川本眼科だより 101セラチアによる感染 2008年7月31日
三重県伊賀市の整形外科診療所で、点滴をした患者さんが次々に体調不良を訴え、1人が死亡するという事件がおこりました。
原因はセラチアという菌による院内感染だったようです。
実は、昔から繰り返しセラチアによる感染症は問題になっていて、いろいろ対策は取られてきたのですが、なかなか根絶しにくい厄介な菌なのです。今回の事件は、どこの診療所・病院でおこってもおかしくはなく、川本眼科にとっても決して他人事ではありません。
いささか専門的ではありますが、セラチア感染症について解説し、川本眼科のセラチア対策をご説明したいと思います。
セラチアは環境常在菌
セラチアというのはどこにでもいる細菌です。水まわりに多く生息しています。流しやトイレにはたいていセラチアがいると考えてよいでしょう。身の回りにたいていいることから「環境常在菌」などと呼ぶこともあります。
健康な人にとっては通常無害です。そもそも、健常人の3~4割は腸の中にセラチアを持っているそうです。持っていても、抗生物質で治療する必要などありません。つまり、そんなに怖い細菌ではありません。
感染症を起こしていない限り、生活環境にいるセラチアを根絶しようなどと考える必要はありませんし、実際そんなことはできません。いくら除菌しても、すぐに外部から細菌が侵入するので、意味がありません。
ただ、水がなければセラチア菌は生存できません。流しなどの水分を拭き取り、乾燥させておくのはセラチア対策として有効だと考えられます。
大量に増えて体内に入ると
問題になるのは、セラチア菌が増殖して増え、大量のセラチア菌が血液内に送り込まれた時です。危険性が高いのは点滴や高カロリー輸液など、血管につながったチューブやボトルです。
今回の点滴事件では、前日や前々日に作り置きをした輸液ボトルの中でセラチア菌が増殖したのだろうと推定されています。セラチア菌は栄養に乏しい水の中でも増殖しやすいのです。
そうすると、対策としては、作り置きをせず、点滴をする直前に用意すればよいわけです。1時間以内ならまず問題ないと思います。川本眼科では、従来から点滴はすべて直前に準備しておりますのでご安心ください。
アルコール綿が汚染源?
ところで、輸液ボトルの中に菌はどうやって侵入したのでしょう?
本当のところはわかりませんが、消毒用のアルコール綿(酒精綿)からではないかと予想されています。アルコール綿のアルコールは蒸発していくので、だんだん乾いて消毒効果が薄れてしまうと言われています。
また、アルコールに対してセラチア菌は結構強く、増殖はできないまでもしぶとく生き残っていることがあるとも言われています。アルコール綿(酒精綿)を入れた瓶から綿を取るときは素手のことが多く、綿が菌で汚染される危険性も高いのです。
そうすると、消毒するつもりでアルコール綿で拭いたら、かえって細菌汚染をおこしてしまったということになります。なんたること!
川本眼科では、対策として、点滴の際には細菌汚染の心配がない個包装のアルコール綿を使用することにいたしました。
なお、はやり目対策としてドアの取っ手などを拭くためにもアルコール綿(酒精綿)を使用していますが、こちらは血液内に入るわけではありませんし、大量に必要なので、従来通り院内で調製しています。
三方活栓の危険
点滴チューブの途中に注射器をつなぐための器具を取り付けておくことがあります。この器具を三方活栓といいます。これがあると、薬剤を注射するときに便利です。
しかし、三方活栓には注射液などが長時間滞留します。そうするとそこにセラチア菌が増殖する危険が高くなります。この状態でここから注射をすると血液中にセラチア菌を押し込んでしまうことになります。
最近では三方活栓が感染を起こす危険が認識され、点滴のときにもなるべく使わないようになりました。川本眼科では一切使っていません。
ヘパリンロックの危険
何度も何度も点滴をしなければならない患者さんは大変です。何回も針を刺されるのは苦痛です。
そういう患者さんの多くは、血管が皮膚表面に出なくなってしまい、点滴が非常に困難になっています。
そういう時に用いられるのがヘパリンロックです。血管に短い点滴チューブをつないだままにしておくのです。ただ、そのままだと血液がチューブの中で固まって詰まってしまいます。
そこで、ここにヘパリンという血液が固まらないようにする薬を入れておきます。
患者さんの負担を大きく軽減する方法なのですが、残念なことにこれがセラチア感染の温床になってしまうことがあります。過去に死亡事故もおきており、特段の注意が必要とされています。
対策のまとめ
川本眼科では、過去の事件を他山の石として、セラチアに対する院内感染に十分注意して対処していきたいと考えております。
具体的な対策は次の通りです。
(1)点滴の作り置きをしない。
(2)三方活栓を使わない。
(3)ヘパリンロックを用いない。
(4)点滴には個包装のアルコール綿を使用する。
できるだけの対策をとっても、なかなか完全には根絶できないのが院内感染です。これからも、院内感染防止のため、できるだけの努力をしていく所存です。
2008.7