川本眼科だより 94医者の不養生 2007年12月31日
「医者の不養生」という言葉はよく聞きます。患者に摂生や養生を勧め、生活指導をする立場でありながら、医者自身は結構いい加減なことをしていることを指します。
「医者の不養生」って本当なんでしょうか?
意志の弱さは医者も同じ
医者は普通の人より医学知識が豊富です。病気のことはよく知っているし、予防法についても当然詳しいわけです。
しかし、意志の力が一般人より強いわけではありません。「わかっちゃいるけどやめられない」ということはよくあります。
例えば、患者さんには禁煙を勧めながら、自分はヘビースモーカーという医者は結構います。酒が好きで肝臓を悪くした医者も大勢います。また、最近話題の「メタボリックシンドローム」に該当する医者なら数限りなくいます。
医者も人間、人間の弱さは隠せません。そういう意味なら「医者の不養生」はお恥ずかしいことではありますがその通りです。
医者も健康には関心がある
医者の側からの弁明として「患者さんの体のことばかり考えているから、自分の体は二の次なんだ」ということが言われます。
これは本当でしょうか?
確かに、診察をしている時、処置や手術をしている時などは、多少体が不調でも無理をします。少しくらい風邪をひこうが熱が出ようがまずは目の前の患者さんの治療が優先です。そういう場面でドラマに出てくるような悪徳医者なんてまずいません。
でもそれって仕事なら当然です。たいていの職場では、多少体調不良でも仕事優先になるのがあたりまえです。医者だけが特殊なことをしているわけではありません。
医者も聖人君子ではありませんから、自分の健康には大いに関心があります。むしろ、ふだんから医療現場にいれば、一般の人たちより関心は高いと考えて間違いないでしょう。
医者の言い訳に使われる
実は、医者自身が「医者の不養生」という言葉を口にするときは、たいてい言い訳です。
患者さんに勧めていることと医者自身がしていることに違いがあるとき、逃げ口上として便利なのです。
例えば、高血圧の患者さんに減塩を勧めているのに、自分は高血圧でも塩分を控えていないとしましょう。このことをとがめられても、「いやあ、医者の不養生でしてね」と頭を?いておけば誰にでも納得してもらえます。しかし、本当の理由は実は別の所にあったりするのです。
高血圧には食塩感受性の場合と非感受性の場合があり、食塩感受性の場合は減塩が非常に有効ですが、非感受性ではさほどの効果は得られません。このことをこまごまと説明し出すと時間ばかりかかってしまいます。本題と関係ない方向に話が流れても困ります。そこで、一言で納得してもらえる言い訳で逃げるわけです。
健診に行かない理由は
私は川本眼科のホームページで「院長のつぶやき」というコラムを書いています。そこでは自分が人間ドックや健康診断に行かない理由を「医者の不養生」ですませています。
本当を言うとこれは正確ではありません。多忙だからと言ったって、本当に大事と思うことならなんとしてでも時間を捻出して出かけていくものです。
行かないのは、人間ドックや健康診断での疾患発見率/診断精度/検査に伴う合併症などの問題点を知っていて、もともとあまり高い期待を抱いていないため、わざわざ時間と手間暇をかけるだけの価値を見いだせないからなのです。
なにしろ、自院でも血液検査や血圧測定くらいはできるわけで、それだけでもかなりチェックできてしまいます。また、自覚症状が出てから治療すればよいという病気もたくさんあります。それらを除いてなおかつ問題になる病気というとかなり限られてしまいます。
そういうことをいろいろ計算した上で、あえて健診に行かないという選択をしているのです。でも、そんなことを一言では話せませんよね。
だから、みんなが簡単に納得してくれる「医者の不養生」という言葉を使うのです。
マネはしないで
医者が「医者の不養生」と言う時は、暗に「私のマネをすると危険だからやめて下さい」という意味を含んでいます。
高血圧の医者がみそ汁やラーメンの汁をすすっているのはその高血圧が食塩非感受性だからで、患者さんがマネをすればてきめんに血圧が上がります。
医者は健診に行かなくても血液検査くらいはしているのです。健診に行かなくてもいいんだと真に受けて患者さんがマネをすれば、大変な病気を見落とすことになりかねません。
医者は自己責任であえて「不養生」をしていることが多いのです。必ずしも本当に健康に無頓着なわけではありません。
医者が自分で「医者の不養生」と言っているときはあまり信用しないほうがいいですよ。
2007.12