川本眼科

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川本眼科だより

川本眼科だより 103ルーペ(拡大鏡) 2008年9月30日

病気や老化のために眼の機能が落ちると、メガネだけでは細かいものを見ることができなくなってきます。
 
このとき必要になるのがルーペです。拡大鏡と言ったり虫メガネと言ったりしますが、同じものを指しています。
 
今回はルーペの選び方、使い方について考えてみたいと思います。

ルーペの役割

ルーペは「見たいものを拡大する」ための道具です。かなり眼の機能が悪くなって矯正視力が低下しても、十分に拡大すれば見たり読んだりすることができます。
弱視や黄斑変性症などで、いくらメガネを合わせても視力0.1しか出ないような方でも、倍率の高いルーペを使えば字を読むことが可能になるのです。
 
ただし、ルーペには拡大する働きしかありません。ピントを合わせることはできません。

老眼鏡の代わりにはならない

老眼の人がルーペだけを使用して新聞を読んでいる場合があります。確かにルーペを使えばたいていは読めるのですが、実はピントは合っていません。像がぼけたまま拡大をしているのです。
 
ピントを合わせるためには老眼鏡が必要です。ルーペと老眼鏡を併用することをお勧めします。一般にルーペは30~40cm離れた距離でピントが合うように設計されています。老眼鏡と併用するのに便利なように作られているのです。

ルーペの倍率

私たちがよく目にするルーペの倍率は、2倍~4倍程度です。多くの場合それで十分です。
 
倍率が高すぎると一度に見える範囲が狭くなってしまい、かえって不便です。それに高倍率だとルーペに目を近づけなければなりません。そのうえ、ルーペから目を離しすぎると見える像が逆さまにひっくり返ってしまうことがあります。
 
それでも、目の病気で視力がひどく悪い場合には、5倍、10倍といった高倍率のルーペを使わざるを得ません。使い勝手の悪さには目をつぶるわけです。必要に応じてレンズを重ねて高倍率にできるルーペもあり、便利です。
 
それ以上の倍率が必要な場合は、ルーペでなく、テレビに拡大像を映す「拡大読書器」のほうがよいでしょう。(→川本眼科だより22『ロービジョン』)

ルーペの種類

ルーペというとふつう手持ち式のいわゆる虫メガネを想像します。しかし、手持ち式では片手がふさがってしまいますし、長時間持ち続けていると疲れてしまいます。
見たいものとルーペの距離、ルーペと目の距離の両方を絶えず調整し続けなければなりません。
 
両手が自由に使えるタイプのルーペもたくさんあり、用途によって選ぶとよいでしょう。
 
読みたい文字の上に置いて使うタイプ。例えば新聞を読みたいなら読みたい記事の上に置くだけでよいのです。透明なガラスの塊みたいなルーペは滑らせるように動かすことができて便利ですが、倍率は2倍程度までしかありません。足台のついたレンズみたいなルーペなら倍率を高くできますが、動かしにくいのが欠点です。
 
スタンド式のルーペもあります。アームがレンズを支えてくれるので巨大なレンズを使うことが可能で、直径22cmのレンズが販売されています。手持ち式では重たすぎて無理ですね。広い範囲が見えて便利ですが、値段も10万円以上します。
 
メガネの先にレンズがくっついた形態のルーペもあります。精密部品を手に取って、空中に持ち上げて作業するような場合はこれしかありません。目が悪くなくても、いろいろな分野で業務に使われているようです。

照明付きルーペ

みなさんにお勧めしたいのが照明付きルーペです。同じ倍率でも断然よく見えます。
 
最近はLED(発光ダイオード)が使われ、豆電球よりも均一に明るい上に電池も10倍くらい長持ちします。
 
照明付きは値段も高くなりますが、値段だけの価値は十分あると思います。

入手方法

今回ご紹介したルーペはスーパーやデパートに行ってもなかなか売っていません。
 
簡単なのはインターネットで注文する方法です。説明文や画像を手がかりに注文すれば、多種多様なレンズの中から選択できますし、家にいながら数日で届けてくれます。ただ、実際に手に取ることができないのが欠点です。
 
メガネ屋・東急ハンズ・丸善などの店頭にも置いてあり、実物を見て買うことができます。残念ながら店頭在庫は少なく、特殊なルーペは結局カタログを見て注文するしかありません。
 
下記のホームページから、ルーペの取扱店を調べることができます。直接注文も可能です。
http://www.eschenbach-optik.co.jp/
 
キクチメガネ金山店の2階に「ロービジョンセンター」というところがあって、ルーペや拡大読書器を実際に試してみることができます。これだけ取りそろえているところは名古屋では他にないと思います。完全予約制ですので、下記に電話してお尋ね下さい。
052-331-4458

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大野病院事件の医師に無罪判決

以前川本眼科だよりで取り上げた大野病院事件に8月20日判決が下り、被告の産科医師は無罪とされました。妥当な判決だと思います。そもそも逮捕・起訴自体どうみても無理な話でした。
→川本眼科だより74「産科医師不当逮捕」
→川本眼科だより75「福島事件の影響」

2008.9 
医療行為には常に反省が必要です。もっと良いやり方があったのではないか、こうすれば救命できたのではないか、反省し検討し、次の医療に活かすことが医学を進歩させてきました。でもそれは、真摯に医療に取り組んだ医師を犯罪者扱いして刑務所に入れることではありません。
 
遺族は納得していらっしゃらないようです。これは感情の問題で、肉親の死を誰かのせいにしたくなる気持ちはよくわかりますし、それを論理的に説得するのは無理なことだと感じます。
 
無罪判決は出ましたが、影響は既に深刻です。多くの医師は刑事被告人になるリスクまでは負えないと考え、そういう可能性が高い領域から手を引く傾向が顕著です。
分娩を扱う施設は減り続け、地方では妊婦さんがお産できず、困っています。救急医や産婦人科医の志望者も減っています。

2008.9.30