川本眼科

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川本眼科だより

川本眼科だより 64少子化と医療 2005年6月30日

少子化が話題になっています。総理府の推計では、2006年から日本の人口は減少し始めるそうです。
 
少子化を問題視して、「大変だ、大変だ」という声ばかり聞こえてきますが、私は悪いことばかりではないと思っています。むしろ、人口は少し減ったほうがよいのではないでしょうか。
 
ただ、当然、少子化や人口減少で社会は変動していきますし、いろいろな所に影響が出ることは避けられないでしょう。
 
今回は、医療の世界で少子化がどういう影響を及ぼしているかを取り上げてみます。

少子化は本当に大変?

少子化が急速に進行しています。このままだと、2006年から日本の人口は減り始めるそうです。
 
一般のマスコミは「これは大変だ、なんとか対策しなければ」と騒いでいます。政府も問題視しているようです。なんでも、経済成長が鈍って国民総生産が減ってしまう、若者が少なくなり労働人口が減ってしまう、とのことです。
 
でも、人口が減ることは本当にまずいことなんでしょうか? -私はそうは思いません。ひとりあたりの生産額が維持できれば豊かさは保てるはずですし、働き手の問題も、55歳なんていう定年を維持しているのがおかしいだけで、65歳くらいまでみんなに働いてもらったらいいだけのことではないのでしょうか?
 
土地価格、住宅不足、受験戦争、交通渋滞、ゴミ問題・・・これらはすべて、人口が多すぎることが原因になっていたはず。そして何より、たくさんの人口を養おうとすると、それだけ環境破壊が進んでしまいます。もし人口が増え続ければ、どんどん問題は深刻になっていったに違いありません。
 
そもそも、明治初期には日本の人口は3500万人ほどでした。わずか100年で3倍以上に激増したのです。第2次世界大戦の頃でも7500万人くらいでした。戦後だけで5000万人も増えたのです。いろいろひずみが出て当然でしょう。
 
私には、人口減少は天の助けとさえ思えます。

少子化と高齢化で医療は

少子化は、結局「子供の数が減ること」です。
 
そして、子供が減るぶん、相対的に高齢者の数が増えます。すなわち少子化は人口の高齢化でもあるのです。
 
医療の世界に関して言えば、少子化で困るのは産婦人科と小児科のはずでした。逆に患者さんに高齢者が多い科、例えば眼科は有利になるはずでした。
 
ところが、少なくとも現時点では予想の通りになっていません。少子化を予測した若い医師の動きが先回りしてしまったのです。

産婦人科医は余ると思いきや

確かに、産婦人科の世界では、生き残りをかけて競争がおこりました。病室をきれいにしたり、フランス料理を出したり、ホテルかと見間違えてしまいそうな産科の病院が出現しました。これは、医療の本質に関わる向上とは言えないものの、快適なお産を提供することにつながりました。供給過剰になって競争原理が働いたのです。
 
しかし、事態は10年ほどの間に思いがけない方向に進行してしまいました。産婦人科を志す医師が激減したのです。そして、ある程度以上お産が減ると、もはや採算が取れないという理由で、お産の取扱いを中止してしまう産婦人科医が増えたのです。その結果、都市部でも自分の町でお産ができない地域ができ、1時間も離れた遠くの病院で産まざるをえないという困った事態に陥っています。
 
少子化に伴って産婦人科医が余るのではないかと思いきや、お産の減少を上回るスピードで産婦人科医が減ってしまい、むしろ足りなくなっているのです。

小児科医も足りない

小児科も、常識的には少子化で余るような気がします。
 
ところが、実際には、かえって小児科医は不足しています。小児科のなり手がすごく減ってしまっているのです。少子化が予測されたことも、その理由の1つです。
 
少子化のせいで、小児科をなくしたり、小児科を縮小したりする病院も増えています。小児科は赤字なのです。そのため、最近では、医療費がみな削減される中で、小児科の診療報酬だけは増額されています。それでも、小児科が減少する流れに歯止めはかからないようです。
 
逆に、少子化によって、ひとりの子供を大切に育てようという意識が高くなり、風邪のような大したことのない病気でも夜間の救急を受診する結果、小児救急はほとんどパンク状態だそうです。

眼科は有利なはずだったが

高齢化社会の到来により、眼科は有利になるはずでした。何と言っても、眼科の病気は60歳以上で圧倒的に多いのです。
 
ところが、そういう予測の結果、眼科医の数が急激に増えました。外科医が2万4千人なのに、眼科医は1万2千人もいます。どうみても多すぎます。それも、ここ10年で異常に増えています。近い将来、眼科医が過剰になる時代が到来するでしょう。
 
みんなが同じことを予測して同じ行動を取ると、かえって反対の結果が生じるというのはよくあることです。
 
いずれ、誰の目にも状況がはっきりすれば揺り戻しがあって安定するのだとは思いますが、当分の間は混乱しそうです。
 
少子化の思わぬ余波と言えるでしょう。

2005.6