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川本眼科だより

川本眼科だより 301白内障の目薬 2025年2月28日

白内障にはピレノキシンという点眼薬が使われています。ずいぶん昔からある目薬で、私も以前はたくさん処方していましたが、最近は処方することが減っています。今回はどうして減ったのかというお話です。

ピレノキシンの効き目は?

ピレノキシンは「白内障の進行を抑える目薬」です。残念ながら白内障が治ることはありません。ただ、ささないよりは進行が抑えられるので、初期のうちから使うと手術時期を遅らせることができます。要するに時間稼ぎです。

この目薬のことは川本眼科だより42「白内障の薬は効くの?」でも取り上げていて、治るわけではないが進行を抑えるので使用を推奨すると述べました。22年前の記事です。もっと効く新薬が登場することを期待していましたが、残念ながら今もピレノキシンしか選択肢がない状況です。

どのくらい手術時期を遅らせることができるのでしょうか? これは個人差があるので明確な数字は出しにくいのですが、初期から真面目にさし続ければ数年くらいの違いはあると思います。

見えづらくなったら手術

ピレノキシンをさしていても完全に進行を止めることはできません。ですから、結局いつかは手術になるとお考えください。

既に白内障で見えづらくなっているのなら、我慢する必要はありません。この目薬をさすよりも、さっさと手術することをお勧めします。

目薬は自覚がまだ出ていない早期の白内障にこそ有効なのですが、そういう人は目薬をさそうという気持ちにならないかも知れませんね。

処方しなくなった理由

昔はたくさんピノレキシンを処方していました。最近も全く処方しなくなった訳ではありませんが、ずいぶん減りました。

理由は白内障の手術成績が向上したことです。安全性も高くなって、手術のリスクを心配する必要がなくなりました。今でも手術に伴う合併症が皆無になったわけではありませんが、たいていのトラブルには対処できるようになっていて、失明するような深刻な事例は近頃見聞したことがありません。

従来は「リスクを考慮してある程度進行してから手術する」という方針でしたが、現在は「見えづらくなったらさっさと手術する」に変わってきています。もちろん最終的には患者さんの希望次第です。ただ、水晶体が固くなりすぎると手術が難しくなりますし、加齢に伴い水晶体を支える線維が断裂しやすくもなります。早めに手術したほうがやりやすいのです。

先延ばしするより早めの手術という考え方の変化により、目薬をさす意味が薄れたのです。

希望者には処方します

それでも手術はしたくないというお考えの人はいるはずです。ご希望があれば目薬を処方いたしますので、どうぞお申し出ください。何か目薬をさしたいという方も多いです。

ただ、目薬の回数は1日4回が標準です。回数が少なくてもそれなりに効きますから、そんなにこだわる必要はありません。習慣になればそんなに苦にはならないですが、やっぱり面倒に感じて続かなかったりします。

しかも、目薬をもらいに受診する必要もあります。白内障だけで目薬もさしていなければ6ヶ月ごとに受診していただいていますが、6ヶ月分の目薬を処方するのはさすがに無理です。

結局、目薬をさすのが面倒、受診が面倒、いざとなったら手術すればいいや、ということで処方希望者は減っています。

事情で手術できない方に

世の中、様々な事情で白内障手術がすぐにできない方はいらっしゃいます。仕事が忙しすぎて時間が取れない、がんなど病気治療中、家族の介護で手一杯、等々、人それぞれ理由も様々です。

幸い、白内障の場合、手術時期は選ぶことができます。かなり早期に手術しても問題ありませんし、相当に進行してからでも手遅れということは普通ありません。特に理由がなければ早めに手術して早くよく見えるようになるのが得策だと思いますが、待つことも十分可能です。

何らかの事情ですぐに手術できない方にこそ、白内障の目薬の出番だと思います。進行を遅らせて、その人の事情が解決するまでの時間稼ぎをしてくれます。ありがたいと思いませんか?

新薬が登場する可能性は?

さて、ピレノキシンよりよく効く目薬が欲しいところですが、その可能性はあるのでしょうか?

残念ながら将来白内障の新薬が登場する可能性は低いと思います。白内障手術が成功しすぎたのです。手術さえすればほぼ完璧に治るのなら、長期にわたってさし続ける目薬の出番は限られます。さらに、手術なら近視や遠視や乱視も軽減させることができますが、目薬にはそんな芸当はできません。

巨額の開発費用をかけても需要が少ないと予想されるため、製薬会社も手をつけないのです。今後もずっと白内障の治療は手術が主流であり続けるでしょう。

目薬は残してほしい

ピレノキシンの薬価はどんどん切り下げられてすごく安くなっています。薬価が下がりすぎ、需要も減ると「採算が合わない」とメーカーが生産を中止してしまう可能性があります。抗菌薬の目薬で実際にそういう事態が起こりました。

白内障の目薬が使えなくなってしまうのは困ります。なんとか残してほしいところです。

おまけ

正月にエジプト旅行をした際に、生まれて初めてフルフラットシートを経験しました。ビジネスは高いのでなるべくエコノミーで済ませてきたのですが、歳を取って何日も疲れが残るようになり、診療にも影響してしまうのです。

いや、快適でした。よく眠れました。手足が伸ばせるって素晴らしい! あまり疲れずにすんだし、長距離は次もビジネスにしようと思いました。

(2025.2)