川本眼科だより 195緑内障点眼薬の副作用 2016年4月30日
緑内障の目薬の副作用については、8年前にも取り上げました。(→川本眼科だより99)
その記事は今でも通用しますが、新たな目薬が登場し、後発品が増え、配合剤が発売されるなど、記載内容に追加・修正が必要になってきました。
薬の添付文書には、因果関係が疑わしいこと、めったに起こらないこともすべて漏れなく記載する約束になっているので、副作用がものすごくたくさん並んでいますが、そのすべてを気にする必要はありません。
ただ、頻度の高い副作用とその対策については、知っておいたほうがよいでしょう。
防腐剤ベンザルコニウムの害
防腐剤ベンザルコニウムは抗菌効果が高いため、すべての目薬の8割に添加されています。
若く健康な人が短期間だけ低濃度のベンザルコニウムを点眼しても何も起こりません。しかし、長期にわたって何度もさし続けると角膜障害(ふつう角膜のキズと言っています)が起こります。高齢者では特に起こりやすいのです。
緑内障の目薬は長期にわたってさし続けなければなりません。何年も、時には何十年も。その上1種類だけでなく3種類くらい併用していることは珍しくありません。その結果、高齢者が長期間、毎日何回もベンザルコニウムを点眼し続けることになり、角膜障害を起こします。
最近は、角膜に影響の少ない別の防腐剤を添加した目薬が増え、細菌フィルター付の点眼容器を使うことで防腐剤を添加しない目薬も登場しています。川本眼科では積極的にそういう目薬を選ぶようにしています。
PG→充血・色素沈着
ルミガン、トラバタンズ、タプロス、ラタノプロスト(キサラタン)がPG(プロスタグランジン)系統の目薬で、緑内障治療の第一選択です。
眼圧を下げる力が最も強く、1日1回の点眼ですみ、全身への副作用がないからです。
充血は点眼初期に目立つ副作用です。充血は見た目だけの問題で害はありません。1ヶ月くらいさし続けると充血は徐々に軽くなっていきます。
充血は点眼して約8時間後がピークです。寝ている間に充血ピークが来るように逆算してさすと良いでしょう。夕食後がお勧めで、就寝直前だと起床時に充血することになります。
まぶたの色素沈着は、まぶたに付着した目薬が起こす副作用です。点眼後すぐ洗顔することで防げます。洗顔できない時は濡れたおしぼりで拭き取りましょう。おしぼりもなければティシューで。
朝の洗顔前に点眼するのも1法です。充血が気にならなければ洗顔の手間が減りますし、朝さすほうが点眼を忘れにくいのも利点です。
色素沈着はPG点眼を中止すれば約2ヶ月で元に戻るので、過剰に心配する必要はありません。
グラナテック→充血90分
グラナテックは、2014年末に登場した目薬です。新しい作用機序を持つ薬で、短期間によく使われるようになりました。
充血は必ず起こります。充血でちゃんと点眼できたか判定できるほどです。PGと違い、充血が軽くなることはなく、何ヶ月たっても充血します。ただし充血する時間は約90分と決まっていて、その時間が過ぎると完全に元通りになります。
充血対策は1日2回の点眼を朝早くと夜遅くにすることです。そうすれば人に会うときには充血していないので困ることはありません。
アレルギー性結膜炎や眼瞼炎も報告されていますが、こういう副作用は重大な結果をもたらすわけではなく、中止すれば元に戻るので、心配いりません。
アイファガン→アレルギー
アイファガンは2012年に発売された新しい目薬です。眼圧も結構下がりますし、視野保持効果もあると言われ、私もたくさん使いました。
アレルギー性結膜炎・眼瞼炎は約1割の方に起こります。点眼開始直後には何ともなく、3ヶ月以上たってから起こる副作用なので、患者さんも目薬のせいだと気づかないようです。
めまい、眠気、徐脈など全身の副作用が起こる点に注意が必要です。この薬が交感神経α2受容体刺激薬で目以外にも影響するからです。そのため、最近は他の薬を優先して使っています。
炭酸脱水酵素阻害薬
エイゾプト、トルソプトがこの系統の目薬です。
かすみ目など点眼後の違和感・不快感が主な副作用です。普通は我慢できる程度だと思います。
β(ベータ)遮断薬
チモ(正式名称はチモロール)、ミケランなど交感神経β受容体遮断薬も眼圧を下げる力が強く、よく使われてきた目薬です。
喘息発作を誘発することがあり、喘息持ちの人は避けたほうが無難です。小児喘息で大人になってからは一度も発作を起こしていなければ大丈夫かも知れません。
徐脈が問題になることもあります。なお、心血管系に影響があるのは確かですが、狭心症・不整脈・心不全などはβ遮断剤で治療することがあるくらいで悪影響は考えにくいと思います。
チモは他の系統との配合剤がたくさん作られ、今日では単独で使用することは少なくなりました。デュオトラバ、タプコム、ザラカムはPGとチモの配合剤ですし、アゾルガ、コソプトは炭酸脱水酵素阻害薬とチモの配合剤です。配合剤は効果も副作用も配合した成分を別々にさしたときと同じだと考えて良いでしょう。つまり、眼圧を下げる効果は高いのですが、配合した2種類の目薬の副作用がすべて起こりうることになります。
一般名処方と副作用管理
厚労省は「処方箋は一般名処方にして薬局に在庫のある後発医薬品(ジェネリック)を調剤する」という考え方に基づいて、4月に診療報酬を改定しました。2020年までにを後発品比率を80%まで上げるという目標を掲げ、圧力を強めています。
従来先発品を優先してきた大病院も、後発品を優先して使うように変わってきています。
私は医療費削減という趣旨には賛成です。協力できるところは一般名処方に変更しました。ただ、全部は無理で、商品名処方も残しました。
一般名処方だと、有効成分は同一で濃度や量も同じなのですが、添加物は異なります。目薬の場合、防腐剤の種類も量も違います。これは副作用管理の妨げになります。防腐剤ゼロの目薬を出すため、目薬を商品名で処方し、変更不可と指定しています。
目薬のアレルギー
アレルギーはどの目薬でも起こる可能性があります。しかも、それまで何年もさし続けて大丈夫だった目薬でも、急にアレルギー症状が出るようになってしまうことがあるのです。
目薬アレルギーが疑われても、実は花粉が原因だったり、指先に付着した物質による接触性皮膚炎だったり、目薬以外が犯人のこともあります。
緑内障だと複数の目薬を使っていることが多く、どの目薬がアレルギーを起こしているかの判定は厄介です。犯人捜しのためには、いったんすべての目薬を中止してアレルギー症状が消失することを確認し、1つずつ目薬を再開していきます。
原因が特定されるまでに時間がかかりすぎるのが難点です。それに、緑内障の目薬をすべてやめてしまうと眼圧が上昇して緑内障が進行する危険があるので、頻回に受診して眼圧を測る必要があります。私は、副作用管理の観点からできるだけ処方する目薬の種類を絞るように努力しています。実際には、患者さんの希望があって必要性が少ない目薬を続けていることも多いです。
(2016.4)