川本眼科だより 78携帯電話規制の是非 2006年7月31日
電車の中で携帯を使ってよいかどうか、対応はまちまちです。電源を切るよう言われることもあれば、マナーモードやメールならよいということもあります。
ほとんどの病院では最近まで携帯電話の使用が禁止されていましたが、最近は携帯電話を解禁する病院が増えてきました。
いったい、携帯を使っても大丈夫なんでしょうか? そもそも、なぜ使用が規制されているのでしょうか?
携帯電話はなぜ禁止されたか
携帯電話を規制する根拠とされているのは「心臓ペースメーカーが誤作動する危険」「医療機器が誤作動する危険」です。
総務省の電波環境協議会(旧不要電波問題対策協議会)が何回かにわたって携帯電話の影響についての実験結果を公表し、「影響はありうる」ことを指摘したために、広く禁止されるようになりました。
しかし、近年、禁止が過剰反応ではないかと批判されており、どちらかと言えば解禁する方向に向かっているようです。
ペースメーカーの誤作動はまれ
携帯電話は心臓ペースメーカーに影響するから混雑した電車の中では電源を切るべきだとされています。これは電波環境協議会が出した「22cm以上の距離を確保することが望ましい」という指針によっています。
しかし、この指針の根拠になっている報告書をよく読むと、実際の携帯電話を使って10cm以上の距離でペースメーカーにに影響が出たのは70機種中1機種に過ぎません。1機種だけが15cmの距離で影響が出たので、電波が半分に減衰する距離として15cmを1.4倍した22cmなら安全だとしたのです。それも実際には絶対ありえない最高出力で連続発信する最悪条件での実験です。
しかも、影響と言ってもペースメーカーが故障してしまうわけではなく、一瞬動作が不安定になるだけで、すぐに元に戻るのです。
さらに、今年あらためて最近の携帯電話を使って試験が行われていますが、影響が出たのは最高で3cmでした。故意に接触させなければ大丈夫です。22cm離すという指針が改定されないのは、古い機種もまだ使われているからです。
そのうえ、電波による誤作動はペースメーカーのほうで対策が可能です。そもそも、ペースメーカーがそんなに簡単に誤作動するようでは困ります。最新のペースメーカーでは誤作動はきわめておこしにくくなっているとのことです。
実際、これだけ携帯電話が普及しているのに、今までペースメーカーが誤作動した事例はないそうです。
ペースメーカー装着者自身が携帯電話を使用することも禁止されてはいません。ただし、22cm以上距離をあけることが推奨されています。
絶対にペースメーカーの誤作動がおこらないと断言するわけにはいきませんが、相当まれなことだと考えてもさしつかえなさそうです。ぎゅうぎゅう詰めの満員電車でなければ、それほど目くじらを立てる必要があるとは思えません。
ちなみに、電車の中で携帯使用を制限している国は、日本以外にはほとんどないそうです。
病院での携帯使用
多くの病院では携帯電話の使用が禁止されています。一時は8割くらいで全面禁止でした。
理由は「医療機器が電磁波で誤作動する危険があるから」です。
しかしながら、医療機器が誤作動するのは、一部の機器で30cm以内に携帯電話を近づけた時だけです。一般に1m離せば十分な余裕を持って安全と考えられています。
病院は、たくさんの医療機器が集まっているところでもありますが、入院患者が生活し、患者さんの家族が見舞いに訪れる場所でもあります。
重症の患者さんに付き添っている家族や友人が、電話で連絡を取り合うのは十分に理由のあることです。刻一刻と変わる病状を知りたいのは人情ではないでしょうか? それほど緊急でなくても、長期入院の患者さんにとって、電話で家族といつでも話ができることは、心安らぐことではないでしょうか?
もちろん公衆電話を利用することは可能ですが、病室から離れなければなりませんし、誰かが使っていれば使えません。外から連絡をとることもできません。
いろいろ考えていくと、携帯電話解禁にはメリットが大きく、危険性はきわめて少ないと思われます。どうしても禁止する必要があるのは手術室や集中治療室(ICU)などに限られます。
携帯が目障りという感情
携帯電話の使用が非難され、禁止されるのは、必ずしも科学的根拠に基づいているわけではないようです。
むしろ、「携帯を使っているのが目障りだ」という感情の問題が大きいと思うのです。
同じ音の大きさでも、気にならない音と気になる音があるものです。一度ある音が気になり出すと、その人にとっては耐え難い騒音に感じられるということはよくあることです。
携帯電話は通話音質が悪く、ついつい大声になりやすいものです。公共の場で傍若無人に振る舞い、私的な会話をすることが不快なのです。電車は閉鎖空間で逃げられません。携帯で不要不急の話を長い時間されたらたまったものじゃない。それは私もよく理解できます。ですから、なるべく電車の中で通話を慎むのはマナーだと思います。呼び出し音もうるさいですから、マナーモードにしておくほうがよいでしょう。
携帯使用はなるべく容認を
携帯電話は、確かにいろいろな機器に影響を与える可能性があります。しかし、その危険はきわめて小さく、ある程度の距離をおくことで十分防げます。
潜在的な危険を言うなら、包丁とか、自動車とか、危険なものはいっぱいあります。でも、そういうものを普通全面的に禁止することはしません。
携帯電話は利便性が高く、私たちの生活を大きく変えました。当然マナーは求められますが、携帯の使用自体はなるべく容認していくことが望ましいと考えます。
なお、川本眼科では、従来から携帯電話の使用を禁止していません。ただし、待合室では他人の迷惑になりますから、長時間の通話はお控えいただくようお願いいたします。
2006.8