃん)の被曝、生殖器の被曝で、問題は深刻になります。

そういう意味では、20歳代の若い自衛隊員が原発に向かっていましたが、あの隊員が子供を作る可能性があるなら望ましくありません。できれば中年以降の隊員だけで部隊を編成すべきと思いました。

2011.4