川本眼科

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川本眼科だより

川本眼科だより 46医学用語 2003年12月31日

医学用語には難しいもの、なじみがないものが多いと思います。
 
説明に医学用語を使うな、という意見も多いのですが、私はある程度医学用語を使ったほうが、説明が正確になり、わかりやすくもなると考えています。

医学用語は難しく感ずる

医学の専門用語は、患者さんには普通なじみがありません。なじみのない言葉は、それだけで難解に聞こえます。だから、医学用語を使った説明は、どうしても難しく感じてしまいます。
 
医学用語を使わずに説明できれば、それに越したことはありません。私も、日常用語で十分通じるときは医学用語を使いません。
 
しかし、医学用語を使わないと、どうしても不正確で大ざっぱな話になりやすいのです。

専門用語はそのうち慣れる

専門用語というのは、繰り返して使っているとだんだんなじんでくるものです。
 
良い例が野球や相撲の中継です。初めて聞く人は専門用語がたくさん出てきてびっくりするに違いありません。しかし、興味を持って聞いていれば、そのうちに慣れてしまいます。慣れてしまえば、今度は専門用語を使わない説明はまどろっこしいと感じるに違いありません。
 
例えば、「上手投げ」とか「外掛け」とかの用語を使わずに相撲の勝負を説明することを想像してみてください。
 
用語というのは、必要があって作られるものなのです。医学用語も同じです。医学用語は、内容をきちんと理解している人にとっては大変便利なものなのです。

医学用語が日常語に

「白内障」という言葉は医学用語です。現在ならたいていの方がご存じですが、かつては一般の方に知られていませんでした。
 
しかし、白内障についての詳しい説明は、「白内障」という言葉を使い、それがどんな病気かある程度理解していただいて初めて可能です。
 
もしも、「白内障」という言葉を避けて、「目の中にあるレンズの働きをする部分が濁って見えづらくなる病気」と言わなければならなかったら、説明は非常に困難になります。なんとか説明してもわかりづらくてしかたありません。きっと患者さんの頭にはほとんど残らないでしょう。
 
今日では、「白内障」という言葉は日常語になっています。正確な意味は知らなくても言葉を聞いたことがあるので、この言葉を使ってもあまり難しく感じません。
 
昔、白内障のことが知られていなかったとき、医師は説明に苦労しました。その頃眼の病気はみんな「そこひ」と言ったので、「白そこひ」と説明しました。今でも「白そこひ」という言葉を使う眼科医がいますが、今日では「白そこひ」のほうが正式の病名である「白内障」よりわかりやすいと考える人はほとんどいないと思います。

「眼底出血」は不正確

「網膜静脈分枝閉塞症」という病名をご存じですか? これは網膜の血管が詰まって出血する、という病気ですが、こんな病名は聞いたことがないという患者さんが大半だと思います。
 
そこで、比較的知られている「眼底出血」という言葉を使って説明することが多いのです。しかし、眼底出血と言い換えた途端、話は不正確なものになってしまいます。
 
なぜなら、眼底出血にはいろいろあって、糖尿病が原因になる場合、高血圧が原因になる場合、ぶどう膜炎が原因になる場合など、さまざまだからです。
 
必要があって他の医師にかかる場合でも、「網膜静脈分枝閉塞症」と言えば何がおきているかすぐ伝わりますが、「眼底出血」ではわからないのです。
 
ですから、私は、たとえ言葉になじみがなくても、きちんとした正式の病名を伝えて、その病名を使って説明したほうがよいと思います。

用語についても十分説明を

以上、医学用語を使う利点を述べました。
 
しかし、医学用語は、医師のほうは使うのに慣れていますが、患者さんのほうは慣れていません。患者さんは、一回説明しただけでは医学用語の意味を理解できないことが多いのです。それで、

「あの医者は、難しい言葉ばかり使って、話していることがちっともわからん」
などということになりがちです。
 
医学用語を使うときは、繰り返し意味を説明したり、説明を書いたパンフレットをお渡しするなど、患者さんに理解していただく努力が不可欠です。
 
それでも患者さんによっては理解していただくことが困難なことはあります。その場合、ある程度正確さは犠牲にしても、その患者さんに理解できるような説明をすることになります。
 
医学用語は便利なものですが、使用には十分注意が必要、というわけですね。

2003.12