川本眼科だより 26カルテ開示(2) 2002年4月30日
これを書いて6年半経ちましたが、今も電子カルテは使いづらいままで、導入する気になれません。
電子カルテは、ワープロ文書のように、カルテをコンピュータで入力し、電子的に保存しようというものです。
電子カルテは、容易に複写ができますし、カルテ開示にも適しているのですが、実際にこれを導入するのは問題が多いようです。
電子カルテとは
電子カルテというのは、紙のカルテの替わりに、コンピュータでカルテの内容を入力し、ハードディスクなどにデジタルで保存する方式です。ワープロみたいなものです。
眼底写真やレントゲン写真などの画像情報も、今日ではどんどんデジタル化されつつあります。ですから、今までカルテとレントゲンは別のところに保存していたのですが、技術的には文書も検査結果も画像もすべてを一元的に管理することが可能になってきているのです。
紙のカルテは、どんどんたまっていきます。どうしても定期的に整理しなければなりません。長期間受診されない患者さんのカルテは倉庫行きになるのが普通です。法律で定められた保存期限の5年を過ぎるとカルテを廃棄してしまう場合もあります。川本眼科では、開業以来のカルテがいつでも出せるようにしてありますが、10年くらい先にはスペースが不足すると予想されます。
電子情報の形で保存すれば、保管場所に困ることはありません。何年前のカルテでもただちに取り出すことができます。そんなわけで、電子カルテ化が多くの医療機関で検討されています。
電子カルテは開示しやすい
電子カルテは、カルテ開示を推進する観点からも注目されています。
電子カルテのソフトを上手に作れば、「患者さんが読んでわかりやすいカルテ」が可能になるかも知れません。
例えば、病名が選択式になっていれば、いくら病名が長くても苦になりません。一覧が出た中からクリック1つで選ぶだけです。略語で記載する必要がなくなり、日本語の病名を使うことで患者さんにはわかりやすくなるでしょう。
紙のカルテでは「大勢の患者さんに共通する処置や説明、医師にとって常識的なこと」は省略してしまいますが、電子カルテなら、どこからか複写して貼り付けることが容易にできますから、患者さんが読んでわかるカルテを作る助けになると考えられます。
1回の入力で、医師の保存用のカルテと患者さんにお渡しするためのカルテを同時に作ってしまうことができるかも知れません。患者さん用のカルテには、病気ごとにどんな経過が予想され、どんな治療法があるかの説明文書を貼り付けるようにするのです。それを患者さんに読んでいただくことで、通常の忙しい外来では不可能な詳しい説明が可能になるでしょう。早口で説明されたのではわからないことも、書いてあれば何度も読み返して理解することができるでしょう。
CTなどの画像情報もデジタル化されているので、技術的にはすべて電子カルテ上に貼り付けてしまうことが可能です。そういうデジタルの情報は複写も容易なので、患者さん用のカルテにコピーを貼り付けることができるでしょう。
患者さん用のカルテは、紙に印刷する以外に、電子メディアの形でお渡しすることも考えられます。また、インターネット上で患者さんが自分のカルテを閲覧するという方式も検討されています。自宅のパソコンで見られれば便利ですし、わからない医学用語などをクリック1つで調べることも可能でしょう。
下準備の手間暇が大変
いろいろ電子カルテについての夢は膨らみますが、現実に手に入る電子カルテのソフトは、とうていそういうレベルには達していません。
電子カルテは、市販のソフトを買ってきて、その日から直ちに使えるというものではありません。医療機関ごとにソフトにいろいろ手を入れていくことが必要で、相当の手間を食いそうです。
例えば、病名1つとってみても、学会で用語が見直されて変わったりするので、登録してある病名を変更しなければなりません。自分のカルテの書き方に合わせて、必要な時に欲しい選択肢がでるような下準備もしなければなりません。「フォーム」だとか「スタイルシート」などと呼ばれているものを自分で作って行くわけですが、これには膨大な時間がかかります。
病気毎に説明文書、と簡単に言いましたが、できあいのものはないので、自分でこつこつ作っていくしかありません。
それだけの手間暇をかけても、同じソフトをずっと使い続けることができる保証はありません。次々に新しいソフトが出ることが予想され、数年で使えなくなる可能性が高いのです。
標準化されないと採用できない
このように、電子カルテには、カルテ開示のことを考えただけでも多くの可能性を秘めているのですが、さて、では今電子カルテを採用するかとなると時期尚早と言わざるを得ません。
まず、電子カルテ自体が発展途上で、今後次々に機能が上がっていくと考えられ、今導入してもたちまち陳腐化してしまいそうです。さらに、1つの電子カルテで入力した内容を他の電子カルテで読み込むことができず、互換性に関する保証が全くありません。今使っている電子カルテのソフトがなくなってしまい、将来古いカルテを読むことができなくなってしまうかも知れません。
電子カルテの方式に統一規格ができて標準化されない限り、こういう問題はつきまといます。私は、標準化される前に先走るのは賢明でないと考えています。
紙のカルテは柔軟性にまさる
電子カルテは、コンピュータがなければ読み書きすることができません。もちろん持ち運びができるノートパソコンもあるわけですが、重いですし、電池の心配もしなければなりません。
現在、川本眼科では、スタッフがあらかじめ患者さんのお話を伺ってカルテに書き留めています。また、検査結果もその場でカルテに書き込みます。白内障手術のときには中京眼科に手術患者さんのカルテを持っていきます。
こういうことは紙のカルテだからこそできることで、電子カルテになると何かと不自由になるに違いありません。
また、電子カルテは定型的な文書を記載するのに適していますが、ちょっと変わったことを書こうと思うとたちまち面倒くさいことになります。簡単なメモをするのにわざわざワープロを起動するという感じです。人間、やはり面倒くさいことはしたくないもので、どうしても電子カルテには定型的なこと以外書かれなくなる傾向があると予想されます。
それから、電子カルテでは、「医療記録が改ざんされてはいけない」ということから、書き直しが禁止されているそうです。ワープロの場合、簡単に訂正したり、書く順序を入れ替えたりできるのが利点なのですが、電子カルテでは記載し終えて内容を確定すると訂正ができないということですから、不便で、わざわざ紙のカルテから移行する利点がほとんどなくなっています。
そんなわけで、難問山積なので、川本眼科が電子カルテを採用するのは何年も先のことになりそうです。ひょっとしたら、そんな日は永久に来ないのかも知れません・・・・
2002.4