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川本眼科だより

川本眼科だより 115緑内障の進行予測 2009年9月30日

緑内障の方には定期的に視野検査を受けていただいています。集中力を要し、かなり疲れる検査なので「苦手だからやりたくない」とか「そんなに何度も繰り返す必要があるのか」とか、検査を受けるのを渋る方もいらっしゃいます。

視野検査は緑内障の治療効果を評価し、将来どうなるかを予測する上で欠かせません。今回は視野検査の重要性についてご説明いたします。

緑内障は視野が欠ける病気

目がものを見ると、その情報は神経線維によって脳に伝えられます。情報を伝える神経線維は特殊な細胞で、死んで減ってしまうことはあっても、決して増えることはありません。(増やすことができないか研究されてはいますが臨床応用が実現するのは遠い未来でしょう)

神経線維が減りすぎると脳に届けられる視覚情報が欠落します。このことを「視野が欠ける」と言っています。

全然見えない場合(絶対暗点)ももちろんありますが、そうなる前に明るく強い光なら見えるが暗い光だとわからない状態(比較暗点)になるのが普通で、だんだん感度が悪くなっていくのです。

緑内障が進行すると視野が欠けていき、ちゃんと見える範囲が狭くなっていきます。それでも中心部の視野は最後まで保たれるのが普通です。中心視野が残っていれば視力が維持できるのはありがたいことで、末期に至るまでそれほど生活は困りません。ただそのために緑内障を自覚できずに治療を受けていない人が大勢いるのは大きな問題です。
 
最後に中心視野が欠けると途端に生活は困難になります。急激に見えなくなってしまい、失明に近い状態となります。こうなることは何としても避けたいわけで、緑内障治療の第一の目標となります。

つまり、緑内障とは「視野が欠ける病気」で、緑内障治療の目標は「中心視野を保つこと」だと言えると思います。

視野を保つため眼圧を下げる

視野が悪化していくのを防ぐためには眼圧を下げる治療をします。眼圧を下げる以外の治療も試みられてはいますが、残念ながらきちんと科学的に有効と判定された治療法は1つもありません。ですから眼圧を下げるのが第一にすべきことで、眼圧以外の因子を疑ったとき初めて他の治療を併用します。

眼圧を下げるにはまず目薬を使います。1種類で不十分なら2種類、2種類で不十分なら3種類使います。4種類以上使っても眼圧は下げ止まりあまり意味がないとされていて、3種類で駄目なら別の方法を考えます。

内服薬やレーザー治療で眼圧を下げる方法もあります。ただ、内服薬は全身的副作用が出やすく、レーザーは効果が不確実だったり長続きしなかったりするため、最近では目薬で駄目なら眼圧下降効果の確実な手術を選択することが多くなっています。

治療効果の判定は視野で

緑内障の治療では治療効果を判定することが大切です。目薬を増やすべきか、手術すべきかを決めなければならないからです。

判断材料は主に眼圧・視神経・視野です。

この中で一番重視しているのは視野です。当然ですね。緑内障は視野が欠ける病気で、視野の悪化を防ぐことが治療目標なのですから。

ただし、視野検査はそれほど手軽にはできません。本当はこまめにやったほうがよいのでしょうが、川本眼科では6ヶ月に1度検査するので手一杯です。

「眼圧が低いほど視野の悪化が防げる」ことから、視野検査によりどの程度の眼圧なら視野が悪化しないかを見極め、普段の診療では眼圧をみて効果判定をします。この場合、時々視野検査をすることでそのままの治療でよいのかもっと眼圧を下げたほうがよいのか決めています。

視神経の所見は最初の診断時には絶対に必要ですし、進行すれば変化がありますが、微妙な進行具合を判断するには適していません。

将来の視野を予測する

治療の手立てを尽くしても緑内障の進行を完全に食い止めることは難しく、徐々に視野が悪化するのが普通です。

視野検査の結果にはMD値というのが表示されます。これは視野全体の感度を示す数字です。何回か視野検査をして出てきたMD値を並べると、どのくらいのスピードでMD値が低下しているかがわかり、そのまま行くと将来どうなるか予測することができます。

MD値は正常が0dBで、中心視野が欠けるのがだいたい-30dBです。もし今-10dBで1年に-0.5dBずつ低下しているとすると中心視野が欠けるのに40年くらいかかるだろうと予測できます。現在70歳の方ならそのままで構わないという判断ができますし、現在30歳の方ならもっと眼圧を下げるために手術したほうがよいのではないかと考えることになります。

こういう予測をするためには最低5回は視野検査を受ける必要があります。検査を繰り返すほど予測は正確になります。過去の検査結果と比較し、将来を予測し、治療方針を決定するため、視野検査を積極的に受けていただければ幸いです。

2009.9