川本眼科だより 62個人情報保護法 2005年4月30日
4月1日から「個人情報保護法」が施行されます。医療機関も「個人情報取扱い事業者」として厳格な情報管理が求められることになりました。
問題は、この法律を杓子定規に適応すると、患者さんやご家族が不便になってしまうことです。また、個人情報保護だけを優先すると、かえって医療安全上おかしなことになる問題もあります。
厚生労働省のガイドラインでは、医療機関内に掲示を出すことで患者さんの同意を得たものとみなすとしています。実際の対応は医療機関によって少しずつ異なり、当初はある程度混乱することは避けられないでしょう。
個人情報保護法とは
4月1日から「個人情報の保護に関する法律」が施行されます。5千件以上の個人情報を取り扱う組織は「個人情報取扱い事業者」として厳格な情報管理が求められることになりました。
近年、氏名・住所・電話番号・年齢・趣味・購入した商品などの個人情報がコンピュータなどに集められ、それをもとにダイレクトメールが発送されたり、迷惑でしつこい勧誘電話がかかってきたり、はては振り込め詐欺がおこったり、さまざまな問題が生じています。このような事態に対処し、個人情報の管理を厳格にしようということで制定された法律です。
医療機関もこの法律を守らなければなりません。カルテの数が5千に達しなければ法律上は対象外ですが、厚生労働省はそういう医療機関でもこの法律を遵守するよう求めています。
患者さんや家族は不便になる
この法律には問題があります。法律を杓子定規に適応すると、患者さんやご家族は確実に不便になるだろうと予想されるのです。
当初は「外来で患者さんの名前を呼んでもいけない。名前は個人情報だから」とさえ言われていました。さすがにそれはおかしいので、問題ないということになったようですが、私が聞きに行った講演会では「マイクで呼ぶのは避けたほうがいい」などと解説する講師もいました。でも、耳の遠い患者さんはどうするのでしょう?
入院患者さんの名札を部屋やベッドに掲示するのも良くないそうです。実際に、名札を取り外す病院もあります。しかし、名札を取り外すと患者さんの取り違えがおきやすくなりそうで心配です。医療安全の問題は個人情報保護に優先するはずです。もちろん、患者さんから特に要望があったときに対応するのは当然ですが。
病院に「○○さんは入院していますか」「何号室に入院していますか」という質問をしても、これからは教えてもらえません。おそらく、大勢の人が困るはずです。
家族への病状説明ができない!
もっと深刻な問題もあります。
個人情報保護法では、医師が家族に病気の説明をする際には、本人の同意を得なければならないことになっています。
ですから、本人と家族が同席している場合などは「本人の同意があるものとみなす」ということでかまわないのですが、家族だけが来院された場合は病状説明ができないのです。
本人の署名のある同意書があればまず問題ありませんが、ふつうそんなものをわざわざ持参しないでしょう。電話で本人に確認を取ればよいのでしょうか? でも、電話では本当に本人かどうかはわからないですよね。
厚生労働省が出したガイドラインでは、「本人に対し、あらかじめ病状説明を行う家族等の対象者を確認し、同意を得ることが望ましい」とあります。入院の場合ならともかく、外来患者さん全員にあらかじめいちいち確認するのは大変な手間ひまで、現実的ではありません。
そこで、川本眼科では『個人情報保護のための暗証番号』を事前にお決めいただき、この暗証番号をご存じの方だけに病状説明することにいたしました。ご家族などには暗証番号を教えておいていただくことになります。
なお、暗証番号を決めずに「とくに確認なしに病状説明してよい」という形ををお選びいただくこともできます。面倒くさいことが嫌で、不便になるのは困るという方はこちらをお選び下さい。
電話での病状説明もダメ?
電話でご家族に病状説明をするのはどうでしょうか? あるいは、たとえご本人からでも、電話で説明してよいのでしょうか? 電話では本人を詐称している可能性もありますよね。
この法律に関する講演会では、「これからは電話での説明はできるだけ避ける」という話でした。でも、それではあまりにも不便です。
川本眼科では、電話でのご質問や問い合わせに対しても、『個人情報保護のための暗証番号』を確認することで対応させていただきます。この場合、たとえご本人からの電話であっても、暗証番号をお答えいただくことになります。
暗証番号を決めないで、従来通りの取扱いにすることも可能です。この場合でも、保険会社や報道機関など明らかな他人には、ご本人の同意がない限り個人情報を教えることはありません。
詐称への対応
赤の他人が、本人と偽って、あるいは家族と偽って、個人情報を得ようとするような事態も考えられます。
『個人情報保護のための暗証番号』を決めておけば、基本的には大丈夫なはずです。ただし、暗証番号の取扱いには十分注意していただく必要があります。
暗証番号を決めなければ、家族を詐称するなど、誰かが悪意をもって騙そうとした場合には、見抜くことはできません。もっとも、ふつうそんなことはほとんどないと思います。とくに眼科の場合、病気に関する情報がそれほど重要な意味を持つ事態は考えにくいと思います。
情報保護を完璧にしようとすればするほど不便にもなってしまいますから、どこかで折り合いをつけることが必要だと思います。
院内掲示で同意があるとみなす
医療機関では個人情報を、会計に使ったり、業者に血液検査を依頼したり、他院に紹介状を書いたり、さまざまな形で使用します。これは、医療サービスの提供のために必要不可欠なことと考えられます。
厚生労働省のガイドラインによれば、個人情報の利用範囲を施設内へ掲示しておけば、患者さんから「特段明確な反対・留保の意思表示」がない限り、同意が得られているものとみなしてよいことになっています。掲示をご一読下さい。
川本眼科の対応
川本眼科の「個人情報の利用範囲」や「個人情報保護方針」は、院内に掲示するほか、希望者には文書でお渡しいたします。ホームページにも掲載する予定です。
なお、個人情報に関して特別な希望がある場合は遠慮なくお申し出下さい。担当者がお話をお伺いし、必要があれば院長が対応いたします。ただし、かえってミスを誘発するようなご要望にはお応えできないことがありますのでご了解下さい。
2005.4