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川本眼科だより

川本眼科だより 168老眼と付き合う 2014年1月31日

誰しも老眼になります。「老」という字を使うのが適切とは思えない40歳代から老眼との戦いは始まります。

多種多様な老眼対策があります。それは裏返せば決定版と言えるような完璧な対策はないことを意味しています。

今回はどのように老眼と付き合っていくか、すぐできる対策を考えてみようと思います。

老眼とは調節力の衰え

人間の目には水晶体というレンズが入っていて、水晶体の厚みを変えることによってピント調節をしています。何もピント合わせの努力をしない状態で無限遠にピントが合っている状態を「正視」と言います。正視の人は遠くはよく見えます。歳を取っても遠くは大丈夫です。近くを見る時には毛様体筋(=ピント調節のための筋肉)を緊張させて水晶体の厚みを増すことによってピントを合わせます。

ちなみに遠視は無限遠を見る時もピント調節をしている状態です。正視より余分に調節の努力をしなければなりません。近視はピント合わせをしていないのに1mとか30cmとか有限の距離にピントが合っている状態で、近くを見るには楽ですが遠くにピントを合わせられないので困ります。

老眼はピント調節力の衰えを言います。原因は(1)水晶体がだんだん固くなるため、(2)毛様体筋の力が弱くなるためです。特に前者の影響が大きいとされています。水晶体は赤ちゃんの時が一番柔らかく、年齢に比例して固くなります。20歳でも10代よりは固いのです。

グラフをご覧いただくと一目瞭然で、年齢とともに調節力は一直線状に低下しています。10歳以下は調べていないだけで、生まれてすぐから加齢変化は始まっていると考えられます。

シニアグラスをかけよう

シニアグラス(=老眼鏡)は老眼対策の基本です。当たり前すぎるでしょうか。ただ、眼科医をしていますと、メガネをかけることに頑強に抵抗される方が多く、説得に苦労します。

原因は慣れと習慣です。近視の方は若い時からメガネをかけていて慣れているのに対し、正視の方は40歳代までメガネをかける必要がなかったため、メガネをかけることをうっとうしく感じ、抵抗感が大きいのです。

もう1つは「老眼鏡を早くかけると老眼が早く進む」という都市伝説です。信じ込んでいる人も多く、眼科専門医の私が否定してもなかなか納得してもらえない程です。確かに年齢とともに老眼は進みますが、それは別にメガネのせいではなく、老眼鏡をかけてもかけなくても同じです。

老眼鏡をかけないでいると、それだけ余分にピント調節の努力をしなければなりません。ピントの調節力が衰えて余力がない状態で無理をすると、眼精疲労と呼ばれる状態になり、目が重く感じたり鈍痛を感じたりします。重症になると、肩こり、頭痛、吐き気などを引き起こすことがあります。

 照明を明るくする

老眼になると暗いところが苦手になります。暗いと瞳孔が開きます。瞳孔はカメラで言えば絞りに当たります。絞りが開いているとピントが甘くボケやすくなるわけです。

照明を明るくすると瞳孔が縮むので、ピントが合いやすくなります。老眼以外でも、乱視でも近視でも見やすくなります。部屋全体の照明を明るくすることももちろん有効ですが、老眼の場合読み書きが不自由なので、電気スタンドなどの補助照明を上手に組み合わせるとよいでしょう。

ただ、高齢になると白内障になる方も増えます。白内障だと乱反射してまぶしく感じて、かえって見づらくなることがあります。白内障の場合、波長の短い青色光は散乱しやすく波長の長い赤色光のほうが水晶体を通過しやすいため、昼白色より電球色のような赤みがかった光のほうが楽に感じられることは知っておくと役立つでしょう。この辺は実際に試してみるしかありません。

電子書籍の勧め

老眼になると細かい字が読めなくなります。対策として字を大きくすることが効果的です。

新聞の活字が昔に比べてずいぶん大きくなったのは老眼対策です。何しろ、今や新聞の読者層の中心は40~70歳代ですから。

岩波文庫ワイド版なんていうものもあります。読者層が高齢化してきたことに対応したのです。ただ、残念ながらワイド版が発売されているのは岩波文庫の中でもごく一部です。

そもそも、字を大きくすると同じスペースに盛り込める情報量が減ってしまうという問題があります。活字を大きくした本は、その分大きく重くなってしまいます。ですからむやみに字を大きくするわけにはいかないのです。

電子書籍はこの問題を一気に解決してしまいました。文字の大きさを好きなように変更でき、しかも重たくなく、かさばりもしません。老眼にはぴったりです。

私(院長)は今でも紙の本のほうが読みやすくて好きですが、外出時に紙の本は持ち歩かなくなりました。iPadに電子書籍を百冊くらい入れておいて気分で選びます。時には旅行先のホテルで紀伊國屋書店ウェブストアから新たな電子書籍を買って読みます。荷物が軽くなりました。一度買えば同じ本をパソコンでもスマホでも読むことができ、便利です。

ルーペを使う

ルーペ(虫メガネ)も有効です。拡大すれば見やすくなります。  ただ、ルーペと目の距離は10~30cmくらいで、老眼だとルーペで拡大してもぼけてしまいます。ですから、もともと老眼の人がルーペを使う場合は、老眼鏡とルーペを併用するのが正しいのです。ご存じでした?

ルーペで有名なのはエッシェンバッハ光学というドイツのメーカーです。ホームページには、手持ちルーペも机に置いて使うタイプのルーペもスタンド式のルーペもたくさんあります。値段が少々高いのですが、それだけの価値はあります。東急ハンズ、丸善、キクチメガネなどで買えます。

お勧めしたいのは照明付きのルーペです。見たいところを局所的に明るく照らすので、とても見やすくなります。手持ちの場合は重たくなる欠点がありますが、置き型なら重たくなっても問題ありません。

今回は手術などの特殊な対策には触れていません。明日からでもできることばかりです。老眼と上手に付き合い、人生を楽しんで下さい。

(2014.1)