川本眼科

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川本眼科だより

川本眼科だより 92近視の原因と予防法 2007年10月31日

近視が進行する原因は、長い間、謎でした。はてしない論争が繰り広げられ、それでも決着がつきませんでした。

一時は「仮性近視説」が一世を風靡しましたが、批判を浴び反証が出され、その後「遺伝主因説」が眼科医の支持を集めました。私も大学でそのように教わりました。

数年前に、「調節ラグ説」説が提唱され、さまざまな状況証拠から現在ではほぼ正しいだろうと信じられています。もっとも、恐らく原因は1つではなくいくつかあって複合的に働くのでしょう。それでも「調節ラグ説」は核心をついた理論だと私は判断しています。

この新しい近視理論をご紹介し、それに基づく近視対策を考えてみたいと思います。

眼軸長(目の奥行き)は伸びる

角膜(黒目)から網膜までの長さを眼軸長と呼びます。要するに、眼の奥行きですね。

近年、多くの動物では、生まれつき眼軸長を伸ばすしくみが備わっていることがわかりました。人間も例外ではありません。

生まれたときは、眼軸長は短めになっていて、網膜上にきちんとピントが合っていません。網膜より少し後方に焦点を結ぶのです。これは遠視という状態です。遠視のために網膜上では少し像がボケているわけです。

ボケがあると、ボケの量を減らそうと眼軸長が伸びます。少しずつ眼軸長が伸びていって、ちょうど網膜上にきっちりピントが合った状態で安定すれば最良で、これが正視です。

眼軸長が伸びすぎて、網膜より手前にピントが合うようになってしまった状態が近視です。つまりブレーキが利かず、予定の地点を行き過ぎてしまったわけですね。

以前は、こういうしくみがわかっていませんでした。眼軸長は遺伝的に決まっていて、生まれつき予定していた長さまで成長するだけのことだとみんな思っていたのです。後天的に眼軸長が調整されているというのは驚きでした。

わかってみると実に合理的なしくみです。成長や栄養状態などで目全体の大きさは変わるわけですし、水晶体の厚みも紫外線や化学物質の影響で変わってくるでしょう。どんな環境下でも常に正視にするために、自然は巧妙な手段を用意していたのです。

調節ラグが近視の原因

網膜に映る像がボケると眼軸長が伸びて近視になることはわかりました。

しかし、人間はふつう、水晶体の厚みを変えてピントを合わせることができます。きっちりピンと合わせができていれば、網膜像はボケず、眼軸長は伸びないはずです。

実は、近くを見るとき、ピント合わせをしきれていないのです。とくに子供の場合はピント調節不足になっていることが多く、この調節不足の状態を調節ラグと呼んでいます。

調節ラグ(=ピント調整不足)によって網膜像がボケたままになっているために近視になる、という仮説が提唱され、今日では多くの眼科医が賛同しています。

近視になりやすい子供は調節ラグが大きく、何をしても近視にならず正視を保っている子供は調節ラグがほとんどないわけです。

調節ラグをおこしやすいかどうかには遺伝的な素因が関係していて、それで近視になりやすいかどうかが決まってくると予想されています。

近くを見るほど眼軸長は伸びる

調節ラグ(=ピント調整不足)は近くを見たときにおこる現象です。遠くばかり見ていれば、調節ラグをおこしやすい遺伝的素因があっても近視にはなりにくいはずです。

逆に、調節ラグをおこしやすい人は、手元ばかり見ていると、網膜にボケた像が映る時間が長くなって眼軸長を伸ばすしくみが作動してしまい、結果的に近視になります。

一方で、調節ラグをおこしにくい人は、近くばかり見ていても平気なのです。神様は不公平だと思いますが、仕方ありません。

近視防止の具体的処方箋

近視の進行を防ぐには調節ラグがおきないようにすることです。そのためには、ものを見るとき距離をおくことです。ただし、それには相当な意識的努力が必要です。

テレビを見るとき画面にくっついて見るようなことは避けましょう。ワンセグみたいな小さな画面はダメです。大画面のテレビを離れて見るのがお勧めです。テレビの視聴時間は長いので1mは離したいですね。

読書はどうでしょう。やはりできるだけ離して読むほうがよいのです。1m離すのは無理ですが20cmと30cmでは調節ラグの起こり方が大きく違います。しっかり30cm離して読書することをお勧めします。机の上に本を置き、背筋を伸ばして姿勢を正しくして読みましょう。これって、私が子供の頃に親にやかましく言われていたことでした。その時はうるさいばかりでしたが、結構正しいことを言っていたんですね。

ゲームはどうでしょう。携帯ゲーム機はやめたほうが無難です。ゲームの操作をするため腕を曲げているので、ゲーム機と目の距離は20cm以下になってしまうことが多いのです。ゲームをしたいなら、大きなテレビに映すタイプのゲーム機にして下さい。

コンピュータもテレビより画面が近くなるだけに問題です。現代社会では全く使わないわけにはいきませんが、小中学生ではパソコンを使う時間を制限することも必要ではないでしょうか。それより戸外でスポーツをするほうが健康的です。

メガネをかけることは別段かまいませんが、いくぶん低矯正(弱め)で合わせます。できるだけ過矯正(強すぎるメガネ)は避けます。

もっとも、上記の防止法に過大な期待をかけることはできません。全く近視にならないようにする方法ではなく、近視の程度があまりひどくならないようにする程度の方法だとお考え下さい。

近視になってしまったのを元に戻せる方法ではありませんから、必要ならメガネをかけることをお勧めいたします。

2007.10