川本眼科だより 251薬による眼への副作用 2020年12月31日
内科などで処方される薬は、眼に対する副作用をおこすことがあります。頻度の高い副作用には医師も十分注意を払いますが、めったに起こらない副作用や症状が比較的軽い副作用は、軽視されたり見逃されたりしがちです。
今回はそういう眼への副作用を取り上げます。なお、私もこの問題について経験豊富なわけではありません。経験がない点は雑誌や論文からの知識を紹介しています。
ステロイドの副作用
ステロイド内服薬の代表はプレドニゾロンです。ステロイドは炎症を抑える薬できわめて多くの疾患に使われます。よく効く薬で治療には必要不可欠ですが、副作用も多いことで知られています。
ステロイドは眼圧を上昇させることがあります。患者さんの体質が関係していて、ステロイドに対して眼圧が上がりやすい人と上がりにくい人がいます。長期大量に使うときは緑内障になるリスクを考慮しなければなりません。緑内障は末期になるまで自覚症状がなく、眼科で検査を受けない限り発見できません。
ステロイドは長期投与により白内障をおこします。ただし、ステロイド長期投与は他に代替治療がないことが多く、治療中の病気が重大なものなら白内障は甘受するより仕方がありません。一般に白内障は遅れて出てきます。もし白内障が進行したら手術で治療することになります。
ステロイドを長期に全身投与するときは、眼科のチェックを受ける必要があります。内科医はしばしば眼に対する副作用に無頓着で、ある報告では眼科受診を勧めた内科医は1割に過ぎなかったそうです。
エタンブトールの副作用
エタンブトールは結核や非結核性抗酸菌症の治療に使われます。視神経症をおこすリスクがあり、悪化すると元に戻らないため早期発見が大事です。内科でこの薬を使うときには必ず眼科に副作用のモニターをするよう依頼が来ます。
この依頼を私は何件も受けましたが、実際には副作用が出ることはまれです。それでも、3件ほどで薬の中止を要請しました。
TS-1の副作用
TS-1はのみぐすりの抗癌剤です。胃癌・肺癌・乳癌・大腸癌・膵臓癌などに対して使われ、日本で最も多く使われている抗癌剤です。
TS-1は涙道閉塞・角膜障害という副作用を起こします。抗癌剤が涙の中に移行して正常細胞の働きを阻害します。この薬の使用者が増加して大きな問題になりました。
涙道閉塞は流涙をおこし、しかもいったん閉塞すると自然に元に戻ることはまずありません。涙道閉塞をおこしかけたら早めに涙道チューブを留置して涙道が塞がるのを防ぎます。
角膜障害は涙の中に抗癌剤が移行して角膜上皮細胞の増殖を抑制してしまうために起こります。ゴロゴロして涙が出て、時にぼやけます。
いずれも予防が大切で、涙液に出てくる抗癌剤の濃度を下げる目的で人工涙液(ソフトサンティアなど)を1日6回以上点眼することが勧められています。毎日6回もさすのは大変です。
ヒドロキシクロロキンの副作用
ヒドロキシクロロキン(プラニケル)はSLEという病気の標準的な治療薬です。海外では関節リウマチにも使われます。
網膜症を起こすことがあり、処方前と処方後は年1回眼科で検査を受ける必要があります。ハイリスクと判断されればもっとこまめに検査します。
累積投与量が200gを超えると要注意とされており、3年使い続けるとこの量になります。
ベンゾジアゼピン系の睡眠薬
ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は日本でよく使われています。眠れないと訴えると内科等で比較的簡単に処方してもらえるので、一度でも服用した経験のある方は多いのではないでしょうか。この薬の問題点については以前 川本眼科だより227で取り上げました。
このポピュラーな薬が薬剤性眼瞼けいれんという病気を起こすことがあります。もともと眼瞼けいれんはほとんどが原因不明でボトックス注射を繰り返す対症療法しかないのが実情ですが、もし薬剤性だと判明すれば薬を中止することで症状の改善が期待できます。
ただ、睡眠薬の依存症になっていると薬を断つことも困難ですし、5年以上常用した場合は薬をやめても眼瞼けいれんが残存してしまうことが多いと言われています。
風邪薬で重症薬疹!?
薬疹には、スティーブンス・ジョンソン症候群とか中毒性表皮壊死症という超重症型があります。幸いめったに起きませんが、起きたら大変です。
突然高熱が出て、皮膚・粘膜がやけどのような状態になります。多臓器不全で死亡することすらあります。
眼にもまるでやけどのような重篤な障害を起こします。眼障害は後遺症を残すことが多く、最悪の場合、角膜が不透明となって失明に陥ります。まぶたと眼球が癒着してしまうこともあります。重篤なドライアイやさかまつげとなり、視力障害を生じることもあります。
さまざまな薬が重症薬疹の原因になりますが、最初に風邪のような症状が出現し、それに対して風邪薬や解熱鎮痛薬を服用した後に高熱や発疹を生じているケースが多いと報告されています。
発症のメカニズムは未解明ですが、ウイルス感染と薬剤の両方が関係して免疫が暴走するのだと推測されています。ありふれた薬がこんな重大な病気を引き起こすのは驚きです。
まれな副作用は診断困難
今回取り上げた以外にも、他科で使われた薬が眼への副作用を起こす可能性はたくさんあります。
比較的頻度が高く、症例が報告され、添付文書にも警告が載るような副作用には医師も十分注意を払います。慎重に投与し、患者さんにも説明し、経過観察を欠かしません。
逆に、症例報告もなく、添付文書にも載っていなければ、医師は「副作用ではなく、たまたま同時に起きたことだろう」と判断するのが普通です。
医師は、副作用を回避するために常に勉強して新しい知識を仕入れていますし、知識経験がない薬でも文献を調べる努力はしています。曇りない目で常識に囚われず常に疑いを持つよう心がけてもいます。
それでも、まれな副作用で文献にも記載がなければ因果関係を認定するのは困難だということはご理解下さい。
(2020.12)