川本眼科だより 120痛くないレーザー 2010年2月28日
今月は川本眼科の機械の自慢をさせていただきます。高かったんだもん、宣伝しなくちゃ!
PASCAL(パスカル)という治療用レーザー、正式には網膜光凝固装置(もうまくひかりぎょうこそうち)です。最大の特長は治療時に患者さんの痛みがきわめて少ないこと。しかも、治療に要する時間は従来型レーザーの半分以下で済みます。
愛知県では5番目の導入です。名大・名市大・藤田保健衛生大・眼科杉田病院の次。大学病院クラスにしかないわけで、愛知医大や中京病院にもまだ入っていません。自慢したくなる訳がわかるでしょう?
網膜光凝固(もうまくひかりぎょうこ)(レーザー治療)
網膜光凝固(もうまくひかりぎょうこ) という治療法をご存じでしょうか?500~700nm(緑・黄・橙・赤の可視光線にあたる)のレーザー光線で網膜を焼く方法です。なお、眼科では治療用レーザーが複数ある(ヤグ・レーザー、エキシマ・レーザーなど)ので、単にレーザー治療というと混同する心配があります。ですから医師はなるべく網膜光凝固という用語を用います。
治療対象になる疾患は多く、網膜裂孔(網膜の穴で網膜剥離の原因)、網膜静脈閉塞症(眼底出血で一番多い)、糖尿病網膜症(糖尿病の眼合併症)、網膜細動脈瘤(血管のこぶで破裂しやすく大出血をおこす)など、数限りありません。
手術以外では眼科で最も重要な治療手段と言って過言ではなく、レーザーがなければ治療できない病気もたくさんあります。
網膜光凝固は痛い
レーザー治療の最大の欠点が治療時の痛み。実は網膜自体には痛覚はありません。網膜を凝固する際に発生する熱が眼球の外側に伝わり、そこに分布する神経を刺激するのです。ですから眼球の壁が薄いところでは痛みが強くなります。つまり網膜のどこにレーザーを打つか、場所によって痛い所、痛くない所があります。
痛みの感じ方には個人差が大きく、まるで平気な人もいれば、レーザーを一発打つごとに飛び上がる人もいます。眼球の壁の厚さに差があるのか、恐怖や不安がもたらす精神的なものか、それとも痛みを感じる脳の構造自体違うのか、とにかく驚くほど反応が異なります。
痛がる患者さんの場合はレーザー治療自体に支障をきたすことがあります。従来レーザーで網膜を凝固するには0.2~0.5秒くらいの時間が必要で、その間は眼を動かさなようにしないときちんとした凝固斑(=ヤケド)が出ません。レーザーを照射したとき痛がって眼が動いてしまうと、凝固斑はほうき星みたいに流れてしまい、きちんと焼けないのです。
レーザー治療の時には普通は麻酔をしません。目薬の麻酔はさしますが角膜表面にしか効きません。目玉の後ろに麻酔薬を注射する方法(球後麻酔)なら効きますが、この麻酔法自体が痛い上に、麻酔が効いている間まぶたが下がってお岩さんみたいになったり、眼も動かせなかったり、かえって患者さんが困ることになります。
PASCALは痛くない
新型レーザーPASCAL(パスカル)の何より素晴らしい所は患者さんの痛みがきわめて少ないことです。従来レーザーでは一発一発ものすごく痛がっていた方が、PASCALでは平気な顔をして受け、「先生、今日は痛くなくて楽でした」とおっしゃいます。とても喜んでもらえました。
医師の側も助かります。痛がって目や顔を動かすことがほとんどなくなり、レーザーが打ちやすいのです。狙いもそれだけ正確になります。
PASCALは眼に優しい
痛くない理由はPASCAL(パスカル)の場合レーザー照射時間が短く、熱の発生が少ないせいです。熱が眼球の外側まで伝わりにくいのです。
熱による組織障害が少ないので、視力低下など好ましくない合併症をおこす危険性も少なくなります。従来レーザーは黄斑浮腫(おうはんふしゅ)を起こしやすく、視力低下の原因になっていました。もっとも多くは一時的ですが。
健常な血管を障害することも少なく、それだけ眼に優しいレーザーだと言えます。
PASCALは治療が早く終わる
新型レーザーPASCALは1回のレーザー照射で複数の凝固斑を得ることができます。例えば正方形5×5というパターンの照射法なら一発ずつ打つ場合より25倍も速く効率的に治療できます。
ただし、PASCALでは1つ1つの凝固斑が小さいので、今までよりも密に、凝固斑をたくさん作る必要があります。それでも従来レーザーよりはるかに短時間で広い面積を治療できます。
今まで治療を2回に分けていたところを1回で終了することも可能になります。患者さんにとっては通院回数が少なくて済み、負担が軽減します。
PASCALは高価
良いことずくめのPASCALですが、最大の欠点は価格が高いこと。従来レーザーの2倍以上のお値段です。従来レーザーでも治療は可能なので、使えるうちは従来レーザーを使っておこうと考えるのは当然です。
たぶん、従来レーザーが壊れたらPASCALにしようと考えている眼科は多いはず。あるいは値段がもっと安くなれば買おうと考えている眼科もきっとあるでしょう。10年後にはあたりまえになっているかも知れません。
川本眼科のような一開業医にとっては大きな、やや過剰とも言える設備投資ですが、院長の私は時代の先端を走っているようで、ちょっと気分がいいんです。患者さんの苦痛が軽減され、喜んでもらえたらいいと思っています。
2010.2