院長のつぶやきあご受けの紙
眼科の検査機器は、たいてい、
患者さんにあごを乗せていただくようになっている。
このあごのところには、紙がついている。
なぜ、こんな紙がついているのかご存じだろうか。
「前の人が肌をくっつけたところに触るのを嫌がる人が多いから」というのは
誰しも考えるようだが、実はそういう目的ではないのだ。
それが証拠に、あご同様におでこもぴったりくっつけるのだが、こちらには
紙なんかついていない。
そもそも、ドアの取っ手とか、手すりとか、他人が肌を触れた所に
さわることはよくあることだ。そこを紙で覆って、いちいち取り替える
なんてことは誰もしない。
そもそも、手に比べればあごはずっと清潔だと思う。手でさわる箇所は
気にしないで、あごだけ気にするというのは、どう考えても不合理だ。
欧米ではあご紙がついていないが、日本人が潔癖症だから日本の
メーカーがつけた、という説を聞いたことがある。
なるほど、日本では「便座シート」なるものが普及しているが、本家本元の
欧米のトイレにはふつう便座シートなんてついていない。肌の接触に対して
敏感な日本の国民性から来ていると考えられなくもない。
しかし、ドイツのメーカーであるツァイスの製品だってこの
あご紙がついている。
この説もどうも本当か疑わしい。
正解は、あごを乗せたまま目薬をさすことが結構あって、目薬がたれて
汚れること が多いからだ。簡単にきれいにできるように紙を敷いたのだ。
そんなわけで、私は、汚れなければあご紙を交換したりはしない。
以前薄い紙を使っていた時は、1回でくしゃくしゃになってしまうので毎回
交換していたが、今は厚手の丈夫な紙を使用しているので、
ふつうはそのまま使う。
ただ、患者さんによってはわざわざ自分であご紙を破って新しくする方も
いらっしゃる。
どうも、毎回替えるべきものを医師が忘れていると誤解されているようだ。
どうぞ誤解なきよう。
院長のつぶやき大同病院の外来専門クリニック
名古屋市南区の大同病院が、病院の向かいに外来専門クリニックを
計画している。
病院とは別に診療所を作り、外来を分離してしまおうというのだ。
なぜ、そんなことをするかというと、「紹介率」を上げるためである。
紹介率が30%以上で平均入院日数が17日以下なら、健康保険から、
入院患者1日あたり1,500円~2,000円多くもらえるのだ。
ちなみに、「紹介率」とは、「他院から紹介を受けた患者数」を
「初診患者数」で割った数字である。(実際の計算式はもう少し複雑)
紹介率によって収入が変わるという制度は、大病院への患者集中を
排除するという意図のもと、病診連携を促進するために設けられた。
そのため、どこの病院でも、外来は開業医にまかせ、自院の外来患者を
減らそうとやっきになっている。ところが、患者さんは大病院志向が強く、
とくに手術など受けた場合はその病院から離れたがらない。つまり、
大病院にとって、紹介率の基準を達成することは相当に難しい。
そこで、別に外来専門の診療所を作って、紹介状を持たない患者は
そこに通わせるようにしようという病院が出現した。これによって病院本体の
外来患者数を減らせば紹介率の基準は簡単に達成できる。実際に
やってみた病院が大幅な収入増加になったことから、多くの病院がまねを
しようとしている。大同病院もその1つだ。
しかしながら、このように外来を分離して紹介率が上がっても、病診連携の
促進にはつながらない。むしろ、開業医に紹介しようという動機づけが
なくなってしまうから、結果的に大病院が患者さんを囲い込むことに
つながりかねない。制度の裏をかいているわけで、決してほめられない
やり方だと言えよう。大同病院のそばの開業医にとっては、こんなやり方で
外来患者を囲い込まれれば死活問題だ。反対するのは当然だろう。
事実、南区医師会は大反対である。
ただ、一方で、病院経営が非常に苦しいという事情もある。診療報酬が
抑制され、収入は伸びないのに、診療機器の高度化などで支出は増える
ばかりだ。努力をしなければ簡単に赤字になる。かと言って、利益をあげる
ことを主眼とすると、赤字部門である救急や小児科の切り捨てになりかね
ない。赤字でも大事な部門を維持していくためには、収入にゆとりが必要
というのも確かなことだ。そもそも、開業医にとっても、大病院はなくては
ならない。自分の手に負えない病気の患者さんを、安心して紹介できる
