川本眼科だより 89左右を比較する 2007年7月31日
目は2つあります。そのうえ、2つの目を別々に検査することができます。
眼科医はこのことを診療に利用します。左右を比較するという方法論は、眼科医ならおなじみのものです。今回は、眼科ならではの考え方をご紹介いたします。
2つの目を別々に調べる
目は2つあります。重要な臓器は、肺や腎臓など2つあるものが多く、これは片方がダメになってももう片方を使えるので、生存競争の上で有利だったと説明されています。
2つあっても、肺活量を左右の肺別に測定するわけにはいきませんし、腎機能を左右の腎臓ごと別々に調べることもできません。ほとんどの場合は左右まとめて一緒です。
しかし、目だけは、左右を完全に別々に検査することができます。視力検査も、眼圧検査も、視野検査も、すべて左右別々です。
左右の目は似ている
左右の目はよく似ています。それは当然のことで、遺伝子も同じですし、環境因子も同じですから、似ていないほうが不思議です。双子みたいなものですね。
2つの目は非常によく似ているので、片方の目におこったことは、もう一方の目にもおこるだろうと予想することができます。反対側の目に病気が発症することを予測して、予防的な処置を講ずることができるわけです。
例えば、片方の目に急性緑内障発作がおこった場合、もう片方の目にも約50%の確率で緑内障発作がおこることが知られています。そこで、予防的に「レーザー虹彩切開術」という処置をして緑内障発作を予防します。
左右差が診断の助けになる
2つの目は、似ているからこそ、もし違いがあれば何か特別の要因があるはずです。そういう左右の違いは、診断の助けになります。
両目に同じようにおきていることは生まれつきのもので病的意義はないかも知れません。もし、片目だけにおきていることなら、異常所見の可能性が高いと言えます。
例えば、視神経乳頭陥凹(ししんけいにゅうとうかんおう)という所見があります。視神経にあるへこみで、このへこみが大きいと緑内障の心配があるのです。この場合、左右同じくらいのへこみなら、生理的なものであまり心配しなくてもよいものかも知れません。でも、左右が大きく違っていたら、緑内障の可能性を強く疑います。
検査でも左右を比較
検査の時にも左右を比較することは大切です。
視力でも眼圧でも、眼科医はつねに左右を比較して考えます。そのことで検査結果をより正確に評価することができるのです。
左右を比較する必要性が高い検査として、視野検査があげられます。
視野検査は患者さんに集中力を要求する検査です。「ずっと目を動かさずに一点を見つめていられるか」「光にすばやく反応してボタンを押すことができるか」「指示を忠実に守ることができるか」などによって検査の結果が違ってきてしまいます。異常所見が出ても、本当に異常とみなしてよいのか迷うこともしばしばです。
このとき大変参考になるのが反対側の目の検査結果です。反対側の目で正確に検査できているから検査結果は信用できるとか、両目とも周辺の光に反応していないからあてにならないとか、左右を比較することによって判断しているのです。
ですから、片目だけ視野に異常がある場合でも、原則として片目だけの検査はしません。視野検査は常に両目同時に検査するべきです。
治療効果判定に左右を比較
眼科医は、目薬の効果を調べるために、わざと片目だけ目薬をさすように指示することがあります。「片眼試験」などと言います。
目薬をさして効果があったように見えても、本当に目薬の効果なのかどうかには慎重な検討が必要です。体調や食事や内服薬や睡眠など、目薬以外のいろいろな要素が関係しているかも知れないからです。
そこで、右目だけ目薬をさしてみて、右目だけに効果が出れば、まず間違いなく目薬の効果だと考えることができます。
この方法は、眼圧を下げる緑内障用の目薬ではよく使われます。目薬の効き目には個人差があって、ある人にはよく効く薬が、別の人には全然効かないということがおこるので、「片眼試験」をしてその目薬が本当にその人に効くのか確かめるのです。
ただし、この場合、右目にさした目薬が左目には影響しないことが前提です。目薬の中には、一度全身に吸収されてから血液を流れて反対側の目にも影響するものがあります。そういう目薬の場合は「片眼試験」は無意味です。
もっとも実際の臨床では、「片眼試験」についてしっかり理解し納得していただくことは難しく、ついつい最初から両目に目薬をさすよう指示してしまうことが多いですね。複雑な指示は間違いのもとになるからです。
両目を見せて下さい
診察のとき、患者さんの訴えと反対側の目を見ようとすると、「そっちじゃなくて、左目です」などと、不快な顔をされる方がいらっしゃいます。
しかし、左右をくらべるために両目とも見ることは、われわれ眼科医にとっては習性みたいなものなのです。
両目とも検査して左右を比較することの重要性をご理解いただければ幸いです。
2007.7