川本眼科だより 85怪しげな医療機器 2007年3月31日
インターネットで検索してみると、いろいろな医療器具が見つかります。魅力的な効能・効果をうたってあって、気になります。効いたという体験談が載っていたりします。本当に効くものなら使ってみようかと言う気にさせられます。
口コミで紹介される医療器具もあります。無料で試せるなら、と出かけていくと販売員がいかに優れた機械かを説明してくれます。勧められて試してみると体が軽くなったような気もします。
こういう一般向けの医療機器に関して相談を受けることがあります。その気になって調べてみると、いろいろと疑問がたくさん出てきました。少なくともきちんとした学術論文の形で効果を証明したものではないようです。
なお、「効果がない」ことを明確に証明することは難しいので、商品名は出さないことにしました。ご理解ください。
超音波視力回復器
超音波を目に当てて近視や老眼や眼精疲労を治療しようという機械が売られています。
強力な超音波を使えば、水晶体が濁って白内障になる危険があります。出力が高ければ、他の部位にも障害をおこしかねません。実際にはごく微弱でそれほどの危険はないと考えられますが、そんなに微弱だったら効果も出にくいでしょう。(※一部の記述を削除しました)
【追記2018.8.22】
この記事に対し、大日技研より抗議がありました。
この会社は「ソニマック」という機械を販売しています。
古い時代の承認とは言え、確かに医療機器承認番号も取っています。
超音波を出すということですが、その周波数は6千~1万2千ヘルツ。
人間の可聴域が20~2万ヘルツと言われていますから、超音波というより高音です。
この会社の超音波の定義は
「人の耳に聞こえる周波数でも聴くことを目的としないなら超音波」
というやや特殊なものです。
この周波数でしかも微弱な出力なので、エネルギーは非常に低く、
確かに安全だと思います。
ちなみに超音波白内障手術には約40キロヘルツ(4万ヘルツ)の強力な超音波、、
超音波検査には約3メガヘルツ(300万ヘルツ)の微弱な超音波が使われます。
私の記事はこのレベルの超音波を念頭に置いたもので、
大日技研の機器は該当しません。
基本的に可聴域の音波を出す機器なら危険性はありません。
つまり、大日技研の機器は安全で心配ありません。
効能効果については使用経験がないので、分かりません。
高電位治療器
高電位治療器なるものがたくさん出ています。価格は50万~100万円くらいするそうです。構造は単純で、恐らく原価は5万円くらいだろうと推定されています。無料のお試し展示会だの販売員の歩合制手数料だの、販売のためにコストがかかっていると思われます。
電圧は高くても実際にはほとんど電流は流れないようです。当然ですね。本当に電気が流れたら心臓が止まってしまうおそれがあります。電圧だけかかって電気が流れていない状態は、冬よく経験する「静電気」と同じです。電圧も数千ボルトくらいで一致します。
なんでも、頭痛・肩こり・慢性便秘・不眠症に効果があるのだそうです。この4つになぜ効くのかという説明はどこを探しても見つかりませんでした。4つの共通点としては、いずれも精神面の影響が大きいという点が挙げられます。暗示によってプラセボ効果が出やすいのです。
たぶん、コンセントを抜いたままでも、販売員が「よく効きますよ」と説明して親切にしてあげれば、「体調がよくなった」「体が楽になった」と言い出す人はたくさんいるでしょう。体験談などあてにならないのです。
ですから、こういうものできちんと効果を証明するためには、「二重盲検法」という手続きが必要です。高電位がかかっているイスとかかっていないイスを用意し、座って治療を受ける人にも、説明をする販売員にもわからないようにして、両方のイスの治療効果を比べるのです。
高電位治療器の場合、二重盲検法を行うことは決して難しいことではなく、何ら倫理的な問題もありません。ですから、高額な医療機器を売りつける会社の責任として必ず実施する義務があるはずです。
きちんと効果を証明した試験がされていない以上、信用するわけにはいきません。
この機器がどの程度信じられるかと言えば、昔オウム真理教の信者がかぶっていたヘッドギア程度だと思います。教祖麻原彰晃の脳波を送り込むという機械でした。今はあまり見かけませんが。
いや、別に馬鹿にしているわけではないですよ。ヘッドギアだって、「効果がない」ということを証明しようとすれば大変なんですから。信じる人が使えば効果はあるのでしょう。
マイナスイオン発生器
マイナスイオンを出すという医療機器もたくさんあります。ひところは医療機器どころか空気清浄機・エアコン・冷蔵庫・ドライヤーまでマイナスイオンを発生することがうたわれていました。
しかし、実はマイナスイオンとは何かという定義さえはっきりしていませんし、マイナスイオンが医学的に何か効果があるという証明もされていません。FDA(米国食品医薬品局)はイオンが健康に寄与するという証拠はないと結論づけているそうです。
そもそも、マイナスイオンがブームになったのは、「あるある大事典」というテレビ番組がきっかけだったことを思い起こして下さい。そう、納豆がダイエットに効くと大嘘をついたことがばれたあの番組です。どうもデータの捏造が常習化していたようです。
余談になりますが、いい加減な内容の医学情報を流す番組がもうひとつあります。「みのもんたのおもいッきりテレビ」という番組です。ここで紹介された事項はあまり信用しない方がよいと思います。
厚生労働省の承認番号
医療機器として広告するためには、厚生労働省の承認番号を取得する必要があります。
注意しなければならないのは、厚生労働省はこの承認番号を出すにあたっておざなりな書類審査しかしていないということです。その機器に本当に効果・効能があるかを検証してお墨付きを与えているわけではなく、ただ単に書類の形式が整っているか確認しているだけなのです。
しかし、この承認番号を取得することは、「怪しげな医療機器」のメーカーにとっては、錦の御旗を得たに等しく、「厚生労働省が認可した」と大々的に広告します。このために大勢の人がだまされています。厚生労働省は、少なくともこういう表示を禁止すべきだと思います。すぐにでもできるはずです。それをしないなら、詐欺の片棒を担いでいると非難されてもしかたないでしょう。
2007.3