川本眼科だより 247パソコン/スマホと眼 2020年8月31日
在宅勤務やオンライン授業が急速に普及しています。会議や学会等もオンラインがごく普通のことになりました。パソコンやスマホの使用時間がかつてないほど長くなっています。
それに伴い、眼のトラブルが急増しています。今回はこの問題を取り上げます。
IT眼症・VDT症候群
以前からパソコンやスマホを使いすぎることによって様々な眼のトラブルが起こることは知られていました。IT眼症とか、VDT症候群とか、テクノストレス眼症とか呼ばれていて、それぞれ若干ニュアンスは異なりますが、同じ病気の別名と考えてよいでしょう。
多くの職場でパソコンが日常的になり、一日中画面とにらめっこしている人は少なくありません。
長時間のPC作業により「目が疲れる」「目が乾く」「ピントが合わない」等の眼の症状が起こります。さらに「頭痛がする」「胃腸の調子が悪い」「眠れない」等の全身症状も起こります。
不定愁訴
症状はきわめて多彩です。人によって訴える症状が大きく異なり、不定愁訴などと呼ばれます。
精神的ストレスが関与しているのではないかと言われていて、相当に重症化することもあり、しばしば眼科医の手に余るのですが、かと言ってどの科が担当すべきかもよくわかりません。
頭痛や悪心だったら内科、肩こりや神経痛なら整形外科、月経不順だったら婦人科でしょうか。精神的ストレスが主因なら心療内科かも。多くの場合、どこを受診しても完全な解決は困難です。
眼精疲労とドライアイ
眼精疲労とは、要するに「目の疲れ」なのですが、すぐに回復せず慢性化し、日常生活に支障が出るほど悪影響を及ぼしている場合を言います。ただその定義は曖昧で、人によって言葉の意味が異なることもあるので注意が必要です。
眼精疲労はIT眼症の主要症状です。毛様体筋というピントを合わせるための筋肉を酷使すると回復困難になって、ピントが合わなくなったり、眼痛や圧迫感などの不快な症状が出たりするとされています。
ドライアイもIT眼症では必発です。集中してパソコンやスマホの画面を凝視しているときにはまばたきの回数が普段の4分の1ほどに減ってしまいます。当然目の表面は乾いてしまうのです。
ドライアイの症状は、乾燥感、充血、まぶしい、ショボショボ、ぼやける、などです。
ほかにも、一定の姿勢を取り続けることによる肩こり、細かい確認作業が続くことによるストレスなども関係しています。
目薬での治療
眼精疲労に対する目薬はありますが、正直なところ、大きな効果は期待できません。「全く何もささないよりは少しはまし」という程度です。
市販の目薬では「頑固な目の疲れがたちどころにスーッと消える」みたいな宣伝がされていますが、完全に誇大広告です。そんな夢みたいな目薬があればいいなと心から願います。
ドライアイに対する治療のほうが期待が持てます。眼科ではムチンという涙の蒸発を防ぐ物質を増やす目薬(ジクアス、ムコスタ)が使われるようになっていて、特に難治なケースの治療がしやすくなりました。
私はIT眼症の患者さんにはまずドライアイの治療をします。軽症ならそれだけで症状が緩和しますが、目薬だけではつらい症状が改善しないことも多く、一筋縄ではいきません。厄介な病気だと思います。
PC使用時間を減らす
原因がパソコン・スマホなら、原因自体を何とかするしかありません。要するに使用時間を短くすればよいのです。
しかしながら、今日パソコンはどんなに小さな会社でも使われており、パソコンの使用を避けることはほとんど不可能です。いわゆるパソコンという形態でなくても、レジ打ちでも、商品管理のための携帯端末でも、やっている作業は似たようなもので、IT眼症は起こります。
厚労省のガイドラインでは、1時間以上VDT作業を続けないこと、作業の合間に小休止を入れること、1時間作業したら15分休むことを示しています。この通りにしている会社がどれだけあるでしょうか。仕事となれば途中で中断できないのが普通で、このガイドラインは絵に描いた餅になってしまっています。
もちろん、コロナ騒ぎで状況が更に悪化していることは言うまでもありません。
適度な運動とリラックス
仕事中はパソコンを使わざるを得ないのならば、仕事以外の時間にどのように回復させるかが重要になってきます。
自分の自由な時間にもスマホばかり見ていませんか? フリータイムはゲーム三昧なんて人もいますね。現代人の生活ではそうなりがちなことは理解できますが、これでは症状が悪化するばかりです。生活習慣を変えないと。
適度な運動はIT眼症の症状を改善させると報告されています。全身の血行が良くなって局所の疲労回復に役立つと考えられますし、運動の間は遠方を見るので毛様体筋も休めますし、精神的なストレスを軽減する効果もあるでしょう。激しい運動は必要ありません。ウォーキングで十分です。
リラックスすることも大切ですね。音楽を聴くも良し、気の合う友人とおしゃべりするも良し、何もせずぼんやりと寝転ぶも良し、IT疲れを癒やしてくれると思いますよ。
スマホ内斜視
それまで何ともなかったのに、急に目が内側に寄ってしまう急性内斜視という病気があります。昔からある病気で、原因は不明、それほど頻度は高くありませんでした。
最近、この急性内斜視が若者に急増していて、スマホの使いすぎが原因と推定されています。これをスマホ内斜視と呼ぶようになりました。実際、1日何時間も連続で使い続けたようなケースが多いようです。
スマホ使用を中止すると改善することが多いのですが、中には元に戻らず手術になることもあります。特に10歳以下ではリスクが高いと言われています。
スマホ内斜視を避けるには、距離を離し、時々遠方に視線を移すことが有効です。理想を言えば30cm離し、10分ごとに遠方を見るのがお勧め。これを守るのは難しいでしょうが、できる範囲で心がけて下さい。
(2020.8)