川本眼科だより 221先天性鼻涙管閉塞 2018年6月30日
涙の役割は目の表面を潤すことです。涙がなければ目が乾いてしまうので、涙は常に分泌され続けています。涙を分泌するのが「涙腺」で上水道に相当します。涙を排出する下水道の役割を担う部位は「涙道」と呼んでいます。
涙道は、涙管(るいかん)、涙小管(るいしょうかん)、涙嚢(るいのう)、鼻涙管(びるいかん)に分かれます。下記の図をご覧下さい。
鼻涙管が生まれつき塞がっていて、出生時から涙が流れる病気が「先天性鼻涙管閉塞」です。
治療の時期や方法について様々な考え方があり、昔から議論が続いています。当院の方針についてご説明いたします。
著作権フリーの図が見つからなかったため、自分で手書きした図を載せます。見苦しくて申し訳ありません。
涙点は下水口で目頭に上下1つずつあり、そこから上下の涙小管を流れ、合流して涙嚢に至り、さらに鼻涙管を通って鼻に抜けます。
先天鼻涙管閉塞開放術
もともと鼻涙管は胎児期には塞がっていて、生まれる前に自然に開口するのだと考えられています。何らかの原因で出生後も塞がったままになっている状態がこの病気です。
プローブという針金状の器具を使って閉塞部位に穴を開けてやるという処置があり、「開放術」とか「プロービング」と呼ばれています。
上手くいくと流涙を早期に解消することができ、親御さんに喜んでもらえます。しかし・・
癒着や仮道をおこす恐れ
プローブの先端は見えません。つまり、操作は手探りです。手元に残るプローブの長さを見てどの程度まで入ったか推定し、解剖学的知識と手の感触を頼りに先へ進めます。抵抗があれば無理はしないで、抵抗のない方向へプローブを進めます。ただ、閉塞部位に穴をあけるときは、多少は力を入れて突き破る必要があります。
うっかりすると途中の壁を突き破ってしまう心配があります。先日学会で報告されたケースでは、鼻涙管の終端ではなく、横向きに本来の開口部がありました。こんなケースではプローブで本来の位置を開けるのは不可能です。あきらめて撤退できるでしょうか。無理をすると変な所に穴を開けてしまいます。
特に、生まれてまもなくの赤ちゃんでは組織が柔らかく、大した抵抗もなく簡単に穴が開いてしまい、仮道(本来の涙道とは別の通り道)を形成してしまう危険性が高いとされています。仮道にならなくても、下手に傷をつけると癒着を起こす心配があります。
そのため、開放術を実施する時期は、新生児期を避けるのが普通です。一方、あまり大きくなると施術の際に暴れて安全性に問題が出てきます。そのあたりを考えて、生後4~6ヶ月くらいが適切だと私は指導医から教わりました。それも絶対的な基準ではなく、医師によって実施時期もバラバラです。
抗菌剤の目薬
処置をせずに待つ場合、流涙だけなら何もせず経過観察だけで良いと思います。
めやにがひどいときには、涙嚢炎など起こしている心配もありますから、抗菌剤の目薬を使います。ただ、抗菌剤はできるだけ長期連用は避けたほうがよいでしょう。(避けたくても続けざるを得ないことはあります)
自然治癒が期待できる
実は、開放術をしなくても、自然に通るようになることは多いのです。
報告によって異なりますが、大雑把な数字で、生後3ヶ月までに7割が、生後6ヶ月までに8割が、生後1年までに9割が自然治癒するそうです。そもそも、大人になっても閉塞したままという人に出会ったことはありません。いつか開くのだと考えられます。
なんだ、それなら、嫌がる子供を力ずくで押さえつけて、子供が泣き叫ぶ中、合併症の心配をしながら気をつかう処置をする必要はほとんどないと考えられます。もちろん、流涙やめやにも気になることですから、早く解消できればうれしいでしょう。でもその処置にリスクを伴うことを考えると、辛抱強く待機するのが無難ではないかというのが今の私の考えです。
1歳になっても治らないとき
自然治癒を期待して待ったのに、どうしても治らないときはどうしましょう?
もっと待っても良いのですが、流涙が続くのもつらいので、中京病院の涙道専門の先生にご紹介しています。
当然、涙道の処置は手慣れていて上手です。それに、大きな病院なら、お子さんが暴れて危険と判断すれば全身麻酔をかけることも可能です。その上、涙道造影やら涙道内視鏡やら、開業医にはない手段を駆使できるので、お任せしたほうが安全だし確実だと思います。
以上述べたことから、現在川本眼科では、原則として自院では「先天鼻涙管閉塞開放術」は行わず、1歳まで待機する方針を採っております。
必要な時は中京病院の涙道を専門にしている先生に紹介いたします。
(2018.6)