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川本眼科だより

川本眼科だより 248ヒアルロン酸の目薬 2020年9月30日

参天製薬からヒアレインSという目薬が発売されました。ヒアルロン酸ナトリウムが主成分で、今まで眼科を受診しないと入手できなかった目薬が簡単に薬局で買えるようになったわけです。

この目薬は広く使われることが予想されますので、注意すべき点や落とし穴をお話ししたいと思います。

処方薬の多くがOTC薬へ

人口の高齢化に伴って、医療費は増加の一途を辿っています。そのため、国は医療費を抑制しようと躍起になっています。

OTC医薬品とは、処方箋なしに薬局で買える薬のことを言います。大衆薬や市販薬と呼ばれていましたが、イメージアップのために呼称を変更したそうです。 OTC = Over The Counter

国は処方薬(処方箋がなければ買えない薬)の多くをOTC薬として認める方針です。そういう薬をスイッチOTC薬と呼んでいます。セルフメディテーションなる用語を使っていますが、要するに「簡単な病気は医者にかからず自分で直せ」ということです。医師の間では副作用の発生などを危惧する声が多いのですが、国はかなり強引にこの施策を進めています。

スイッチOTC薬には鎮痛薬のロキソニンS、胃薬のガスター10,抗アレルギー薬のアレグラFXなどがあります。どんどん増えています。

確かに、多忙な人にとって、OTC薬で直ればありがたいのはわかります。実際に効いてくれることも多いと思います。

しかし、OTC薬でごまかしていて重大な病気を見逃すリスクや、頻度は低くても副作用が出るリスクは間違いなくあります。心配です。

ヒアレインS

参天製薬から最近発売されたヒアレインSは、スイッチOTC薬の1つです。「要指導医薬品」になっています。つまり「一般用医薬品」よりはリスクが高いことを意味しており、薬剤師が書面を用いて適正使用のための情報提供を行うことが義務づけられています。

主成分はヒアルロン酸ナトリウムです。ヒアルロン酸は各種の角結膜障害(=角膜のキズ)に効きます。

ヒアレインSは元の処方薬のヒアレインと異なり、「角結膜障害に効く」「ドライアイに効く」とは記載せず、単に「目の疲れ、乾き、かすみに効く」とぼやかして効能を謳っています。しかし実は中身は一緒です。

診断しないで治療できるのか

角結膜障害(=角膜のキズ)には様々な原因があります。原因によって治療法は異なります。

原因が異物や結石やさかまつげなどはっきりしていれば、原因を取り除く治療をします。

目薬で治療することはもちろん多いわけですが、今日では眼科医は、症状に応じて、ムコスタ、ジクアス、ヒアルロン酸、ステロイド、抗菌薬など各種の目薬を使い分けています。必要に応じて2~3種類を併用することもあります。

全く涙が出ない重症のドライアイでは、涙点プラグという涙の下水口を塞ぐ治療が必要です。

当然、診察して、診断して、初めて治療が可能です。OTC薬は、診断を省いて何でもかんでもヒアルロン酸をさしておけ、というようなものですから、目薬自体の安全性は高いとはいえ、やはり懸念は持たざるを得ません。

例えば、鉄粉が目に入ってゴロゴロするような場合、鉄粉を取り除かない限り治りません。なまじOTC薬があるとそれで済まそうとして受診が遅れ、状態が悪化する心配もあります。

ヒアレインSができても、診察することの重要性は変わりません。

角結膜障害の状態は常に変化

それでは、もともとヒアルロン酸の目薬を長期投与されていた患者さんならば、眼科受診せずにヒアレインSをさし続ければよいのでしょうか?

これも問題があります。角結膜障害は毎日状態が変化しているのです。よく角膜のキズと言いますが、同じキズが長期間残っているわけではなく、古いキズは治り、また新しいキズができるのです。ドライアイが角結膜障害の原因なら、デスクワークの作業量や湿度などの影響も受けます。

状態が変化すればそれに応じて治療も変える必要が出てきます。

こういう変化は自覚できていないこともよくあり、医師の診察で判明することもしばしばです。医師による経過観察はやっぱり必要なのです。

ヒアルロン酸にも違いがある

ヒアルロン酸ナトリウムの目薬は各社が出しています。主成分は同じですが、添加物は異なります。濃度も2種類あります。防腐剤が角膜に悪影響を与えないよう、フィルターをつけて防腐剤をなくした製品もあります。1回使い捨てになっている製品もあります。

つまり、ヒアレインSで代替できる場合もあればできない場合もあります。薬剤師さんならある程度はわかるでしょうが、防腐剤が入っていても良いかどうかになると、診察した眼科医でなければ判断できないと思います。

OTC薬の限界

夜間や土日などかかりつけ医にかかれず、かといってわざわざ救急を受診するほどでもない、という状況なら、OTC薬はそれなりに重宝かも知れません。あるいはコンタクトによる乾きくらいなら便利かも知れません。

ただし、当然ですが、OTC薬は決して受診の代わりにはなりません。医師を受診する目的は薬をもらうことだけではありません。薬を出さなくても受診が必要な場合もあります。

ドライアイには別の目薬

ヒアルロン酸は様々な角結膜障害に使えるという点で、今でも非常に有用な目薬です。

ただ、ドライアイ治療に限れば、治療の主流はジクアス、ムコスタという別の目薬に取って代わられました。これらの薬はムチンという涙の蒸発を防ぐ物質を増やす働きがあるのです。この話は過去の川本眼科だよりでも触れましたが、いずれまた別稿でお話しします。

(2020.9)