川本眼科だより 152続・眼圧あれこれ 2012年9月30日
川本眼科だより2で「眼圧あれこれ」と題して眼圧についての話題を取り上げました。それから12年という年月が過ぎました。その頃の川本眼科だよりの記事をご存じの方、覚えていらっしゃる方はほとんどいらっしゃらないでしょう。
以前述べたことを含め、最新の話題も交えて、眼圧について正しい知識を持っていただければ幸いです。
眼圧は変動する
眼圧は変動します。毎日測れば毎日少しずつ違いますし、1日の中で何回か測ればその度ごとに違います。人によっては1日のうちで5mmHgくらい変動することがあります。「朝高い」「夕方高い」等の周期性日内変動がある人もいますし、そういう傾向を示さない人もいます。
ですから、眼圧は1回測っただけではあてになりません。何度も測定する必要があります。ばらつきのあるデータに対して正確を期す方法はできるだけ多数回測定するしかありません。眼圧の変動幅や、どの時間帯に眼圧が高くなるのかなども診療に役立つ大事な情報です。
平常時の眼圧を知りたい
眼圧はその人その人で「普段の眼圧」があって、その値は人によってずいぶん違います。Aさんは10mmHg前後、Bさんは22mmHg前後と2倍も違うこともあります。仮に、Aさん、Bさんが共に眼圧15mmHgであったとして、意味合いは全く違います。Aさんにとっては普段よりかなり眼圧が高いことになりますし、Bさんは逆にいつもより眼圧が低いことになります。
ぶどう膜炎など炎症があると眼圧が高くなることがあります。ステロイドという目薬で眼圧が上昇する人がいます。ところが、病気が起きてから測っても、ふだんより眼圧が高いのか低いのかがわかりません。あらかじめ平常時の眼圧が測ってあれば、病気になったときに大変参考になります。
そんなわけで、たとえメガネを作ることだけご希望の方でも、原則として全員眼圧を測ります。そのデータが、将来眼の病気を治療する時に役に立つのです。
余談ですが、私は東大眼科で研修を受けたときに「眼圧は診察時毎回測る」ということを叩き込まれました。それが当然だと信じておりましたが、昨今は眼圧の測定回数が合理性の乏しい基準に基づいて制限されています。やむを得ず自己規制し、必要な場合は診療報酬を請求せず無料サービスにしています。診療の質を落として医療費を削るのは本末転倒で、そんな馬鹿な話はありません。
目を閉じる力で眼圧が上がる
目に閉じようとする力が入ってしまうと眼圧は高くなってしまいます。
眼圧測定時には両目とも開けておかなければなりません。片目をつぶってしまう方が多いのですが、片目をつぶると反対の目でも目を閉じる力が加わってしまい、眼圧の測定値は高くなります。
また、風が当たって測定するタイプの眼圧計では、つい構えてしまい、目に力が入る方が多いのです。リラックスして力を抜くようご説明するのですが、恐怖心や緊張のために難しいようです。
これに対し、診察室にある接触式の眼圧計で測る時は、目に加わった力が抜け、眼圧が安定するのを待ってから測るので、そのぶん正確に測れると考えられています。
寝ている時は眼圧が上がる
眼圧は、姿勢の影響を強く受けます。ある医師が逆立ちをしたときの眼圧を測定したところ、すごく眼圧が上がっていたそうです。
そこまで極端でなくても、立った姿勢と寝た姿勢では、寝ているときのほうが眼圧が高いのです。夜眼圧が高くなるために進行する緑内障があるのではないかという議論もされています。
うつぶせの姿勢も眼圧が高くなります。昔の緑内障患者さん向けパンフレットには「うつぶせの姿勢を避ける」なんて書いてありました。
実は、緑内障に関しては、こういう一見もっともらしい生活指導のほとんどは無意味だと思います。短時間だけ眼圧が高くなることに神経質になる必要はありません。体操選手やトランポリンの選手の眼圧は競技中上がっているはずですが、それで緑内障になるなんてことはありません。
もし本気で眼圧を下げたいなら、そんなことに気をつかうより、きちんと眼圧を下げる目薬をさすべきです。
24時間眼圧を測る
眼圧は変動しているので、眼科を受診して1回だけ測った眼圧がその人の眼圧を代表しているかどうか疑問があります。また、寝ているときの眼圧は普通ほとんどわかっていません。患者さんを入院させて寝ているところを起こして測ることも行われていますが、本当は寝ている姿勢で測るべきでしょう。このように眼圧の測定にはいろいろ問題があります。もっと頻回に、家庭でも眼圧を測定したい、というのは眼科医の長年の夢でした。
最近、この夢に近づいた眼圧測定機器が登場し、話題になっています。SENSIMED Triggerfishといい、コンタクトレンズに圧力センサがついていて、10分ごとに測ります。残念ながら正確な絶対値ではなく、変動の具合がわかるだけですが、研究目的では貴重なデータが得られているようです。
使い捨てで1個約8万円と高価なため、臨床にすぐに応用できるわけではなさそうですが、将来24時間眼圧を測り続ける時代が来るのかも知れません。そうなったら緑内障診療の革命です。
※この項目は文献に当たって確認ができず、講演会の記憶とメモに頼っているので正確でないかも知れません。
レーシック後は眼圧は低くなる
レーシックという手術はご存じですか? 角膜をレーザー光線で削って近視を直す手術で、日本では年間数十万人が受けています。
レーシック手術後は、眼圧の測定値は見かけ上低くなります。角膜を削って薄くしているためで、本当の眼圧は測った数字よりももっと高いのです。(削った量が多いほど影響は大きくなります)
ですから、レーシックを受けた方は眼科医にその旨を必ずお伝え下さい。きれいにレーシックがされていると、染色液を使って注意深く観察しないと手術を受けたことに気づかない恐れがあります。その場合、眼圧が低いと眼科医が誤った判断をしてしまう危険があるわけです。
緑内障の治療を始める前に
緑内障の診断がつくと眼圧を下げる目薬を使います。ただ、診断がついたら即目薬を使うのではなく、無治療のままで3回は眼圧を測定することが推奨されています。
なぜかというと、目薬によってどのくらい眼圧が下がったかは無治療のときの眼圧と比較しなければわかりません。ところが、いったん目薬を始めると、普通なかなか目薬を中止することがありません。そこで、治療開始前にきちんと確認しておくことが大切なのです。最初に述べたように、眼圧は変動するので1回だけでは不正確です。そのため最低3回測定しておくのです。
(2012.9)