院長のつぶやき 大淀病院事件の誤報問題と毎日新聞社長の強弁 2010年3月29日
なんだか、最近同じようなことを何度も書いていて気が引けるのだが、
やはりここはちゃんと発言しておかないといけないと思う。
大淀病院事件をご存じだろうか。
2006年、お産のため入院した妊婦さんが子癇発作と脳出血をおこし亡くなられた。
転送先がなかなか見つからず、医療体制の不備を示す事件として注目を集めた。
報道をきっかけに裁判がおこされたがこの3/1に遺族の請求は棄却された。
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この事件は毎日新聞がスクープとして報じた。
しかし、初期の報道内容には問題が多く、医師の多くは誤報として批判している。
毎日新聞は死亡原因がはっきりわからない段階から医療ミスとして報道。
CTさえ撮っておけば妊婦は助かったかのごとく主張→裁判で否定された。
さらに妊婦が数時間放置された、と糾弾したのだが、これは事実ではなかった。
そういう記事を読めば誰だって医師を非難したくなる。だから誤報は怖い。
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後に出された毎日新聞奈良支局長のコメントを読むと、
「何度足を運んでもミスや責任を認めるコメントは取れませんでした。」
「遺族の『怒りの力』による」
と、当初から医師のミスがあったと決めつけていたことがわかる。
マスコミの思い込みは怖い。
なにしろ、思い描いた図式に合致することだけしか報道しない。
その図式に都合の悪い事実はわざと報道しない。編集権という名の下に。
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大淀病院は奈良県南部で唯一お産を扱っていた。
そして大淀病院には産婦人科医師は一人しかいなかった。
週3回以上当直していた。当直で一睡もできなくても翌日は休みではない。
この医師はこの事件でマスコミの非難を浴び、心が折れた。
なにしろたくさんのマスコミがスクラムを組んでよってたかって叩くのだ。
「精神的にも体力的にも限界」とお産をやめた。
その結果、奈良県南部でお産ができる病院は皆無となった。
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マスコミが初期の報道で正確さより速報性を優先するのは理解できる。
ただ、間違いがわかればきちんと訂正して謝罪するのが当然だ。
裁判の結果が出れば自分たちも反省することが必要だ。
報道が強い社会的影響力を持つことも自覚してほしい。
マスコミも当事者だし、報道の結果おこったことには責任がある。
面子にこだわっている場合ではない。
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ところが、3/20に毎日新聞朝比奈社長は唖然とする文書を配布した。
「医療態勢が崩壊していた現実を報道したのであって、
報道が崩壊させたわけではない」
えっ!? 完全に居直っちゃったの?
自分たちの報道と医師がお産をやめたことに関係がないと強弁するの?
奈良県南部にお産ができる病院がなくなったことに何の責任もない!?
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うーん。これは根本の姿勢から間違っていると言わざるを得ない。
ジャーナリズムは他の仕事より職業倫理を問われて当然だと思う。
情報操作により世論を操ることもできるし、政府を倒すこともできる。
それなのに他人に厳しく自分には甘いように見えるのはいかがなものか。
マスコミがその強大な力を使って一個人をつぶすことがあってはならない。
(2010.3.29)