川本眼科

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川本眼科だより

川本眼科だより 179緑内障発作を予防する 2014年12月31日

普通の緑内障は慢性疾患できわめてゆっくりと進行します。急性緑内障発作は突然起こります。起こるまでは何の問題もなく、視野も視神経も正常なのですが、ある日突然大変なことになります。

急性緑内障発作は予防が大切です。発作を起こしやすい狭隅角の方には予防処置が勧められます。1つはレーザー虹彩切開術、1つは白内障手術です。その選択基準をご説明します。

狭隅角とは

眼球は房水というもので満たされています。

房水は虹彩(こうさい)の裏側にある毛様体で作られ、瞳孔(虹彩の中央に開いている穴)を通り、隅角(虹彩と角膜が接するところ)から流れ出していきます。隅角はいわば房水の下水口です。下水口と言っても小さな穴ではなく、黒目の外周全体が下水口になっているのです。

狭隅角とは、隅角が狭くなり、房水が流れにくくなってしまうことを言います。狭隅角が進むとついには隅角が詰まって房水が流れなくなります。これを閉塞隅角と呼びます。

急性緑内障発作とは

いったん隅角が閉塞すると、房水の流出が滞り、毛様体で産生された房水が虹彩の裏側に溜まってしまいます。そうすると溜まった房水は虹彩を上に押し上げるので、隅角はますます狭くなります。つまり悪循環です。部分的な閉塞が広い範囲の閉塞へと進み、ついには全く流れなくなります。

房水が作られ続け、隅角から流れ出なくなると、眼圧はどんどん高くなり、パンパンになります。通常の眼圧は10~20mmHg(ミリメートル水銀柱)くらいですが、これが30、40、50と急激に上昇します。この状態を急性緑内障発作と呼んでいます。

症状としては、眼痛、頭痛、吐き気、かすみ目などです。頭痛や吐き気だと内科を受診することが多く、内科の医師が緑内障発作の可能性に思い至らないと眼科での治療が遅れてしまいます。

発作を起こすと視野が欠け、それは一生元には戻りません。中心視野が障害されると見えづらくなり、視力も低下します。これは発作を起こしている間に視神経がどれだけダメージを受けたかで決まります。眼圧が50mmHgに上昇したまま1週間も経てば失明してしまうこともあり得ます。速やかに発作を解除して眼圧を下げることが大切です。

高齢者では目の知覚も鈍麻していて眼圧が高いのに本人の訴えがほとんどないことがあります。本人が嫌がっても周囲が受診させましょう。

治療は、点滴、レーザー、手術です。

白内障は狭隅角の原因の1つ

白内障になると一般に水晶体は分厚くなります。水晶体が後ろから虹彩を押し上げるため、隅角は狭くなります。白内障による狭隅角はよく見かけます。急性緑内障発作まで起こすことはまれとは言え、発作を起こしてしまったら不幸です。

緑内障発作を誘発する薬

風邪薬、抗ヒスタミン薬、睡眠薬、手術前に注射するアトロピンなどは急性緑内障発作を起こす危険があります。共通点は抗コリン作用があって一時的に隅角を狭くさせることです。多少狭隅角になっても前述の悪循環に陥らなければ、いずれ元に戻るので何も起こりません。しかし、ある限度を超えて悪循環に陥ったら、急性緑内障発作へ突き進みます。

また、散瞳も一時的に隅角を狭くするので、緑内障発作の引き金になる可能性があります。

安心して薬をのみ、安全に散瞳検査を受けるには、後述の予防処置を受ける必要があります。 

発作を防ぐ処置は2通り

急性緑内障発作を防ぐ処置は2つあります。

レーザー虹彩切開術白内障手術です。

レーザー虹彩切開術

ヤグ・レーザーを使って虹彩周辺部に穴を開ける方法です。この穴が房水の近道となり、隅角を開かせます。所要時間は10分ほど。

既に緑内障発作を起こしてしまった時の治療法としても有効ですが、予防にも使われます。発作時よりも予防のほうが、レーザーははるかに容易かつ安全に実施できます。

白内障手術でも予防できる

白内障のために膨隆した水晶体は、狭隅角化の大きな原因です。白内障手術で挿入する眼内レンズは元々の水晶体に比べればはるかに薄く、術後隅角は大きく開きます。

緑内障発作の治療にも予防にも使えます。

たとえ視力が良好で、見え方の点では全く困っていなくても、狭隅角化が進行して急性緑内障発作を起こすことを防ぐため、早めに白内障手術に踏み切ることがあります。

どちらの処置を選ぶか

50歳くらいまでの若い方で白内障がほとんどなければ、普通レーザー虹彩切開術を選びます。まだ水晶体のピント調節力も残っているので、なるべく水晶体を残しておきたいからです。

白内障が進行して視力も下がっている場合には、白内障手術が適切です。レーザーで予防することも可能ですが、将来白内障が進行したら結局白内障手術を受けなければなりません。白内障手術を選べばレーザーの必要はありません。

悩ましいのは中間くらいのケースです。例えば「60歳で白内障はまだ大したことがなく、矯正視力は0.8~1.0くらい」というケースならどちらの選択もありだと思います。

一般的には白内障手術のほうがよさそうな場合でも、患者さんが白内障手術に踏み切る決心がつかない場合、体調や家庭の事情など手術が受けられない場合などは、とりあえずレーザーで発作を予防し、白内障手術はゆっくり時期を見計らうことが可能です。ただし、レーザーの費用がかかります。3割負担の方では自己負担額片目約2万円です(両眼なら約4万円)。

75歳以上ならたいていの場合、白内障手術のほうをお勧めします。

(2014.12)