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川本眼科だより

川本眼科だより 187複数の目薬をさす 2015年8月31日

目薬を2種類以上さすときには、考えなければならないことがいろいろあります。

医師にとっては当然のことでも、患者さんには決して当たり前ではなく、医師が知らないところで間違いだらけの点眼法がまかり通っているようなのです。それで不利益を受けるのは、患者さん自身です。

ここでは医師がどういう理由で点眼法を指示しているかをご説明いたします。理由が理解できれば勝手な思い込みや自己判断による誤用も少なくなると思います。

5分あけろと言うけれど

複数の目薬を立て続けにさした場合、先にさした目薬が後からさした目薬で流れてしまいます。
どのくらい流れてしまうかは、後からさした目薬の量(1滴か2滴か大量か)によります。そして、後からさした目薬は比較的残りやすいのです。

そのために、2つのことが指導されます。
(a)「5分以上の間隔をあけてさしましょう」
(b)「大事な目薬を最後にさしましょう」

困るのは、「5分待つうちに別のことを始めてしまい、2番目の目薬をさし忘れる」という問題です。よくよく聞いてみると結構よくあることのようで、そうすると、結局、大事なほうの目薬をささずに終わってしまうことになります。

忘れた場合は、1時間後でも2時間後でも後で思い出したときにさせばよいのですが、「5分間隔でさせと言われたので、時間がたったらさしてはいけないと思っていた」という人もいるのです。医師はきちんと説明したつもりでも、患者さんに正しく伝わっていないことは多いのですね。

対策はタイマーやアラーム

5分は何もせずに待つには長い時間です。でも何か始めると次の点眼を忘れるというジレンマがあります。お勧めはキッチンタイマーの利用です。400~1,000円くらいで売っています。5分にセットしておくと、5分後に鳴って点眼を促してくれます。

最近は携帯電話を肌身離さず持ち歩いている人も多いので、それならアラーム機能を利用する方法もあります。間隔は「5分以上」なので1時間あいても構いません。そこで、朝3種類ささなければならないなら、7時、7時半、8時にアラームを鳴らし、それぞれ1種類だけさすことにすれば解決です。間隔を長くするほど目薬が流れてしまう心配は減るので、面倒でなければ推奨される方法です。実際、米国では「10分以上」と指導するのが普通だそうです。

勝手に目薬を選んでさす

目薬の種類が増えると点眼に時間がかかります。5分間隔で点眼する場合、3種類さすには10分、5種類さすには20分以上かかります。1日4回さすとすれば大仕事です。

結局さしきれず、「昼はさしていない」「朝晩2回しかさしていない」「自分で適当に目薬を選んでさしていた」となってしまうのです。

特に、「自分で適当に目薬を選ぶ」というのは大問題です。大事な目薬、必要な目薬を理解して選んでいただいているならよいのですが、「しみるからやめた」「点眼後しばらくぼけて見えるからやめた」「充血するからやめた」など、多くの方はさし心地重視で決めていることが明らかです。

目薬の効果も副作用も最初の処方時に説明しているのですが、時間がたつと最初の説明はすっかり忘れてしまい、正しい判断ができなくなります。

その結果、「効果も副作用も両方少ない目薬」が好んで使われ、「効果が高いので副作用をある程度我慢しても使うべき目薬」が使われないという困った事態に陥ります。

大事な目薬だけに絞る

こうした事態を避ける対策は、医師があらかじめ目薬の必要性を評価し順位付けをして、処方するのは必要性の高い目薬だけに絞ることです。調査によれば目薬の種類が増えれば増えるほどさし方がいい加減になる傾向が顕著で、1種類でも少ないほうが良いとされています。

必要に迫られて複数の目薬をさす場合でも、可能な限り3種類までにとどめておくことが推奨されています。

緑内障の目薬と白内障の目薬

高齢になると白内障はほぼ全員に起こります。緑内障も1割くらいの人に発症します。そのため両方の病気にかかっている方は大変多いのです。 この場合、私は緑内障の目薬だけ点眼していただき、白内障の目薬は処方しないことを原則にしています。それは緑内障の目薬のほうが圧倒的に大事だからです。(ご本人が強く希望する場合は両方処方することもあります。)

緑内障の目薬は治療の根幹です。きちんと目薬をさし続けて眼圧を低く維持することが肝要で、もし悪化した場合は元に戻りません。それ以上に悪化しないようにすることしかできません。

白内障の目薬は進行を遅らせるだけです。進行したら手術すればよいのです。手術成績はすごく良くて安全性も高いので、目薬の役割は相対的に大きくはありません。

両者を比較すれば、緑内障の目薬を優先すべきなのは明白です。調査でも1種類だけの目薬ならきちんとさしていただける可能性が高いのです。

緑内障の目薬は効果不十分の場合、2種類3種類と増やします。また、結膜炎などの急性疾患では抗菌剤やステロイドの目薬を処方します。そうすると一時的に目薬の種類が5~6種類にもなってしまいます。全部さすのは無理なので、継続する目薬、中止する目薬を指示していますが、しばしば誤りが起こります。最初から優先順位の低い白内障の目薬は使わないことが無難です。

角膜障害を減らすためにも

目薬を絞る理由は他にもあります。

たいていの目薬には防腐剤が入っています。それも8割の目薬でベンザルコニウムという防腐剤が使われていて、角膜障害の原因になることが知られています。目薬を何種類もさすことは、同時に防腐剤を繰り返し点眼することになってしまい、角膜障害をおこす危険性が高くなります。

目薬がアレルギーを起こすこともあります。充血したりゴロゴロしたりまぶたが腫れたりします。目薬アレルギーは目薬の種類が増えるほど起こす心配も増えると考えてよいでしょう。

しかも、角膜障害やアレルギーを起こしたとき、目薬を何種類もさしていると、どの目薬が原因になっているか特定するのが困難になります。本気で調べようとすると、全部中止した上で、1つ1つ再開して症状が出るか否か観察することが必要ですが、手間も時間もかかります。もし1種類だけなら原因の特定は簡単です。

目薬を欲しがる患者さん

実際の臨床では、医師が目薬の種類を減らそうとすると、しばしば患者さんから抵抗されます。特に今までさしていた目薬をやめることが難しく、根負けしてだんだん目薬の種類が増えることもよくあります。

今月の記事を読んで、目薬の種類を絞ることにご理解を賜れば幸いです。
(2015.8)