川本眼科だより 165体内時計と光 2013年10月31日
ブルーライトの影響が話題になっています。以前サングラスの話題を取り上げたとき(川本眼科だより159)、網膜や角膜に障害をおこす心配は紫外線に比べてはるかに少ないと述べました。
その考えは今でも変わりませんが、ブルーライトには体内時計に影響を与えるという問題があり、こちらは無視できないと思います。
今回は体内時計と光の関係について最近わかってきたことについて説明し、どんな生活を心がけるべきか考えてみます。
サーカディアンリズム
人間は25時間くらいの周期の体内時計を持っていると言われています。光や食事によって体内時計はたえず修正され、24時間周期の生活ができます。ホルモンの分泌も日中活動しやすいように調整されています。昼は目覚めていて夜は眠くなるとか、消化も昼に働いて夜は休んでいるとか、体のすべてがそういう風に調整されているのです。これをサーカディアンリズムと言います。
サーカディアンリズムは生物が何億年もかけて進化する過程で獲得したと言われています。このリズムには光が重要な働きをしていて、日中は光を浴びて夜は暗いところで過ごすことで維持されています。
人工照明がリズムを狂わせる
ローソク→白熱電球→蛍光灯→LED と人工照明は発達してきました。だんだん明るくなって、夜も明るい所で生活するようになります。急激な変化のために人間の体は対応しきれません。
メラトニンというホルモンが体内時計に関係しているのですが、メラトニンは光刺激によって分泌が抑制されます。そのため、夜強い光を浴びるとサーカディアンリズムが乱れます。
しかも、網膜に青色光(ブルーライト)に反応してメラトニンの分泌に関わっている細胞が発見されています。そうすると赤色光よりも青色光のほうが影響が大きいことになります。
スマホやパソコンの光
スマホ、ケータイ、パソコンともLEDが使われるようになりました。LEDには青色光成分が多くなっているので、それだけ体内時計への影響は大きくなります。
しかも、光のエネルギーは距離の2乗に反比例するので、パソコンよりもスマホのほうが近い距離で見るぶん影響が大きいと考えられます。
夜中までスマホをいじっている生活は、網膜に病気を起こす心配はそれほどないとしても、サーカディアンリズムを狂わせていることは間違いありません。夜眠れなくなって昼ぼやっとしているとか、朝食が食べられなくて逆に夜遅い時間に空腹を感じるとか。よく観察すれば周辺にそんな人はいくらでもいますよね。
就寝する2~3時間前になったら、もうスマホやパソコンを使うのをやめて、後は翌朝起きてから作業することをお勧めします。夜は光を見ずに朝は光で刺激するのが、サーカディアンリズムを正常に保つには好ましい訳ですから。
リズムの狂いと病気
サーカディアンリズムが狂うと病気になりやすいことが知られています。高血圧、肥満、糖尿病、不眠、うつ病などで関連が報告されています。何となく納得できますね。乳がんも増えるそうです。因果関係がすぐには分かりませんでしたが、メラトニン分泌障害が関係しているのだそうです。ほかにもたくさんの病気に関係しているのではないかと言われていて、研究が続けられています。
朝は明るく夜は暗く
以上の説明で分かっていただけたと思うのですが、青色光(ブルーライト)は単純に減らせばよいというものではありません。日中はむしろ光を浴びなければなりません。高齢者では白内障のために青色光が目に入らず、そのために不眠になると論じられているくらいです。
パソコン用ブルーライト防止フィルターなんてものが売られていますが、昼はフィルターを外し、夜だけ装着するのが正しい使い方になります。もちろんそんな面倒なことは誰もしないでしょう。結論として買う意味はないと思います。
昼の照明について青色光を避ける必要はほとんどないでしょう。LEDに青色光が多いのは本当ですが、節電にも有効ですし、LEDをどんどん使っても別に問題ありません。
考えたほうがよいのは夜の照明です。寝る前は暗めにして青色光を抑えることを推奨します。昼白色を避け電球色がよいでしょう。LEDにも電球色はあります。常夜灯を使うなら、青白い光は避け、オレンジや赤がお勧めです。
ヨーロッパのホテルは日本に比べて照明が暗くて不便に感じますが、夜寝るためにはあの暗さは理にかなっていると感じます。
社会のありかたにも再考を
日本の社会は、便利さを最上の価値としてきたと思います。24時間開いているコンビニやファミレスが当たり前になりました。確かに便利です。でも、24時間開くためにはそこで働く人たちが必要になるわけです。その人たちはサーカディアンリズムが狂って病気のリスクが増えることになります。24時間営業ははたしてそうまでして必要なことなのでしょうか? 朝7時から夜11時まで開いていれば十分ではないでしょうか?
医療・消防・警察など24時間体制でないと困る職種も確かにあります。でも、今の日本社会は働く人々に必要以上に不規則な生活を強いていて、余分に病気を増やしている、と感じます。
着色眼内レンズ
白内障手術では、濁った水晶体を取りのぞき、透明な眼内レンズに入れ替えます。昔は完全に透明な眼内レンズしかなかったのですが、今は黄色く着色して青色光をカットできる眼内レンズがあります。市川一夫先生はこの着色眼内レンズを開発した先駆者です。その後各社から同じようなコンセプトの着色眼内レンズがたくさん出ています。
高齢者ではもともと水晶体が黄色くなって青色光を吸収しているので、着色眼内レンズのほうが生理的と考えられますし、加齢黄斑変性症の発症リスクを抑えられるのです。
私たち中京グループでは、眼の状態に合わせて最適な眼内レンズを選択するようにしています。どの眼内レンズをなぜ選択したかはあまりにも専門的すぎるのでいちいちご説明していませんが、多くの方に「比較的薄めの着色眼内レンズ」を使用し、良好な視機能を得るとともに、将来の病気予防にも配慮できていると自負しております。
声高に宣伝していないけれど、隠れた自慢です。(ここで大っぴらに自慢しちゃってますけど)
(2013.10)