医療機関が、どうしても必要だ。つまり、開業医と大病院は、持ちつ
持たれつの相互依存関係にある。
そんなわけで、私の立場は、「好ましくはないが、外来患者数を
増やさないよう努力するなど開業医の立場もある程度考慮してくれるなら、
外来分離もやむを得ないのではないか」という、いわば消極的容認派で
ある。ただ、同病院に近い開業医の先生方の打撃の大きさを考えれば、
めったなことは言えない。医師会などでは沈黙を守ることにしている。
院長のつぶやき電話番号
2年ほど前、自宅の電話番号を変更した。8年間使用した番号を捨てた。
あまりに勧誘・売り込みの電話が多さに手を焼いたあげくの決断だった。
電話は、こちらの都合を考えずに突然かかってくる。何をしていても一度
中断しなければならず、有無を言わさない。ある意味で暴力的だ。
大事な用件や、大事な相手からなら仕方がないが、面識がない人から
突然セールスの電話がかかってくるというのは勘弁してほしい。
最初は、なんとか早々にあきらめさせて撃退しようとした。「興味ありません」
と言ってすぐに切るようにした。しかし、何度断っても断ってもかけてくる
つわものがいる。「いい加減にしないか、ぶっ殺すぞ」くらいのことを
言いたいのだが、あまり悪感情を持たれても、逆ギレされて何をされるか
わからない。しかも、次々に新手が現れる。とてもかなわない。
次に考えたのが、「ナンバー・ディスプレイ」「ナンバー・リクエスト」だった。
番号通知がない限りかからない。売り込みの電話では番号通知は
普通しないだろう。
しかし、甘かった。向こうは番号を通知して堂々とかけてくる。
ビジネスホンになっているので、特定の場所にいかないと通知される
番号の確認ができず、実効性が薄かった。それに、1つの電話番号が
かからないようにしても別の番号でかけてくるのだ。
結局、電話番号を変えるしか方法はなかった。普段から連絡の多い人には
新番号を通知すればよい。昔の友人がたまにかけてくるような時には
迷惑をかけてしまうが、それはしかたない。どうしても必要な時は、
診療所のほうにかけてもらえばすむ。そう考えて、思い切った。
変更しても、変更後の電話番号にかかってくるようでは困る。だから、
新番号の案内は流さなかった。業者は、各種の名簿を手に入れて、そこに記載されている番号にかけてくるようだ。
だから、一切の名簿に自宅の電話番号を載せないことにした。
医師会の名簿にも載せない。同窓会名簿にも載せない。
業者が勝手に作る名簿にも載らないよう、各種の書類に電話番号の
記載欄があっても、なるべく診療所の番号を記入するよう にした。
さすがに、これだけ徹底すると、迷惑電話はかかってこなくなった。
2年経つが、今でも静かで快適である。
院長のつぶやき患者さんが納得する理由
患者さんに、十分な説明をすることが大事な時代になった。
どんな検査をするにも、治療をするにも、患者さんの納得は欠かせない。
納得していただくためには、説明をする。説明は、もちろん科学的に
正しいことが大前提である。間違いを説明していたら、医者とは言えまい。
問題は、理屈の上で正しいことを説明したからといって、患者さんに納得
していただけるとは限らないということだ。
患者さんは、医師の説明をそれほどしっかり聞いているわけではない。
その場では理解できた気になっても、しばらくすると忘れてしまう。
どれほど理論的に精密に話をしたとしても、それで患者さんが納得する
とは限らない。
納得するかどうかは、理性より、感性によるところが大きい。
例えば、手術するかどうかの決断も、実はどれだけ細かく説明したかで
決まるわけではない。最後は、その医師を信用するかどうかで決まるのだ。
往々にして、若い医師の説明は、たとえ医学的に正しくても信用されず、
そのために手術を納得していただけないこともある。院長や部長が出て
くれば、内容的には全く同じ話であっても、納得していただけることが多い。
私は以前、大事なことを説明したパンフレットをせっせと作った。
外来診療の短い時間では説明しきれない細かいことまで書いておける。
こちらも何度も同じことを説明する手間が省ける。
良いことずくめだと思った。
しかし、しばらくして思い違いに気づいた。たとえ、パンフレットを渡しても
患者さんはそれだけでは決して満足しない。そもそもパンフレットなんて
