川本眼科だより 146一般名処方の功罪 2012年3月31日
この4月から診療報酬が改定されました。眼科診療所の場合、変更点は少なく、患者さんの自己負担額も今までと大差はないでしょう。
影響が大きそうなのが『一般名処方の促進』です。川本眼科でも部分的に一般名処方を採り入れることにしました。
一般名処方とはどういうことか、なぜ国は一般名処方を広めようとしているのか、どんな問題点があるのか、その功罪をご説明いたします。
一般名処方とは
商品名は製薬会社が商標登録した名前で、包装や点眼容器にも大きく表示されています。普通は医師や薬剤師も商品名を使います。(ただし、学会や論文では商品名を避けて一般名を使います)
例えば「ヒアレイン点眼液」という商品名の目薬があります。ドライアイなどの治療に使います。
ヒアレイン点眼液の主成分は「ヒアルロン酸ナトリウム」です。最近では化粧品やヘアケア用品などにもよく使われています。主成分に基づく名前が一般名で「ヒアルロン酸ナトリウム液」です。
ヒアレインは特許が切れたため、多くの製薬会社が真似をして、主成分が同一の目薬を発売しました。「ティアバランス」「アイケア」「ヒアロンサン」「ヒアール」などがそうです。後発品とかジェネリックと呼ばれています。(元のヒアレインは先発品と呼びます)これらの目薬は商品名は別でも、一般名はすべて同じです。
処方箋に商品名ではなくて一般名を記載することを一般名処方と言います。これは今までは一般的なやり方ではありませんでした。
目的は後発品の使用促進
今回の診療報酬改定では、一般名処方をすると処方箋料が高くなります。何とか一般名処方を普及させようとしているのです。
その目的は後発品(ジェネリック)の使用を促進することです。後発品は先発品より薬価が安いので、後発品のシェアが上がれば医療費を大きく減らすことができるからです。これが「功」です。
しかし、日本ではなかなか後発品が使われません。医師は、後発品の品質や安定供給に不安を感じるため、使い慣れた先発品を好み、処方箋に先発品の商品名を書きます。
薬局は、後発品を数多く揃えるのは大変だし在庫の無駄も出やすいので、先発品に処方が集中したほうがありがたいのです。そのため、薬局が後発品に変更できる制度があるものの、あまり活用されていないのが実情です。
一般名処方が普及すれば、薬局は同じ主成分の薬を何種類も揃える必要がなくなり、有効期限切れの不良在庫が生ずる危険性も少なくなります。
薬局で患者がなるべく薬価の安い薬を希望する可能性が高く、一気に後発品が増える可能性はあるでしょう。
同じ一般名でも少しずつ違う
一般名処方に問題はないのでしょうか?
実は、同じ一般名の薬でも、添加物は異なります。各社それぞれに工夫しているので、先発品にはない特徴を持った製品もあります。例えばヒアレインの後発品「ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液『日点』」は防腐剤を入れる代わりにフィルター付きにした目薬です。その代わりに点眼容器が固くてさしづらいのが欠点です。そこで、患者さんを選んで処方しています。
こういう場合、一般名処方では細かい選択が困難ですから、商品名で処方することになります。もともと、「同じ一般名ならすべて同じ薬」というのが一般名処方の前提になっているのですが、この前提自体が正しくないわけです。
見本を見せる説明は不可能に
私は、目薬の点眼容器見本を患者さんにお見せしながら使用法の説明をすることがよくあります。複雑なさし方の場合や、相当な高齢者の場合には、患者さんの理解を助ける上でとても有効です。
一般名処方になると、薬局がどの目薬を出すか事前にはわからないわけですから、見本を見せて説明することは不可能になります。
見本の問題に限らず、医師が多数の後発品のうちどれが処方されたか知らないというのは、決して好ましいこととは言えません。このことは一般名処方の最大の「罪」だと考えます。
一般名をもっと短く
一般名処方を妨げているもう1つの問題は一般名が長すぎることです。極端な例ですが、「ムコファジン点眼液」の一般名は「フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム・コンドロイチン硫酸エステルナトリウム液」です。さすがに、これを手書きでカルテや処方箋に記載するのは無理があると言わざるを得ません。
本気で普及させたいのなら、一般名はもっと短くする必要があります。正式名称とは別に、略称を決めたらよいのではないでしょうか。先ほどの例で言えば「FADコンドロイチン液」などと略称を決めて厚労省や学会がお墨付きを与えればよいのです。省略の仕方がバラバラだと混乱の元になりますから、「正式な略称」を定めるのがポイントです。
川本眼科では部分的に採用
一般名処方への全面的な移行には多々問題があり、ほとんど不可能だと思います。最大の理由は前述したように同じ一般名でも薬の中身が少しずつ違うことです。
ただ、一般名処方のメリットを増すためには、できるだけ多くの医療機関が一般名処方を採り入れることが必要だと理解しています。そうでないと薬局の在庫問題も解決しません。川本眼科として協力できる点は協力したいと考えております。検討した結果、結論として「可能なことから一般名処方に順次切り替えていく」ことにしました。
患者さんにはご迷惑がかからないよう配慮しながら勧めていくつもりです。何かお気づきの点があれば御指摘ください。
(2012.4)