川本眼科だより 175網膜静脈閉塞症~最新治療法~ 2014年8月31日
3年前にも川本眼科だより133で「網膜静脈分枝閉塞症」を取り上げました。その後、新たにルセンティスという注射薬が認可され、治療法がずいぶん変わってきました。
網膜静脈閉塞症に2タイプ
網膜には網膜中心動脈が血液を送り込みます。この動脈は枝分かれしていき、毛細血管となって網膜に酸素や栄養を供給し、今度は静脈になります。細い静脈が合流していき、最後は1本の太い静脈になります。これが網膜中心静脈で、ここから血液が心臓に戻っていきます。
網膜中心静脈閉塞症(もうまくちゅうしんじょうみゃくへいそくしょう)は、網膜中心静脈の本管が隣を走る網膜中心動脈から圧迫されて狭くなり、その狭窄部が血栓(けっせん=血のかたまり)で詰まってしまう病気です。軽症から重症まで程度は様々で、ひどくなると、視力が大幅低下し、新生血管緑内障をおこし、失明することもあります。
網膜静脈分枝閉塞症(もうまくじょうみゃくぶんしへいそくしょう)は、網膜中心静脈よりも上流の細い静脈に血栓が詰まってしまう病気です。動脈と静脈の交差部では、動脈のほうが圧が高く、一方静脈の壁は薄いので静脈は圧迫されて狭くなりやすく、そこに血栓が形成されるのです。行き場がなくなった血液が血管壁を破って広がります。
黄斑に影響すると視力低下
出血が黄斑(おうはん=網膜の中心部で視細胞が集中しているところ)にかかると歪んで見えたり視野が欠けたり視力が低下したりします。視力は最終的に0.1以下になることもあります。
逆に、黄斑から離れた場所に出血した場合は、患者さんはほとんど気づきません。たまたま眼科を受診した際に検査で発見されることがあります。
硝子体注射
従来から非常に多くの治療法が試みられ、その大半は効果が不十分なために廃れました。
ルセンティス硝子体注射はこの病気の視力予後を変えた画期的治療法で、視力低下の一番の原因である黄斑浮腫によく効きます。ただし、効き目が1~3ヶ月くらいで切れるので何度も注射が必要です。3回くらいの注射で完治に近い状態になる人がいる反面、10回以上注射している人もいます。注射薬が高価なのが最大の欠点で、3割負担だと1回に5万6千円もかかります。しかも高いのは薬剤費で手技料は安いので、医療保険や生命保険からの給付金は期待できません。
網膜光凝固(レーザー治療)
「網膜静脈閉塞症に2タイプ」の項にレーザー前後の眼底写真を載せていますから参考にして下さい。
網膜光凝固術(レーザー)は新生血管の出現を防止するのに有効です。新生血管はもろくて大出血をきたしやすく、緑内障の原因にもなる厄介な合併症です。レーザーした部位は出血が減り浮腫も改善しますが、黄斑には打てないので、すぐに視力が向上するわけではありません。むしろ一時的には黄斑浮腫が強まることがあります。
網膜中心静脈閉塞症では3回くらいに分けて打ち、初回に3割負担で4万8千円(1割負担なら1万6千円)かかります。網膜静脈分枝閉塞症では普通1回で終わり、3割負担で3万円(1割なら1万円)かかります。高いのは確かですが、硝子体注射と違い、何回も治療を繰り返すことは通常ありません。医療保険や生命保険(医療特約)に加入していれば手術給付金の対象になります。
内服薬(のみぐすり)
いろいろな薬が使われていますが、あくまでも補助的な役割で、のみぐすりだけで治すのは無理です。川本眼科でよく使っている薬は下記↓です。
カルバゾクロム(血管の壁を強化する薬)
低用量アスピリン(血栓をできにくくする薬)
低容量アスピリンは、安価で安全性の高い薬なので、長期投与に向いています。網膜静脈閉塞症は反対側の目にも10~15%の確率で発症するので、その予防にも役立ちます。ただし、内科で同じような薬が出ていないかチェックは必要です。
この病気に関係する危険因子
網膜静脈閉塞症になりやすくなる危険因子として、高血圧、動脈硬化、糖尿病などが挙げられます。ただし、直接の原因という訳ではなく、そういう危険因子がない人でも発症します。
危険因子を持っている人は、反対側の目に発症することを予防する意味でも、内科的にしっかり治療することが大切だと思います。
(2014.8)