川本眼科だより 19結膜弛緩症 2001年9月30日
高齢になると、ゴロゴロ、ショボショボしやすいことは以前取り上げました。
最近、その原因として結膜弛緩症(けつまくしかんしょう)が重視されるようになってきています。聞き慣れない病名ですが、どんな問題をおこすのでしょうか。
ゴロゴロ、ショボショボ
高齢になると、目が「たえずゴロゴロする」とか「なんだかショボショボする」という訴えが増えます。「ネチャネチャする」と表現される方もいらっしゃいますし、「シバシバする」などとおっしゃる方もいらっしゃいます。目に「何とも表現しにくい違和感」があって、不快だというをさまざまに表現されているわけです。
当院を受診される患者さんのうち、60歳以上では約7割の方に、程度の差こそあれこういう目の不快感に関する症状があります。
以前この問題を取り上げたときには、原因として、涙が部分的に乾きやすくなっていること、慢性の結膜炎をおこしていることを挙げました。
涙については、蒸発を防ぐための分泌物が高齢になると出にくくなるとされています。この分泌物を出やすくするため、まぶたを暖めるという方法も紹介しましたが、残念ながら霊験あらたかとはいかないようです。
一般的には、こういう症状に対して目薬を使います。抗菌剤、抗炎症剤、角膜保護剤などいろいろな目薬が使われますが、残念ながら特効薬はなく、「多少ましになる程度」の効果です。
結膜が余ってたるむ
最近、高齢者の「ゴロゴロ、ショボショボ」の原因としてクローズアップされているのが結膜弛緩症(けつまくしかんしょう)です。
結膜というのは、白目の表面を覆っている半透明の薄い膜のことです。結膜は目の奥で折れ曲がりまぶたの裏につながっています。つまり、袋小路になっています。
結膜は、高齢になると余ってきてたるむようになります。たるんだ結膜が黒目のほうに少しかかっているようなこともあります。この「結膜が余ってたるんでいる」状態のこと結膜弛緩症と呼んでいるのです。
余った結膜が黒目にさわる
結膜弛緩症の場合、余った結膜が黒目にさわるので、これが「何か目に入っていてさわる」という不快感の原因になります。実際にはさかさまつげではないのに、まつげがあたっているように感じたりします。
ほとんどの場合は黒目の下側の結膜が余ってあたるようになります。上側や左右はめったにあたりません。
下まぶたに涙がたまらない
下まぶたには大事な役目があります。下まぶたと眼球でつくるくぼみに涙がたまり、まばたきの時にここにたまった涙が黒目全体に広がって薄い涙の膜をつくり、角膜(黒目)を保護します。
ところが、黒目の下側の結膜が余ってたるんでいると、下まぶたのところにうまく涙がたまりません。そのために、まばたきをしても角膜全体に涙がうまく行き渡らず、角膜の表面に細かいキズができる原因になります。
結膜が黒目にかかるようになると、まばたきのときまぶたが角膜に密着しないので、なおさらキズができやすいと言います。
手術の試みも一般的ではない
それでは、結膜弛緩症の治療はどうしたらいいのでしょうか。
余った結膜が悪さをしているわけですから、余った分を切り取って、結膜のしわをとってやればいいのではないか、というのは当然浮かんでくる考えです。このアイデアはずいぶん古くからあって、手術を試みもありました。しかし、なかなかきれいにしわを伸ばすのは難しく、治療法として普及しないまま今日にいたっています。
最近、結膜弛緩症の手術療法を試みる眼科医が現れ、結構良い治療成績を報告しています。従来の手術法の欠点を改良して、いろいろ工夫しているようです。
しかし、結膜弛緩症の手術療法が広く普及するかどうかは現時点ではかなり疑問です。
そもそもゴロゴロ、ショボショボするだけで手術を受けたいと考える患者さんは少ないと思います。私自身も現時点でそういう手術を手がけようとは思いません。今のところは様子をみて、将来白内障の手術のように多くの施設で行われるようになったら検討したいと考えています。
手術の方法は一律に同じ手術をすればいいわけではなく、状態に応じて工夫しなければならないようです。ですから、結果も人によって異なり、時間をかけて手術しても思ったような効果が得られないケースもあるようです。
残念ながら、手術も現時点では一般的ではないのでお勧めしにくいということですね。
お役に立てず申し訳ありません
結局、現時点では結膜弛緩症に対しては目薬をさしながら様子をみるしかないと思います。
ただ、それほど重大な病気ではなく、放置してもそれほど問題になることはありません。要するに問題は自覚症状だけです。ご安心ください。
将来、有効な治療法が開発されるのを期待したいと思います。
2001.9