ほとんど読まない人も多い。
大半の患者さんは、細かいことまで説明できなくとも、医師から直接口頭で
説明を受けることを好む。万人向けに書かれた文書を読むより、自分の
ためだけに話してもらったほうがうれしいのだ。
それに書いたものは、一人歩きしてしまう。全体の文脈を離れて一言半句
を取り上げて誤解・曲解されてしまう。相手の反応を見ながら口頭で説明
すればそういうことはおきない。
こちらの表情や態度もコミュニケーションに役立つ。
だから、たとえ、何度も同じことの繰り返しであっても、患者さんごとに
きちんと口頭で説明したほうがよいのだ。
誤解を恐れずあえていえば、説明の内容すら実は一番大事な問題とは
言えない。患者さんにとっては、医師が自分のためにどれだけの時間を
割いてくれたか、どれだけ一生懸命説明してくれたかが重要なのだ。
ときには、説明そのものよりも、患者さんの話を親身になって聞くことのほう
が大事だったりする。医師が真に患者さんのためを思って検査や手術を
勧めていると感じれば、たとえ説明の内容が十分に理解できなかったと
しても、患者さんは同意する。
逆に、医師がコンピュータの操作をしながら説明したりすれば「態度がなって
いない」ということになる。電子カルテがどうも不評なのはここいらあたりに
原因がありそうだ。
インターネットが普及しても、Eメールでたいていのことは連絡できるように
なっても、電子カルテが使われるようになっても、人間のほうはそんなに
簡単に変われない。きちんと向かい合って話をすること、これが現在でも
医療の現場で一番大事なことなのだ。開業医を10年やってきて、
つくづくそう感じる。
院長のつぶやき予約制
愛・地球博が開幕した。実を言うと、私はこういうイベントが結構好きだ。
地元でもあるし、さっそく出かけていった。
人気パビリオンは長蛇の列で、2時間待ち、3時間待ちなんてものもある。
しかし、結構回ることができた。今回多くのパビリオンで導入されている
予約制と整理券のおかげだ。
予約はインターネットからできる。2つのパビリオンしか予約できないが、
会場に行けば整理券を配っているところもあるから、効率的に整理券を
手に入れれば、無駄な待ち時間を減らすことができる。大いに助かった。
もっとも、逆に言うと、予約をしていない人はそれだけ多目に待たされ、
割を食ったことになる。整理券の配布に間に合わなければ、そもそも全く
そのパビリオンを見られない。問題もあるわけだ。
それでも、部分的に予約制を採用することによって、かなり行列を減らす
ことができているのではないかと感じた。
川本眼科も、予約制を何度も検討してきた。しかし、予約制というのは、
ある程度診療と診療の間に時間的ゆとりがないとうまくいかない。
ゆとりがないと、1人の診療時間延長がドミノ式に次々に影響してしまい、
後になるほど遅れることになる。予約時間通りにならないと、当然クレーム
となる。
さらに、とびこみ受診の患者さんをどうするかという問題がある。
困ったことがあるからこそとびこみで受診するわけで、予約がないからと
追い返すことなどできるはずもない。
つまり、完全予約制はうまくいきそうもない。
そう思って川本眼科は予約制は採用してこなかった。
しかし、愛・地球博のように、部分的な採用なら可能かも知れない。
たとえば1日20人とか30人とか限定すれば、予約時間をきっちり守る
ことも可能になる。予約システムを売り込みに来た業者によれば、患者
さんの3割を予約にすれば、待ち時間が半減するという。
とびこみ受診も別に問題ない。なるほど、これは検討の価値がある。
問題は、予約にするかしないかの線引きが難しいことだ。誰しも優先的に
診察を受けたいだろう。早いもの順にするのか、1週間以内に受診する場合などと条件をつけるのか、手術患者さんなどに限定するのか、いろいろな
やり方が考えられる。
どう決めても、予約でない患者さんから文句が出そうだ。
家内は、予約を取る業務に人手を取られるから反対だと言う。
それも一理ある。
ただでさえ受付は忙しい。これ以上仕事を増やすことは避けたい。
また、電話が予約のために占領されてしまうのも困る。
かと言って、インターネット予約では、パソコンなど触らない高齢者から
苦情が出るに決まっている。
・・・そんなわけで、今も迷いつつ、いまだ予約制には踏み切れないでいる。