川本眼科

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川本眼科だより

川本眼科だより 49網膜剥離(もうまくはくり) 2004年3月31日

女優の樹木希林さんが、網膜剥離(もうまくはくり)のため左目を失明されたそうです。
 
川本眼科にも、網膜剥離を心配して受診される方が増えましたので、今回は網膜剥離についてご説明いたします。

 網膜とは

網膜は、眼球の後ろのほうにあります。カメラで言うとフィルムにあたる部分です。
 
網膜には、「視細胞(しさいぼう)」という、ものを見る働きを持つ細胞があって、この細胞で光の明暗や色を感じるのです。見た情報は視神経を通って脳に送られます。
 
網膜の中央には「黄斑部(おうはんぶ)」という視細胞が密集した部分があります。ものをはっきり見ることができるのは黄斑部だけです。視力が1.0とか1.2とかいうのはみんな黄斑部の話です。網膜の面積は広くて眼球の内側半分以上を覆っていますが、黄斑部以外は視野の広がりに役立っているだけで、視力に換算すると0.04くらいしか出ません。

網膜剥離とは

網膜剥離というのは、文字通り網膜がはがれてしまう状態です。たいていは、網膜に穴があくことによっておこります。穴はたいてい網膜の周辺部にあき、穴から水が入り込むためにだんだんはがれていってしまいます。
 
穴だけなら、レーザー光線によって穴の周囲を焼き固めることによって網膜剥離になるのを防ぐことができます。しかし、網膜剥離が進行してしまうと手術しか方法がありません。
 
剥離した部分が黄斑部まで広がると視力が大きく低下します。黄斑部が大丈夫なら、視力はそれほど下がりません。
 
ですから、網膜剥離が黄斑部に達する前に手術したほうがよいのです。つまり、網膜剥離の手術は一般的にできるだけ急ぐべきだと言えます。
 
黄斑部まで剥離すると、手術で元に戻してやっても視力の大幅な低下は避けられません。それでも、黄斑部が剥離してから早い時期に手術すればある程度の視力(0.3とか0.5とか)を保つことができます。時間が経ってしまうと0.1以下の視力しか出なくなり、さらに放っておくと完全に失明することになります。
 
つまり、網膜剥離が疑われる場合には、できるだけ早く眼科を受診したほうがよいでしょう。たとえどんなに仕事が忙しくても、1週間も2週間も放置するのは自殺行為です。

飛蚊症が最初のサイン

飛蚊症(ひぶんしょう)とは、何かが目の前を飛んでいるように見えるという症状を言います。文字通り蚊が飛んでいるように見えることも多いのですが、髪の毛のように見えたり、泡のように見えたり、雲がただよっているように見えたり、さまざまです。
 
網膜の前には硝子体(しょうしたい)という生卵の白身のような物質があり、この硝子体に濁りを生ずると飛蚊症として感じられるのです。
 
50歳以降になると、硝子体が縮んで網膜との間にすき間があくという現象があり、このとき飛蚊症がおこります。たいていは心配ないものですが、そういう時期には、硝子体が網膜を引っ張って穴があいてしまうことがあり、この穴が網膜剥離の原因になります。また、穴があくときに網膜の血管が切れることがあり、硝子体に出血すると、これも飛蚊症となります。
 
つまり、飛蚊症を自覚したら、網膜剥離の可能性を考えて眼科で眼底検査を受けたほうがよいでしょう。このときは散瞳することになりますので、帰りはまぶしくなったり、ピントが合いづらくなったりします。車の運転はお避け下さい。

仕事は大事だが

樹木希林さんの件について私は詳しく存じません。おそらく深い事情があるのでしょう。それでも、なぜ手術を受けなかったのかは疑問です。
 
網膜剥離はふつう早く手術することが大事で、うかうかしていると手遅れになります。
 
仕事はもちろん大事でしょうが、片目を失明することと引き換えにするほど価値のある仕事はまれでしょう。そもそも、失明してしまったら、仕事を続けていく上でも差し障りが出てくるでしょう。希林さんも台本が読めなくなってしまい、せりふのある役は断っていらっしゃるそうです。
 
まず目の治療をすることが、長い目で見れば仕事のためにもなると言えるのではないでしょうか。

片目が見えていればよいか

片目が見えていればよいという考え方にも賛成できません。確かに、網膜剥離になった目を手術しても、健康なほうの目ほど視力は出ないかも知れません。片目が1.0でもう一方が0.3なら結局悪いほうの目は字を読んだり細かい作業をしたりすることの役には立っていません。
 
しかし、健康な目にも何がおこるかわかりません。例えば、目に異物が入って痛くてたまらない時、片目が失明していたら眼帯をすることさえままなりません。片目に0.1でも視力が残っていればそんな時どんなに助かるでしょう。
 
それに、片目では視野が狭くなってしまいます。視力が悪くなっても、見える範囲の広がりには十分役に立つのです。
 
網膜剥離の手術の成功率は近年非常に高くなっており、手術をすれば90~95%の確率で網膜を元に戻すことができます。1回だけでは戻らないこともありますが、2回、3回と手術をすればほとんどのケースで剥離は治ります。(前述したように術後視力の出方は黄斑部がはがれていたかどうかなどで異なります)
 
網膜剥離になってしまったら、悩むより先に、すぐ治療を受けることをお勧めいたします。

2004.3