川本眼科

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川本眼科だより

川本眼科だより 207緑内障の視野検査 2017年4月29日

視野検査には種類がいろいろあり、目的によって使い分けます。例えば、脳梗塞が原因で視野が狭くなった場合はゴールドマン視野検査が標準的な検査法です。 

緑内障の場合はハンフリー視野検査が世界的に標準検査とされています。緑内障は「視神経の神経線維が減少して脳に情報が伝わらなくなる=視野が徐々に欠けていく」という病気ですから、視野検査は病状を把握するための最も大切な検査だと言えます。

今回は、ハンフリー視野にまつわるよもやま話です。

閾(いき)値(ち)検査

ハンフリー視野検査では、網膜上に等間隔で測定点を設定し、その測定点に届くように光を投映します。光はモグラたたきのように「ここかと思えばまたあちら」とランダムに投映されます。  「30-2」と呼ばれるプログラムが緑内障検査用によく使われますが、下記の写真のように、網膜上にかなり広めの間隔で76の測定点が設定されています。

同じ測定点に対し、光の明るさを変えながら何度も投映されます。当然、非常に明るい光なら見やすいし、真っ暗に近い微弱な光は見えません。繰り返し検査すればどこまで明るくすれば見えるのかがわかります。見えるか見えないか境界の明るさを閾値(いきち)と呼びます。閾値はその点の感度を示していると考えられます。

閾値検査は1点1点真面目に調べていくと膨大な時間がかかるので、「隣接した測定点なら感度も近い」「神経線維はこう走行しているはず」等の理論を駆使して推定値を出し、検査時間を数分の1に短縮しています。

30-2と10-2

ハンフリー視野には「30-2」「24-2」「10-2」といった検査プログラムがあります。30-2が最も一般的な検査法ですが、実は中心近くでは測定点の間隔があきすぎていて細かい視野異常があっても見落としてしまうという問題点があります。

上記が各プログラムの測定点を示したもので、10-2は中心近くの狭い範囲に68の測定点が配置されていて、30-2の欠点を補うことができます。近年中心近くの視野が重視される傾向にあり、当院でも30-210-2を交互に調べることにしました。

図はメジカルビュー社「緑内障診療クローズアップ」から

視野検査は不人気

視野検査は人気がありません。検査計画を立ててお勧めしても、「視野検査はやりたくない」と拒否されてしまうこともあります。

不人気の理由は、検査が難しいからです。特に高齢者には難しい。閾値検査の原理からわかるように、『見えるか見えないか境界の明るさの光』を神経を研ぎ澄まして見つけるわけですから、誰にとっても難しく、疲れます。この検査が得意な人なんていません。

しかも正確に検査しようとするほど「目を動かさないで下さい」「おでこが離れています」「あごが台から浮いています」「周辺の弱い光でも無視しないでボタンを押して下さい」「ボタンをやたらと押しすぎています」等々と、やたら注文が多くなり、患者さんはますますやりたくなくなるという寸法です。

患者さんにやる気になっていただくには、検査の必要性をよく説明して納得していただくしかないのですが、忙しい外来で時間を捻出することは難しく、高齢者では以前の説明はすっかり忘れていることも多く、悩ましいところです。

視野検査の頻度

30-2で5回くらい検査を繰り返すと視野悪化の進行スピードが予測できます。(川本眼科だより115参照) そのためもあり最初のうちは年3回の視野検査が推奨されているのですが、患者さんが嫌がるため6ヶ月に1回しか検査できていません。

30-210-2を交互に調べることにすると、検査回数を増やすか、それぞれのプログラムの検査間隔をあけるか、どちらかになります。

30-2を年1回しか検査しないのならば進行予測ができるまでに5年もかかってしまいます。さすがにまずいと思い、最初は30-210-2を3ヶ月間隔で調べ、その後は「まだ初期と判断された方は6ヶ月おき」「進行している方はもっと頻繁に」という方針を立てました。必要最小限の頻度だと思いますのでご協力をお願いいたします。

視野の代替になる検査はないか

視野検査は患者さんにとって結構大変です。両眼で10~20分ほどの緊張・努力・集中が必要です。視野検査が上手にできるか否かは個人差が大きく、結果の信頼性にはバラツキがあります。歳を取るほど難しくなり、85歳くらいが限度ではないかと思われます。

患者さんが努力せずとも緑内障の進行程度がわかる検査方法はないのでしょうか?  そうなれば患者さんも医師も楽なのに。

現在その目標に最も近いのはOCTという検査です。視野に異常が出る前にOCTで異常所見が検出できる場合も多く、緑内障の進行もある程度判断できます。しかし、残念ながらOCTが威力を発揮するのは初期~中期に限られます。中期以降は微妙な変化を捉えることはできません。

現在も、そして近い将来も、緑内障の進行を知るにはやっぱり視野検査に頼るしかないのです。

視野トリビア-素朴な疑問

「30-2」ってどう読むのですか?

日本の眼科医は「さんじゅうのに」と読んでいます。欧米では別の読み方をするのでしょうが、申し訳ありませんが不勉強で存じません。

30-1、10-1という検査もあるのですか?

はい、実はハンフリー視野検査が開発された当初はあったのですが、緑内障の視野検査としては致命的な欠点があることが早々に判明し、すぐに使われなくなったそうです。

測定点を等間隔ではなく中心近くは密にすれば?

30-210-2の良いとこ取りのプログラムを作ろうという考えは今までもありました。交互に検査する必要もなく、検査間隔を減らすことにつながります。実際に、最近開発された視野計ではそういう発想のプログラムが存在します。

しかし、ハンフリー視野は歴史が古く、標準検査として確立してからも長い時間が経ち、今まで採ったデータも膨大なため、過去のデータを有効利用する観点からも今さら変えられないのです。

(2017.4)