川本眼科

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川本眼科だより

川本眼科だより 56診断書 2004年10月31日

「診断書」に対し、世間一般に誤解があり、過剰な期待、過大な要請がしばしばみられます。
因果関係を証明しろ、というのは過大な要請の最たるものです。ほとんどの場合、現場を見てもいない医師が、事後の診察で因果関係の証明などできません。
今回は、診断書というのはどんなものなのか、診断書にはどんなことを書くことができるのか、理解を深めていただきたいと思います。

就業可能/麻薬常習者でない

診断書に対して、世間一般には過剰な期待があるようです。とうてい無理なことを書けと言われて困ることはたくさんあります。医者は超能力者でも神様でもありません。
例えば、「就業可能」という診断書を求められることがあります。しかし、医師は仕事の内容をよく知らないわけで、本当は実際に仕事をしてみるしか判断しようはないのです。「運動可能」も実際に運動してみるしかないでしょう。100%断定することなど誰にもできません。
「麻薬常習者でない」という診断書も困ります。注射痕がたくさんあるとか、言動に異常があればれば麻薬常習者かも知れないと疑う根拠になるでしょう。けれども麻薬常習者でも外見が正常なことはよくあります。一般に「○○でない」という証明は困難です。「精神病者でない」も同じ意味で無理な注文です。

「全治○ヶ月」という診断書も困ります。整形外科なら骨折が治ればよいわけですが、眼科では一応落ち着いても視機能を何年にもわたって経過観察する必要があることが多いのです。どこで全治と言えるのか誰にも答えられないでしょう。

因果関係の証明を求められても

交通事故や暴力事件などがあると、患者さんから、因果関係を証明する診断書を書いてくれ、と要求されることがあります。
しかし、実際には、同じケガであっても、原因はいろいろに考えることができます。ふつう、医師が診察しただけで因果関係を正確に判断することはできません。
通常、カルテには、患者さんの説明内容をそのまま記載します。もちろん、日常診療はその内容が事実であるということを前提に行われます。例えば、「殴られた」という訴えがあり、診察してみると、まぶたに皮下出血があり、腫れていて、角膜にもキズがあったとしましょう。この場合、殴られてできたケガと考えて特に矛盾はありません。当然、検査計画も、治療方針も、説明も、殴られたということを前提に行います。
けれども、同じケガは、不注意で何かにぶつけたということでもおこります。診察しただけでは殴られたのかぶつけたのかはわかりません。
診断書は公的な性格が強く、客観性を求められます。ですから、診断書には、原則として、診察してわかったことだけを記載します。つまり、この例では「眼瞼皮下出血」「眼瞼腫脹」「角膜障害」という診断は記載できます。しかし、「殴られた」ということを証明することはできません。
一般に、因果関係の証明を要求する場合、警察に提出するとか、裁判の証拠にするとか、何らかの係争が関係しているわけです。そうすると、事実関係にも争いがあることは容易に想像できます。もしも法廷に出れば「殴ってできたケガだとどうしてわかるのか」という反論も予想されます。診察の時とは違い、患者さんの言い分をそのまま診断書に記載するわけにはいかないのです。

患者さんの発言の引用は

原則として、診断書には、医師が見ていないこと、現場を確認していないことは書けません。
もっとも、患者さんの発言を引用するような形で記載するならば問題ないという意見もあります。例えば「転倒した」という場合、ふつう事実関係について争いはありませんし、原因について言及したほうがわかりやすくなります。そこで、「転倒したという訴えで受診し・・・」というように書くならかまわないというわけです。
ただ、わざわざ医師が診断書で事実関係に言及するのは、その事実を確認したと誤解されるおそれがあります。特に事実関係に争いのある場合はやはり慎重にならざるを得ません。
川本眼科では、いろいろ検討した結果、診断書の本文と患者さんの申告内容を明確に区分すれば問題ないと考え、患者さんが希望される場合、事実関係に関する患者さんの申告書を、診断書に添付することにいたしました。

医師の証明はすべて診断書

そもそも、診断書とは何でしょうか。何か書き方が決まっているのでしょうか。
診断書とは、要するに医師が患者さんの病状や医学的所見を証明した書類です。
診断書の様式について特に定めはありません。
形式にかかわらず、たとえ「診断書」と名前がついていなくても、医師の証明はすべて診断書なのです。
何を記載するかは医師の裁量に委ねられています。一般的には、どのような目的でどこに提出するかによって記載内容は異なり、必要最小限のことだけを書きます。
例えば、会社に提出して休みをもらうための診断書ならば、病名と「○月○日から○月○日まで休業を要す」ということだけ書きます。なるべく余計なことは書きません。
生命保険で手術給付金をもらうための診断書ならば、どんな手術をいつ行ったかを記載します。給付金額を決定する情報としてはそれで十分なはずですが、病気がわかってから保険に入った可能性があることから、いつ頃から症状があり、いつ診断をつけたかも記載することになっています。

病休の期間

「○日まで休業を要す」という診断書は一番多いと思います。裁判のような深刻な事態ではないものの、これにも問題はあります。実際には、どこまで休みが必要かなどと言うことは医学的に正確に決められることではありません。
例えば、白内障の術後を考えてみましょう。術後若干ゴロゴロするなどということは結構あります。この時、早く仕事に復帰したいと考える方もいらっしゃれば、なるべく長く休みたいと考える方もいらっしゃいます。普通は1週間くらいで仕事に戻るのが普通です。しかしながら、そもそも、仕事の詳細な内容まで医師は知らないわけですから、「つらくて仕事ができない」と訴えられれば、ある程度までは患者さんの意向に沿って診断書を書くのは許されることだと考えます。
しかし、それにも限度があります。白内障の手術で1ヶ月も2ヶ月も仕事を休むというのは、常識的に見ておかしいので、そういう診断書は出せません。この辺は医師の良識です。

診断書料の有料化

川本眼科では、開業以来10年間、診断書料を無料にしてきました。しかし、前述のように無理な注文が多く、記載する責任も重いため、9月から診断書料を有料化し、原則3,150円(英文の場合は5,250円)といたしました。これはごく平均的な料金だと思います。

ただし、診断書と言ってもいろいろあるので、医師の裁量により、減額ないし無料とすることがあります。