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川本眼科だより

川本眼科だより 107高額療養費制度 2009年1月31日

健康保険には自己負担があります。3割負担だと相当の額になります。国は医療費削減のため、どんどん負担割合を引き上げています。以前は負担なし~1割負担だった人の多くが、3割負担になってしまいました。
 
自己負担額が高くなりすぎないよう、上限が定められています。これを高額療養費制度と言い、収入にかかわらず高度な医療行為を安心して受けるための最後の砦になっています。
 
ただ、きわめて複雑な制度で、理解困難です。細かい数字にとらわれると訳がわからなくなります。今回は、制度のあらましを理解していただくため、大ざっぱに説明いたします。

健康保険の自己負担

健康保険には自己負担があります。年齢・所得などの条件により、1~3割を負担します。自己負担が全くない方もあります。
 
自己負担が全くないと、大したことでなくても受診する人が増えます。ほとんど変化がないのに毎日医療機関を訪れるような人も現れます。高齢者の医療費がタダだった時代に、一部のクリニックが老人サロン化していると批判を浴びたこともありました。
 
しかし、自己負担が高くなりすぎると、受診抑制がおこります。ちょっとぐらい調子が悪くても我慢をしてしまおうと考える人が増えます。そうすると、初期なら簡単に治った病気をこじらせてしまい、治療に時間もお金もかかります。手遅れで元に戻らないことだってありえます。こういうことは経済だけ考えてはいけません。
 
確かに、極端なモラル・ハザードがおきないよう、相応の自己負担は必要でしょう。しかし、それはあまり高額であってはならないのです。
 
多くの場合、適正な自己負担は1割だと思います。とくに高齢者で3割負担が導入されたのは行き過ぎでしょう。高齢になれば、複数の医療機関にかからなければならない方も増えますし、多くは慢性疾患で短期の治療で治るわけではないのですから。
 
受診抑制を人為的におこすことで国が医療費を節約できても、それは決して国民にとって喜ばしいことではありません。

自己負担額には上限がある

ただ、幸いなことに自己負担額には上限が決められています。それが高額療養費制度です。
手術やレーザー治療や長期入院で医療費がかさんでも、一定額以上は支払わなくて良いわけで、これは本当にありがたい制度です。
 
日本では当たり前のこの制度、実はアメリカでは当たり前ではありません。アメリカでは、加入している医療保険の種類によって受けられる治療が異なり、支払い能力に合わせて治療法を選ぶのです。医療保険に加入していない人は・・・悲惨です。
 
保険診療の範囲内なら治療費を気にせず最善の治療を受けられる日本は恵まれています。この制度だけは何としてでも守っていかなければならないと思います。

所得により上限額は異なる

自己負担額の上限は、所得や年齢によって異なります。
まず年齢で、70歳未満、70~74歳、75歳以上に区分され、さらに所得の高低により細かく区分されます。例えば、70歳未満なら、高所得者は15万円+α、中所得者は8万円+α、低所得者は3万5千円くらいです。
 
同一世帯なら2万1千円以上の負担は合算されます。1人が2つの病院にかかった場合も、2万1千円以上の負担は合算されます。逆に言えば、2万1千円未満は合算されないわけで、風邪引きや白内障定期検査程度では対象にならないということです。
 
※上記はこのブログを書いた時点での数字で、その後変更がありました。 

同じ月に集中治療が得

自己負担額の計算は月ごとですので、医療内容は同じでも、同じ月に集中して治療を受けたほうが得です。月をまたいで分散して治療を受けると支払額が増えてしまうことがあります。
 
例えば、日帰り白内障手術は3割負担の場合、約6万円かかります。限度額が8万円だとすると片目だけの手術では限度額に達しません。両目なら高額療養費制度の恩恵を受けられます。
 
そうすると、1月に右目、2月に左目の手術をするのは損です。2月に両目とも手術したほうが良い。もしも、レーザー治療のような高額治療を受ける予定があるなら、白内障手術と同一月に受けるのが一番得です。
 
もちろん、医学的判断が最優先です。緊急性がある時にはお金のことなど言っていられません。ただ、時期を選ぶことができる場合はそういう配慮をしています。例えば、両目の白内障手術なら、同一月に手術するのを原則にしています。

後で還付 / 事前に申請

高額療養費制度では、いったんは自己負担分を支払い、後で申請して還付を受けます。
この場合、後で返ってくるとはいえ、先に相当額を支払わなければなりません。そうすると、中にはお金に困る人も出てきます。
 
そこで、2007年から、70歳未満の方は、事前に申請して「健康保険限度額適用認定証」の交付を受け、医療機関に認定証を提示すれば、限度額を超えた分を最初から支払わなくてもよいことになりました。
医療費が高額になることが予想される場合はあらかじめ認定証を交付してもらっておくことをお勧めいたします。なお、健康保険の種類によってはこの制度が利用できない場合もあります。

2009.1