川本眼科だより 163レーザー白内障手術 2013年8月31日
正式には「フェムトセカンドレーザーを使用した白内障手術」です。最近、中京グループでもこの手術を始めました。成績は良好です。
現在は対象者を絞って施術しています。将来は徐々に対象者を広げる予定です。
川本眼科の患者さんにもこの手術をお勧めすることがありますので、どんな手術なのか、川本眼科だよりの紙面を借りてご説明いたします。
フェムト秒=1000兆分の1秒
フェムトセカンドレーザーは近赤外線レーザーで超短時間照射が特徴です。セカンドは英語で秒のことで、1フェムト秒は1000兆分の1秒です。
1秒=1000ミリ秒
1ミリ秒=1000マイクロ秒
1マイクロ秒=1000ナノ秒
1ナノ秒=1000ピコ秒
1ピコ秒=1000フェムト秒
このレーザーで角膜や水晶体を切開することができます。メスなどを使って人の手で切開する代わりに、フェムト秒レーザーで切開しようというのが、今回説明するレーザー白内障手術です。
機械は人の手よりも正確
人の手は様々な作業ができます。トラブルの際に柔軟に対処することもできます。そういう点で人間のほうが機械に勝る点は多々あります。
ただ、あらかじめ決められた特定の作業に限れば、機械は抜群に正確でミスもしません。白内障手術では水晶体表面の袋(前嚢)に円形の穴を開けます。熟練した術者の切開とフェムト秒レーザーによる切開を写真で比べてみて下さい。
人の手による水晶体前嚢切開
人間のほうも頑張ってはいますが、機械にはかないません。レーザーのほうはコンパスで描いたような完全な真円です。それに人間には好不調の波がありますし、ミスもあり得ますが、機械はいつも正確です。この切開の正確さは、眼内レンズの度数合わせの正確さに影響します。
レーザー白内障手術では「角膜切開」「水晶体前嚢切開」「水晶体核分割」の3段階でフェムト秒レーザーを使います。位置決めや設定さえ間違わなければ工業製品並みの正確さです。
ただ、それ以外は人間が手術をします。手術の方式は今までと同じで、機械が得意な分野で一部機械の助けを借りるだけです。
レーザー手術のデメリット
従来の手術と方式に根本的な差がないので、そんなに大きな問題点はありません。ただ、あらかじめ納得しておいていただく必要がある事項が何点かあります。
1)レーザーを照射するため特殊なコンタクトレンズをのせて外れないように吸引圧をかけます。この時白目に若干出血することがあります。出血は1週間ほどで引くので心配はありません。
2)レーザーした後、手術ベッドに移動しなければなりません。すぐ隣に置いてあるので2~3歩の距離ですが、普通の白内障手術なら手術中に移動する必要はありません。
3)手術成績を学会発表し論文にする予定です。そのため、1ヶ月目と3ヶ月目に中京眼科で診察を受けていただく必要があります。
いずれも大したことではなく、普通の白内障手術とほとんど変わらないと考えて結構です。手術費用の自己負担額も同じです。
この手術は普及するか
フェムトセカンドレーザー白内障手術は欧米や韓国では既に普及し始め、2008年以来数万人が手術を受けています。日本は数年遅れです。
新しい医療機器が開発されても、承認審査に時間がかかってしまい、日本への導入は欧米諸国や韓国より大幅に遅れることが通例です。この遅れをデバイスラグと呼んでいます。
デバイスラグ解消は急務です。患者さんのために。日本が医療先進国であり続けるために。このままだとそのうち韓国の後塵を拝するでしょう。
承認されても採算の問題があります。現在普通の白内障手術と診療報酬は同じです。フェムトセカンドレーザーの機械は数千万円もするので、採算は全く取れません。大幅な赤字です。保険点数が上がる望みは薄く、高度先進医療として自費徴収が認められる可能性はありますが、あまり高額になってしまうと希望者がいなくなります。
どうも今のままでは普及しそうにありません。
手術の対象者を絞っています
中京眼科でこの手術を受けられますが、現在は対象者を絞っております。
・まぶたを大きく開けることができること。
・散瞳時の瞳孔径が7mm以上あること。
・眼底疾患が何もないこと。
・角膜乱視が少ないこと。
・手術中の移動がご自分で容易にできること。
すべての条件を満たす患者さんは意外に少ないようです。また、レーザー白内障手術ができる日が決まっているため、日程がご希望通りになりません。ご了解ください。
(2013.8)