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川本眼科だより

川本眼科だより 206自院で診るか紹介するか 2017年3月31日

開業医は、すべての診療を自院でできるわけではありません。必要な場合は大病院に紹介します。

紹介するしか選択肢がなければ話は簡単ですが、実際には自院で診るか紹介するか迷うケースも結構あります。

今回は、いくつか例を挙げながら、自院で診るか紹介するか、どのように考えて判断しているのかお話しします。

自院で不可能なら紹介

当たり前ですが、自院でできない診療行為が絶対に必要なら、大病院に紹介するしかありません。話は簡単です。

網膜剥離が代表例です。普通は手術が必要で、それは大病院でないとできません。しかも手術しなければ視力の大幅な低下をきたし、失明するかも知れません。選択の余地がないのです。

A案は紹介、B案は自院で

診療方法がA案・B案と複数考えられ、1つは紹介が必要で、1つは自院で可能というケースもあります。

緑内障が進行して点眼薬の効果が不十分という場合はこれにあたります。A案は手術、B案は点眼薬の追加です。

点眼薬の併用は3種類くらいが限界と言われており、それ以上増やしても十分の効果は望めないので、手術を考えることになります。手術なら大病院に紹介です。最近は様々な手術方法や器具が登場しており、期待が持てる方法です。しかし、効果が出る可能性は少なくても点眼薬を増やして様子をみるという選択肢もあります。

よく説明した上で最終的には患者さんに選択していただくのですが、よく説明したつもりでも、患者さんは「手術は避けて川本眼科にそのまま通い続ける」に傾きがちで最善の選択をしていない場合が多いと感じます。紹介で大病院にかかるのは、高齢になればなるほど心理的ハードルが高いようです。

ただ、その結果、紹介のタイミングが遅れ、大病院を受診したときには選択肢が少なくなってしまったり、手術のリスクが大きくなってしまったりすることが多いのは残念なことです。

あまり気が進まなくても、勧められたらまずは病院の緑内障専門医に診てもらうことにして、手術をするかどうかは緑内障専門医の話を聞いてから決めることにされてはいかがでしょう?

自院で可能でも病院にお任せ

ある程度は自院で診療可能でも、最終的に大病院に紹介せざるを得なくなる可能性が高い場合は、患者さんと相談です。自院で診療が完結するなら、遠くの大病院まで出かけなくてもすむので、患者さんは楽です。でも、もし途中で大病院に紹介することになったら、一から検査のやり直しになるかも知れませんし、早い段階で大病院ならではの治療を受けられたかも知れません。結果論とはいえ、最初から大病院に受診したほうが良かったことになります。

重症の角膜感染症が代表例です。重症でも、投与した薬剤が効けば開業医でも治療は可能です。でも、治療に抵抗し、長期間かかることも決してまれではありません。治療に難渋すると、結局紹介することになります。最初からその分野の専門家が診ていれば、知識と経験により回り道せずに診断と最善の治療にたどり着けたかも知れません。

あるいは、角膜感染症の治療後、最終的に角膜に混濁を残した場合は角膜移植が必要になることがあります。専門施設なら引き続き同じ施設で診療を受けることができます。そういうことを考えて早い段階で紹介することがあります。

技術・技能の観点から

知識や経験というものは年齢を重ねるとともに蓄積されると考えてよいでしょう。だからこそ、教授や社長や指導者はある程度の年齢になった人がなるわけです。医師の場合も、70歳くらいまでなら診断能力には問題ないでしょう。

しかし、技術や技能は絶えず訓練や練習を続けることで維持されます。引退したプロ野球選手はもう現役時代のようには動けません。

医師も、勤務医時代には普通にやっていた処置でも、開業医になって何年もその処置をしなければ、能力は衰えます。

さかまつげの手術や眼瞼下垂の手術を昔勤務医の頃にはしていましたが、今はすべて紹介しています。開業してすぐはやっていたのですが、開業医ではそれほど対象者が多いわけでもなく、あまりやらないとだんだん自信もなくなって、すべて紹介するようになってしまいました。数をこなしたほうが手術の技能は向上しますから、病院勤務医のほうが上手に決まっています。

先天性鼻涙管閉鎖の開放術も以前はよくやっていましたが、1年まで待てばほとんどの例で自然治癒すると知り、しなくなりました。やらなくなると技能は衰えます。見えないのに指先の感覚だけで行う処置で、下手をすると変なところを突き破る心配もあるので、最近はなるべく待機し、どうしても必要なら紹介しています。

紹介先の選択

紹介が必要か否かを見極め、適切な時期にしかるべき施設に紹介するのが開業医の役割です。

私は中京グループに属し、中京病院との関係が深いので、患者さんに強いご希望がなければ中京病院に紹介することが多いわけですが、さりとて何でもかんでも中京病院に紹介しているわけではありません。

小児眼科では名大、涙道手術では名古屋医療センター、眼瞼手術では愛知医大、等々、それぞれ得意としている領域があります。

患者さんご本人の都合もあります。交通便利な医療機関にかかりたいのは人情ですし、既に内科等でかかっている病院があれば、同じ病院に紹介して差し上げたほうが便利でしょう。

ただ、たとえ便利でもその病院にはその領域の専門家がいないという場合もあるので、なるべく医師がいろいろな条件を踏まえてお勧めした施設を受診することをお勧めします。

紹介で受診するときは

たいていの病院では、紹介時に予約を取ることが可能です。インターネットやFAXで予約するのですが、やり方は病院によってバラバラです。予約システムがあっても、急ぐときは直接電話したほうが早いし、無理難題も何とかしてくれます。機械は杓子定規ですからね。

予約しても、ぴったり指定時間に診てもらえるわけではありません。いつも混雑している大病院では、予約していても1~2時間待たされます。

それでも、予約してあると予約なしの方より優先して診てもらえます。「いつ受診できるかわからないから、予約なしで紹介状だけ欲しい」という方もいらっしゃいますが、いったん予約を取っておいて、都合が悪ければ予約日を変更するのが得策です。

受診時には、紹介状・予約票・保険証を忘れずに御持参ください。

(2017.3)