川本眼科だより 153サプリメント 2012年10月31日
サプリメントが注目を浴びています。サプリをのむ人は増えていますし、一部のサプリについては医師の間にも評価する声があります。
ただ、サプリを薬と同じと考えることはできません。効果もきちんと証明されていないし、副作用もしっかり調査されているわけではありません。「効果がない可能性も高いが、ダメで元々と納得ずくでのむもの」と私は考えています。
サプリメントは食品扱い
サプリメントは薬みたいな外見をしているので多くの人が「薬みたいなもの」と錯覚しています。でも、実は日本の法律ではサプリメントについての定義はありません。欧米では報告や審査が義務づけられていますが、日本には制度がありません。健康食品の一種として扱われています。
健康食品自体にも法律上の定義はありません。
国が「特定保健用食品=トクホ」と認定すれば保健の効果を表示できます。例えば「食物繊維が豊富だからおなかの調子を整えるのに良い」と表示できるわけです。
それから、ビタミン12種(ビタミンA~E,ナイアシン、葉酸など)とミネラル5種(カルシウム、マグネシウム、亜鉛、銅、鉄)は「栄養機能食品」と表示することができます。
この2つ以外は法的にはただの食品です。食品ですから効能・効果を謳うことは禁止されています。当然添付文書もないし、外箱にも効果があるとは一言も書いてありません。こういう「いわゆる健康食品」を利用するのは消費者の自由ですが、効かなくても誰も責任をとってはくれません。
臨床試験はされていない
サプリメントは薬と違い、通常臨床試験はされていません。安全性を確認するために健康な人がのんでみるテストだけはしていますが、実際に患者さんに使って調べてはいないのです。
多くの場合、試験管内でのテスト結果や動物実験の結果が根拠とされています。薬として認可されるためにはその後で病人を対象にした臨床試験が必須ですが、膨大なお金と時間がかかります。サプリメントでは臨床試験の義務はありません。
ちなみに、薬の開発の場合、人間に対する臨床試験段階で、当初期待した効果が得られずに多くの薬が日の目を見ないで終わります。そのことからすると、サプリメントの中には効果のないものも多いと考えられます。
ですから、ある病気に対してきちんと効果を証明した薬があるのにサプリを使うことはお勧めできません。サプリの使用を考慮してよいのは良く効く薬がない場合です。薬が登場するのを待っていたらいたずらに何年もの時が過ぎてしまいます。そこで「ダメで元々、効果が出れば儲けもの」と納得した上で使うならよいと思います。
同じ名称でも品質に違い
サプリメントは普通「効果があると言われている○○成分が含まれている」ということで売られています。ところが同じ○○成分が含まれていると謳っていても、その量はメーカーによって大きく違います。成分含有量が途中で変わってしまう可能性だってあります。そもそも最適な量を調べる臨床試験をしていません。
添加物も効き目に影響するはずですが、製品によって大きく異なります。メーカーが添加物を途中で変更することも可能です。
薬ではなく食品ですから、成分表示さえしてあれば特に規制はありません。サプリメントの場合、同じ名称で販売していても、同一品質とは保証されていないのです。
最近はサプリの品質を保証するために「GMPマーク」「JHFAマーク」「ハイクォリティ認証マーク」というものができました。一定の品質を確保しようという努力の表れと評価できますが、似たような認定制度が複数あるのは混乱の元ですし、かえって普及を妨げている気がします。世間に認知されているとはとても言えません。
私が勧めるサプリメント
患者さんから時々「お勧めのサプリメントはありませんか」とお尋ねをいただきます。
今まで書いてきたことからおわかりのように、私はどちらかと言えば「サプリ懐疑派」です。値段ばかり高くて、エビデンス(科学的根拠)がないものばかりだ!と怒っています。
特に、「ブルーベリー○○」の類はものすごくたくさんあるのですが、全部ダメです。テレビが取り上げて話題になっただけで、その後10年以上たつのに、効果を証明したまともな論文が全く出ていません。
サプリメントの中で唯一、まともな臨床試験をやって効果を証明したのは「オキュバイト」だけです。ビタミンC+E、βカロテン、亜鉛、銅を混合したサプリで加齢黄斑変性症を予防する効果があることを示しました。加齢黄斑変性に対する良く効く薬はないので、このサプリは患者さんにお勧めできるものだと考えています。
ただ、実は「オキュバイト」には少しずつ含有する成分を変えた製品が出ています。βカロテンをルテインに変更したり、亜鉛を減量したり、5種類もあります。それなりに理由もあるのですが、本当に臨床試験をしたのは最初の1種類だけで、それ以外は効果が証明されていないわけです。
そのほか、それなりに論文が出ていて、効果がありそうな成分は、加齢黄斑変性症の予防効果が期待される「ルテイン」、抗酸化作用と抗炎症作用のある「アスタキサンチン」、網膜循環を改善すると期待される「レスベラトロール」等です。
でも、現時点ではこれらのサプリを私自身がのもうとは思いませんし、人にも勧めません。効果が証明されたとはとても言えず、まだ「期待」に留まっているからです。
なぜ薬でなくサプリなのか
以上述べてきたように、サプリにはいろいろ問題があります。効能・効果があるものなら、サプリではなく、きちんと薬として世に出すのが筋というものです。
ただ、薬の臨床試験には膨大なお金がかかります。以前より審査が厳格化し要求される項目が増えて開発費は膨らむ一方。それなのに途中で開発が頓挫することも多く、製薬会社にとってはきわめてリスクが高い事業になってしまっています。特許が切れるとジェネリックが発売されるため、その間に開発費を回収できるだけの利益を上げなければなりませんが、期待したほど薬が売れなくて開発費が回収できない事態も十分ありえます。
そこで、費用のかかる臨床試験を回避するため薬ではなくサプリとして売り出すことが考えられたのです。もちろんサプリでは薬と違い、健康保険が使えません。メーカーはどちらの方が売りやすいか損得で判断します。
でも、臨床試験をしないのは大問題です。もしも薬と同じくらいサプリが売れるならこの傾向はさらに顕著になることでしょう。それはまずいですよね。メーカーにきちんと薬を開発させるため、なるべくサプリを使わず、薬を使うことをお勧めしたいと思います。
(2012.10)