川本眼科だより 161副作用・副反応 2013年6月30日
薬には副作用があり、ワクチンには副反応があります。でも、副作用や副反応を過度に恐れて使わなければ、薬やワクチンの恩恵も受けられません。「薬を使わないこと」「ワクチンを打たないこと」は病気にかかったり悪化させたりするリスクのほうを選ぶということです。
たとえ副作用で死ぬ可能性があったとしても、病気で死ぬ危険性のほうが何倍も高く、他に代替手段がないなら、薬やワクチンを使うことが合理的な選択になります。
日本では、副作用や副反応を許容しない風潮があり、リスクを冷静に評価できていません。これはセンセーショナリズムに陥りやすいマスコミに大きな責任があります。
特にワクチンに関しては、副反応が出た際に行政や医療関係者に対し報復的な行き過ぎた責任追及がなされた結果、必要なワクチンまで接種しないワクチン後進国と成り下がっています。
副作用を管理する
薬の添付文書には、嫌になるくらいたくさんの副作用が記載されています。
ただ、軽微なものが大半です。多くの場合、量を加減し、悪化しないか定期的に状態をチェックしながら使用を継続することが可能です。
また、たいていの副作用は可逆的です。早期に重篤な副作用の徴候を見つけて中止すれば深刻なトラブルは回避できます。
要するに、副作用はきちんと管理すればよいのです。怖いのは、チェックもせずに漫然と使い続けたり、用法・用量・注意事項を守らなかったりすることです。定期検査は大事です。
マスコミ情報の偏り
ニュースには人が興味を持ちそうなこと、話題性があることが取り上げられます。
副作用や副反応が起こったという話は、世の中で関心を引きそうな事項ですから、それが起きた時点でほとんどすべてのマスコミが一斉に取り上げることになります。
一方、効き目や社会的意義のほうはニュースになりにくく、たまに新聞の科学欄などで取り上げられることはあっても、複数のマスコミで同時に報道することはありません。
また、統計を取って調べることもマスコミは不得意です。得意なのは少数の特別な事例を発掘して具体例として伝えることです。
そうすると、どの程度の頻度で副作用や副反応が起こるのかという一番大切な情報は不明なまま、利益と不利益をきちんと比較するだけの情報がないまま、「こんなに怖いことが起きるんだ」というマイナスイメージだけが蓄積されることになります。そうすると「そんな薬/ワクチンは使いたくない」という気持ちになるのは人情です。
マスコミ情報の偏りは構造的な問題ですから絶対に直りません。私たちは無意識のうちに影響を受けていることを自覚する必要があります。
ネット情報の偏り
昨今はインターネットで医療情報を得ようとする人が増えました。ネット情報にはマスコミ情報以上に注意が必要です。
まず、ネット情報は玉石混淆で、間違いもあるし、根拠に乏しい推測もあります。しかも誤った情報でも吟味されずに繰り返しコピーされることが多いので、大勢の人が同じことを言っているから正しいだろうと信じる訳にはいかないのです。
さらに、意図的に誤った情報を流し、患者さんの不安感を煽ることで商売しよう、利益を図ろうとする人たちがいます。繰り返し、大量に誤情報を発信するのが特徴です。有名なのは「アトピービジネス」です。
アトピービジネス
副腎皮質ステロイドはよく効く薬ですが、副作用が多い薬でもあります。安易に使うと怖いので、たえず警鐘が鳴らされ続けてきました。
その警鐘が誤解され、誤った認識が広まり、アトピーの患者さんなどで「ステロイドは絶対に使いたくない」とこだわる方が多くなりました。
こういう患者心理を悪用して「ステロイドを使わずにアトピーを治す」という商売が始まります。ステロイドを中心とした既存の治療を攻撃し、ステロイドは悪だ、ステロイドを処方する医者は不勉強か悪徳だと主張し、代わりに医学的根拠に乏しい「奇跡の治療法」を推奨します。
インターネットには、こういう業者が発信した誤情報があふれているので、正しい情報にはなかなかたどり着けないのです。
ワクチンの副反応
予防接種のワクチンで副反応が出た、という話もよくニュースになります。一例でも報道されるとワクチンをためらう人がぐっと増えます。
予防接種はもともと健康な人に打つものなので、トラブルが起きると「余計なことをして不必要な医療被害を起こした」と感情的な反応を招きやすいのです。
ただ、数十万人、数百万人に打っていれば、接種後にワクチンとは関係ない病気を起こす人も当然あるでしょう。その場合、因果関係が不明でもマスコミは「ワクチンのせいで起きた」と報道します。そのほうが人目を引くからです。
副反応が起こると、ワクチンを接種する側の国や市町村がマスコミにたたかれます。訴えられるケースが増え、予防接種を推進する側の腰が引けてしまっているのも気になります。
本来学校等で集団接種したほうが効率的なのに、訴訟リスクを減らすために医療機関での個別接種に切り替え、結果的に予防接種を受ける人が大幅に減ってしまったのは大失態です。
ワクチン後進国日本
副反応ばかり大きく報道するマスコミ、それに影響された世論により、集団接種が中止されたり、副反応の多いワクチンの接種を取り止めたりした結果、接種率はずいぶん低くなってしまいました。
麻疹や風疹が流行を繰り返しているのは予防接種を受けていない人が多いからです。2001年の麻疹流行時には約80人の死者が出たと推定されています。今は風疹が大流行し、先天性風疹症候群も発生してしまいました。副反応よりも病気にかかるリスクのほうが大きいことは明らかです。
予防接種で防げる病気は、当然しっかりと予防接種を実施しなければなりません。それができなければ先進国とは言えません。欧米や韓国で撲滅された病気が、いまだに日本で流行を繰り返しているのは恥ずかしいことです。
子宮頚癌ワクチン
子宮頚癌ワクチンの接種後に「複合性局所疼痛症候群」を起こす例があると報道されましたが、因果関係は不明です。WHOは「ワクチンは世界中で使用されているのに他の国では報告がないので、現時点でワクチンのせいだと考える根拠は乏しい」と否定的見解を述べています。
日本で接種を受けた330万人中、副反応は0.027%だそうです。副反応はもちろん心配です。子宮頚癌がすべて防げる訳でもありません。それでも、子宮頚癌では毎年約2500人が死亡しているのですから、多少の副反応があっても、癌死を半減させる可能性があるこのワクチンを利用しない手はないと思います。
(2013.6)