川本眼科

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川本眼科だより

川本眼科だより 66はやり目と集団感染 2005年8月31日

はやり目とは、ウイルスによる結膜炎のうち、きわめて感染しやすいものの総称です。
 
はやり目は、幼稚園や学校などで次々にうつってしまい、爆発的に広がることがあります。そのため、はやり目にかかったら、学校や仕事は休んだ方がよいとされているのです。
 
しかし、今日、学校や仕事を休むことは、そんなに簡単なことではなくなっていて、いろいろ悩むことが多くなりました。

はやり目とは

結膜炎はいろいろな細菌やウイルスによっておこります。(アレルギー性の結膜炎もあります)そのうち、アデノウイルスやエンテロウイルスによっておこる、感染力がきわめて強力な結膜炎のことを「はやり目」と総称しています。
 
はやり目は本当は単一の病気ではなく、原因ウイルスはいくつもあります。ただ、どれも似たような症状(充血・めやに・まぶたの裏側のブツブツ・ゴロゴロ感など)をおこすので、症状だけからはどのウイルスによるものか区別は難しいのです。それにどのウイルスが原因でも治療法はほとんど変わりません。かぜの場合と同じですね。
※専門的には、流行性角結膜炎(アデノウイルス8型・4型・37型・19型等でおこる)、咽頭結膜熱(アデノウイルス4型・3型等でおこる)、急性出血性結膜炎(エンテロウイルス70型でおこる)の3種類に分類されています。
 
ですから、たとえ、1つのウイルスに感染して免疫ができても、別のウイルスに感染する可能性があります。何度もはやり目になっても不思議はありません。

はやり目は爆発的に広がる

はやり目が本当にはやり始めると大変です。次々に発症し、短期間で爆発的に広がります。
 
東大病院でも、眼科病棟で院内感染がおこったことがあります。教授・助教授・講師らがやっきになって食い止めようとするのですが、相手はどこかに潜んでいて、また1人、また1人と発症するのです。とうとう、すべての入院患者を強制的に退院させ、手術も全部中止にして、病棟内を徹底的に消毒する処置が取られました。
 
東大だけではありません。多くの有名な大学病院で、はやり目の院内感染がおこっています。しかも、一度おこるとなかなか終息させるのは大変なのです。眼科にとっては信用問題にもなりますから、当然ふだんから注意もしているし、それなりに対策も取っているわけですが、それでも起こるときは起こってしまうのです。

手で触ることで感染する

めやにが多いときにはウイルスもたくさん出ています。はやり目の患者さんが、自分の目をさわり、そのあとドアの取っ手や引き出しなどをさわると、ウイルスがそこに付着します。誰かがその取っ手や引き出しをさわり、そのあと自分の目をさわると感染してしまいます。
 
ウイルスはかなり長い間生き残るので、誰が触ったかなどふつう特定は不可能です。それに、実際に発症するのは、感染機会があってから5日~14日も後のことなのですから。(ウイルスの種類によって異なります)
 
従って、感染を防ぐには、目をできるだけさわらないこと、手洗いを十分に行うこと、タオルなど共用することを避けること、等が大切です。
 
特に手洗いは重要で、ふだんの3倍くらい時間をかけて丁寧に洗うこと、何度も何度も頻繁に洗うことが推奨されています。
 
これらの対策をしても感染することはあります。できれば仕事を休んだほうがよいのです。

保育園や学校での集団感染

子供の場合、大人より感染防止が困難なことはおわかりいただけると思います。一度誰かがかかってあちらこちら触りまくると、どこにウイルスが生き残っているかも知れず、対策は非常に困難なものとなります。うかうかしているとほとんどの児童がかかってしまったりするのです。
 
多くの保育園や幼稚園や学校が痛い目に会ってきました。集団感染のために学級閉鎖を余儀なくされることも結構ありました。
 
ですから、はやり目にかかっている子供を登校禁止にする処置が取られてきたことは当然と言えます。集団感染が起こってからでは遅く、水際で食い止める必要があるからです。

はやり目かどうか微妙な時

そのため、結膜炎になると必ず「これははやり目でしょうか」「学校に行っても大丈夫でしょうか」という質問が寄せられます。
 
しかし、実は初診の段階ではやり目かどうか判定するのは無理があるのです。かなり経験のある医師が判定しても、6割から7割くらいしかあたらないという調査報告があります。
 
すでに典型的な症状が出そろっている場合は問題ありません。はやり目であることの診断も容易です。はやり目なら、もちろん登園・登校は禁止です。完全におさまるまで2週間くらいかかります。
 
問題は、微妙なケース、つまり比較的軽度の結膜炎の場合です。実は、その多くは本当ははやり目ではありません。しかし、最初は軽くても、後から典型的なはやり目になることがあるので、油断はできません。もし、はやり目ではないとうっかり診断すると、その間に感染を広げてしまう危険があります。
 
しかしウイルスの同定は何日もかかり、こういう判定には間に合いません。はやり目かどうか調べるための迅速診断キットというのがありますが、実はあまり役に立ちません。陽性ならほぼ間違いなくはやり目と言えますが、陰性の時でもはやり目を否定するわけにはいかないのです。私の印象では、眼科医が診ただけではやり目だろうと判定できるケースしか陽性になりません。そのため私は最近はこの検査をしていません。
 
はやり目で感染の危険が大きいかどうかは、何日間か経過観察をすればはっきりします。充血やめやにがおさまってしまえば感染力も心配する必要がありません。
 
したがって、はやり目が疑われるときは一応通園は中止していただき、3日後くらいに確認をするというやり方が無難です。時間が経てば判定しやすくなるのです。

念のための通園中止が困難に

ところが、近年、働くお母さんが増え、子供を預けられる近親者も近くにいないケースが多くなり、こういうやり方が難しくなってきました。
 
女性の場合、パートや非常勤で身分が不安定な場合が多いのも問題です。小さな子供がいれば既に熱発などのため仕事を休んでいることも多いので、「これ以上休むとクビになる」という深刻な相談になってしまうこともあります。
 
そういう時は、はやり目かどうかまだ断定できない状態でも、はやり目の可能性が低いと思えば保育園などへの通園を許可してしまっています。
 
でも実は、もしこれがはやり目だったら、といつもヒヤヒヤしているのです。

2005.8