川本眼科だより 63ショボショボして涙が出る 2005年5月31日
60歳を過ぎる頃から、「なんだか目がショボショボする」「いつも涙でうるんだ感じで、時々涙がこぼれる」といった症状を訴える方が急増します。
外来では時間がないために、「歳のせいだからしかたがない」なんていう話になってしまうことが多いのですが、なぜこういう症状が出るのか追求すると、なかなか奥が深いのです。外来では説明しきれない点を解説し、あわせて手術療法をご紹介いたします。
ショボショボ、ゴロゴロ
「目がショボショボする」「ゴロゴロする」
「さかまつげがあたっているような感じがする」
60歳以上になると、絶えずこういう症状に悩まされている方が増えます。
実際にさかまつげがあたっていることもよくあります。しかし、さかまつげを抜いてもまだ何かあたっているような感じがとれないことが多いのです。つまり、さかまつげ以外にも原因があるわけです。
診察してみると、たいていは角膜に細かいキズが見られます。角膜には知覚神経が密集しているので、少しのキズでもゴロゴロ、ショボショボしてしまいます。では、このキズはどうしてできたのでしょうか。
もちろん、目に何か入ったとか、目をこすったということでもキズはできます。しかし、そういうキズなら、比較的短期間で治ります。なかなかキズが治らないのは、それなりの理由があるのです。
涙が角膜を保護できていない
角膜に絶えずキズができるのは、涙が角膜(黒目)をきちんと覆っていないからだと考えられています。
涙は角膜の表面に薄い膜をつくり、角膜を守っています。この涙の膜はだんだん乾いてきますが、しばらくするとまばたきをして、再び新しい涙の膜を作ります。無理をして目を開けたままにしておくと、涙の膜が乾くので痛くなってきます。
涙の量が減っていたり、涙が蒸発しやすくなっていると、若い方でも角膜にキズがつきます。これはふつうドライアイと呼んでいます。
高齢者のドライアイは多く、とくに涙が蒸発しやすくなるタイプが多いのが特徴です。涙の蒸発を防ぐあぶらが分泌されにくくなっているのが原因だとされています。
ただ、ドライアイだけが原因ではないのです。
涙が足りないのに涙が出る?
60歳以上でゴロゴロ、ショボショボする場合、同時に「涙が外にこぼれて困る」という症状もあることが多いのです。
角膜を涙が保護できていないのだとすれば、涙は足りないわけです。これは、一見、涙が外に出てくるという症状とは矛盾します。いったい、どういうことでしょう?
ショボショボして、しかも涙が出る場合には、結膜弛緩症が原因になっていることが多いのです。
涙のプールができない
下まぶたのところには、いつも涙がたまっています。「涙のプール」ができているのです。専門的には涙液メニスカスなんて呼んでいます。
まばたきをすると、この「涙のプール」の涙が角膜全体に広がって涙の膜を作るのです。
ところが、加齢とともに、白目の表面にある結膜がだんだんたるんで余ってきます。たるんだ結膜は下まぶたのところにはみ出すようになり、涙のプールができるのを邪魔します。これを結膜弛緩症と言います。
結膜弛緩症になると、涙がたまらず、どんどん流れていってしまいます。角膜にキズがあると、刺激のために涙は増えます。ところが、涙のプールがうまくできないので、外にこぼれてしまうわけです。そして、涙のプールがないために、角膜は乾きやすくなってしまいます。
つまり、せっかく出た涙が、角膜を守ることに有効活用されていないわけです。
結膜弛緩症の手術
結膜弛緩症には、まず、角膜を保護する目薬が使われますが、目薬自体がどんどん流れてしまうため、あまり有効とは言えません。
ここ数年、結膜弛緩症に対して積極的に手術がされるようになりました。要するに、たるんでいるものを切り取ってしわを伸ばそうという手術です。日帰りでできる手術で、痛みもほとんどありません。安全性も非常に高く、眼球内にメスを入れる白内障手術よりも危険は少ないと言えます。気になることと言えば、手術後しばらく白目が赤いということくらいでしょうか。これも1ヶ月もすればすっかりきれいになります。
発表されている論文によれば、手術成績はかなりよく、手術を受けた患者さんのうち90%の方で症状が改善したそうです。ずいぶん多くの眼科で行われるようになり、一般的な手術になったとみてよいでしょう。
この手術は、社会保険中京病院で受けることができます。中心になって執刀されているのは原修哉先生です。(以前川本眼科の非常勤医師として診療して下さったこともあります)
もし、手術をご希望の方がいらっしゃいましたら、中京病院の眼科に紹介いたしますので、どうぞ医師に御相談ください。
2005.5