川本眼科

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院長のつぶやき

院長のつぶやき タンザニア眼科事情 2016年8月7日

金沢大学の佐々木洋先生の講演を聴いた。(2016.8.6)
海外で現地の人たちの検査をした結果を教えていただいた。
気象条件の異なる7地域で実際に調査された結果で、貴重な報告。

日本から検査機器を運び、日本人が検査しており、信頼性が高い。
国際比較の場合、同一条件なのかデータは信用できるのかが問題になる。
今回の報告はその点ケチの付けようがない。素晴らしい。

私が特におもしろいと思ったのはタンザニアの調査結果。
近視や白内障の進行に地域差・気象差がどう影響するか示唆に富む。

タンザニアの子供・若者に近視はほとんどいない。正視か軽度遠視。
つまりメガネをかけなくてもよく見える。
メガネ屋自体どこにもないらしい。
日本人では近視が非常に多い。圧倒的な差だ。

これは人種差なのか環境の差なのか。
ある報告ではアフリカ系米国人では近視27%、米国白人では近視21%
アフリカ系のほうが確かに少ないが、それほどの差ではない。
タンザニアでは近視はゼロに近いのだから、人種差では説明できない。
つまり、環境の影響が大きいと思われる。

近視が少ない原因はまだ仮説であって証明はされていない。
有力なのは「近業が少ない」「太陽光をたくさん浴びる」の2つだ。

近業とは近くを見る作業のこと。日本人は近頃、近くばかり見ている。
本やマンガを読む、携帯ゲーム機で遊ぶ、スマホを使う、・・・
タンザニアでは近くはそれほど見ない。遠くを見る時間が長い。
もっとも、アフリカでも最近急激にスマホが普及しているらしい。
状況は短期間で大きく変わる可能性がある。

太陽光が近視の進行に影響することは確実視されている。
「屋外活動を1日1時間以上すれば近視になりにくい」と証明された。
なぜかは未解明だが、松果体に光が影響するという説が有力だ
タンザニアでは家が開放的で家にいても相当量の太陽光を浴びる。
太陽光に含まれる紫外線量は日本の2倍近い。
なるほどこれは説得力がある説だ。
近年日本の子供に近視が増えたのは外で遊ばなくなったせいとも言われる。

それでは、子供にはなるべく屋外で生活させたほうがよいのか?
確かに近視は抑制されるだろう。
近視が強いと網膜剥離や緑内障になりやすいからこれは良いことだ。
しかし、実は太陽光の影響で増える病気がある。
白内障、翼状片、加齢黄斑変性だ。

タンザニアでは60歳を過ぎると白内障が急激に増える。日本より早い。
太陽光中の紫外線をたくさん浴びて、白内障になりやすく、進行しやすいのだ。
そのため、タンザニアでは60歳以上になると低視力者が激増する。

かつては日本でも歳を取れば白内障で見えないのは当たり前だった。
白内障手術の普及はそういう状況を大きく変えた。
これほど社会に貢献した手術はほかにないと思う。
タンザニア国内には白内障手術ができる眼科医はわずかしかいない。
佐々木先生によれば人口5千万人に対して10人ほど!
しかもみんな手術を受けるだけのお金はない。つまり放置される。
そして、白内障のために失明してしまうことになる。
タンザニア人の平均寿命は50歳くらいなので今は問題になっていないが、
これから寿命が延びていくと、将来社会的に大問題になると予想されている。

日本人は、どうすればよいのだろう?
日本では白内障は手術すればすむ。でも加齢黄斑変性は厄介だ。
今のところ、太陽光がどの病気にどれだけ影響するか見積もることは困難だ。
太陽光を浴びるべきかどうか誰にも答えられない。

プラスもマイナスもあるので、現時点では差し引きゼロと考えればよい。
屋外スポーツをしたい人はすればいい。健康的だと思う。
かといってインドアが好きな子供を無理やり外に連れ出すほどでもなさそうだ。

(2016. 8.7)

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