川本眼科

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川本眼科だより

川本眼科だより 177恐れず侮らず 2014年10月31日

緑内障や糖尿病網膜症のような慢性疾患の場合、長期にわたって闘病が続きます。大事なことは、正確に病気のことを知り、何をすべきか何をしたらいけないのか正しく理解することです。

しかし、患者さんの中には極端に心配性で明日にも失明するのではと思い悩む方がいらっしゃいます。一方で、きちんと通院せず、何年も放置して病気を悪化させてしまう方もいらっしゃいます。

どちらも間違った態度です。病気を抱えながらも人生を有意義に送る(QOLを向上させる)ために、病気を恐れず侮らず付き合っていくことが大切です。

緑内障で失明を心配する人

Aさんは緑内障と診断され、強いショックを受けました。「明日にも失明するかも知れない」と心配し、うつ状態になってしまいました。何もする気が起きないし、夜も眠れません・・

確かに以前は緑内障で失明する確率はかなり高かったのです。昔は末期になってようやく見つかることが多く、それから治療を始めたのでは失明を防ぐことが難しかったからです。

幸い、現在は初期の緑内障を発見することが以前に比べて容易になりました。その結果緑内障と診断される人は激増しましたが、大半は初期であり、適切な治療により進行を遅らせ失明を防止することが可能です。

Aさんも初期であり、以上のような説明を医師から受けています。でも緑内障と言われた途端に頭の中が真っ白になってしまい、説明が頭に入らなかったのです。

マイナス思考はQOLを損ねる

病気を恐れる人の典型的なパターンは、「以前に比べて見えなくなった、〇〇ができなくなった、これ以上進行して目が見えなくなったらどうしよう。不安だ」といったマイナス思考です。

実際には長期間病状に変化がなくても、そういう人は「どんどん悪くなる」と訴えます。考え方がすっかり悲観的になってしまっているせいでもありますし、現状と比較する対象が「昔よく見えていた時」に置かれているせいでもあります。

しかし、マイナス思考は百害あって一利なしです。マイナス思考に陥ると「見えづらいから○○はしない」と消極的になり、医師から禁止された訳でもないのに「目に悪いかも知れないから〇〇も△△もやめておこう」と自分で行動に制限をかけ始めます。自分で人生の可能性を狭めてしまい、QOL(Quality of Life=生活の質)を低下させているのです。

糖尿病なのに眼科受診しない人

Bさんは糖尿病です。内科の医師に言われて眼科を受診したところ、糖尿病網膜症が始まっていると言われました。

糖尿病が怖いのは腎症、神経症、心筋梗塞など様々な合併症が起こるからです。中でも網膜症は発症した人の3%が失明するのですから、最重要問題といってよいでしょう。

ところが、糖尿病網膜症を発症していても初期には自覚症状はありません。Bさんも最初医師から説明を受けたときには大変だと思いましたが、何ヶ月かするうち危機感は薄れてしまいました。別に見え方に変化はないし、自分だけはきっと大丈夫だと思えてきました。

なんとなく眼科受診が億劫になって、多忙を口実に先延ばしにして、気がついてみると受診するように言われた日を1ヶ月も過ぎてしまいました。そうすると医師から怒られるのではないかと考えて、ますます眼科受診の敷居が高くなり、結局もう2年も眼科にかかっていません。

受診を続けてさえいれば

治療に適した時期は、病気によって異なります。

白内障なら、手術を受ける時期は選ぶことができ、進行しても手遅れということはまずないと考えてよいでしょう。でもそんな病気ばかりではありません。

糖尿病網膜症では、自覚症状がない時期にレーザー治療が必要になる可能性は高く、適切な時期に治療を受けなければ無自覚のまま悪化します。しかも、進行してからでは視力の大幅な低下を防ぐことが難しく、失明することもあるのです。

定期的に通院を続けてさえいれば、医師が必要な検査をし、必要な処置をします。しかし、患者さんが受診しない限り医師はどうすることもできません。

同じように、手術や処置に踏み切るタイミングが重要な病気には、緑内障、黄斑前膜、黄斑円孔、網膜静脈閉塞症などが挙げられます。

病気を恐れず侮らず

Aさんは病気を過剰に恐れています。Bさんは病気を侮って受診しません。

両者の態度は正反対のように見えますが、病気にきちんと向き合って病気のことを正しく理解していない点で、根っこは同じだと思います。

病気と闘うときは感情的になってはダメです。病気の存在を受け入れた上で、今後の人生において病気とどのように付き合っていくのか、冷静に、論理的に考える必要があります。そのことを短く要約した言葉が「恐れず侮らず」です。

病気があっても、病気を上手にコントロールして充実した人生を送れれば問題はないのです。

医師の説明をよく聞こう

病気と闘う上で大事なのは病気のことをよく知ることです。そのために一番大事なことは、当たり前すぎるようですが、医師の説明をよく聞くことです。医師の説明を上の空で聞き流してしまう方が多いのは、本当にもったいないと思います。

医師の説明は患者さん1人1人の病状に合わせてカスタマイズされています。忙しい外来の中では説明に短い時間しか取れません。それだけに必要な情報だけが、端的に、かつコンパクトに含まれているのです。

本やインターネットの医療情報は確かに詳しいかも知れません。でも、その情報がそれぞれの患者さんに当てはまるかどうかはわかりません。自分の病気とは全く関係ない記述も多いのです。そういう記述にやたらとこだわるのは、間違っているといわざるを得ません。

川本眼科は、患者さんの理解力に合わせてわかりやすい説明を心がけてきました。病変を患者さんに呈示する機器を積極的に導入し、できるだけ病気に関する資料も準備して、理解を助けるように工夫してきました。質問も歓迎します。どうぞ医師を利用して下さい。

(2014.10)