川本眼科だより 222まぶたのトラブル 2018年7月31日
まぶたが赤くなったり、痒くなったり、腫れたりすることはよくあります。まぶたは眼科、皮膚科、形成外科、美容外科の境界領域で、どの科で対応するかが問題になることがあります。
今回はまぶたのトラブルについて取り上げました。特に女性は化粧や美容術との関係でトラブルが起きて困ることが多いと思います。
まぶたの皮膚は弱い
まぶたの皮膚は薄くて弱く、手や足の皮膚よりはるかに腫れやすい上に、目立ちやすいところでもあります。
まぶたには接触性皮膚炎がよく起こります。これはたいてい、手でまぶたを触わることによって起こります。例えば、犬や猫を触った後、時間が経ってからまぶたが腫れることがあります。まぶただけ動物に触ったわけではありません。ほとんど手で触っているのですが、手の皮膚は丈夫なので腫れたりしないのです。しかし、その手でまぶたを触ることによって、皮膚が弱いまぶただけ腫れるのです。ですから、接触性皮膚炎を防ぐには手洗いはとても大切です。
目尻や目頭がただれやすい
目頭や目尻が痒くなったり、赤くなったりすることが多いのですが、これは涙が関係しています。
涙は目頭にある涙点という涙の下水口から流れ出ていきますが、涙の量が多くなると本来の下水口では処理しきれなくなるので、目頭や目尻に流れてきます。濡れているところはただれやすく、これには細菌の活動が関係しています。
感染とアレルギーが二大原因
まぶたが腫れる二大原因が感染とアレルギーです。細菌感染なら抗菌剤を投与することになりますし、アレルギーなら原因の除去を試み、除去できなければ抗アレルギー剤やステロイドなどによる治療になります。
フラジオマイシンの害
目薬や眼軟膏にはフラジオマイシンという抗菌薬(アミノグシコシド系抗生物質)が配合されていることが多く、別に抗菌薬が必要ない場面でも多用されています。
ところが、フラジオマイシンは、今日抗菌薬としては弱くてほとんど役に立たないと考えられているのに、しばしば接触性皮膚炎を起こします。
うーん、不必要な添加物が原因で副作用が起こるのってまずいですよね・・・
私はそう考えて、10年以上前にフラジオマイシンが入っていない目薬・眼軟膏に変更しました。正直なところ、フラジオマイシンが抗菌剤として役に立ったという実感は皆無で、入っていない薬に変更した後も困ったことは全くなく、効き目は同等だと思います。
具体的に例を挙げてみましょう。
点眼・点鼻用リンデロンA液→炎症を抑えるステロイドの目薬ですが、フラジオマイシン抜きの「リンデロン0.1%」や「サンベタゾン0.1%」のほうが良いと思います。
眼・耳科用リンデロンA軟膏→同じくステロイドの眼軟膏です。私はほぼ同等の強さでフラジオマイシンを含まない「D・E・X0.1%眼軟膏T」を使います。
ネオメドロールEE軟膏→メチルプレドニゾロンという比較的弱いステロイドにフラジオマイシンが配合された眼軟膏です。3.5gという量がまぶたが腫れたとき使うのにちょうど良いので一番使われています。私はステロイドの強さは同じくらいでフラジオマイシンが含まれていない「酢酸プレドニゾロン0.25%眼軟膏T」を使います。
どの科が対応するべきか
まぶたの外側は皮膚で、皮膚科の管轄領域です。皮膚科でないと診断が難しい疾患もあり、皮膚科に依頼することもあります。
しかし、まぶたの裏側は結膜(粘膜の一種)でマイボーム腺やら涙道やら眼の付属器が存在します。また、まぶたの炎症ではステロイドの軟膏を塗る治療をすることが多いのですが、ステロイドの副作用で眼圧が上がる恐れがあり、眼科で眼圧測定をする必要があります。さらに、アレルギーなど、眼自体とまぶたの両方に問題がある場合も、眼科でないと対応しにくいでしょう。
あまり悩まなくてもまずはご自分なりに判断した科に受診すれば、軽症ならどの科でも治療してくれますし、必要なら紹介してくれます。
美容手術のアフターケア
二重まぶたの手術後数年で結膜に糸が露出してしまい、ゴロゴロするケースがありました。「眼科で糸を取ってもらえ」と言われたそうなのですが、どんな手術をしたのかも分からず、抜糸したらせっかくの二重まぶたが一重に戻ってしまうかも知れません。これは手術した施設の責任で対処してもらわなければ困ります。
アイプチでかぶれる
アイプチとは、まぶたにゴムラテックスと接着剤を混ぜたものをつけて一時的に二重まぶたにする方法です。
これは止めたほうが良いです。危険です。
ゴムラテックスは高い確率でかぶれたり腫れたりします。最初は大丈夫でも途中からかぶれることも多いです。治療には時間がかかります。
その後はゴム手袋などラテックス製品が一切使えなくなります。さらに化粧品など様々なものにアレルギーを起こしやすくなることがあります。
また、アイプチの成分が溶けて目に入ることも起こり、角膜障害をおこす原因になります。
まつげエクステ
まつげに接着剤で人工のつけまつげをくっつけて、まつげを長く見せる美容法です。これは錯視(ミュラーリヤー錯視、デルブーフ錯視等)を利用して、目を大きく見せているのです。
接着剤にはシアノアクリレートが使われます。これは木工用や工業用として使われている瞬間接着剤そのものです。皮膚に付着すると刺激があり、アレルギー反応を起こしやすく、十分に注意して慎重に施術しなければまぶたが腫れるなどの健康被害を引き起こします。
私自身もまつげエクステでまぶたが腫れた患者さんを何度も診ました。相当に重症だったケースもあります。安全第一に考えれば手を出さないのが無難で、どうしてもやりたければ慎重にお店を選びましょう。
実際に健康被害が多発して社会問題となったため、2008年「施術には美容師免許が必要」と厚生労働省が通達を出しました。美容師免許を持っているからといってまつげエクステの技能を有する訳ではないのですが、安易な施術を防ぐために、古い法律の強引な解釈で参入障壁を高くして規制したわけです。
まつげエクステの民間資格もありますが、4つの団体が別々に資格を認定する乱立状態で、歴史も浅く、資格としての信用度は低いのが現状です。しかも、これらの民間資格がなくても美容師免許があれば施術できます。(逆はダメ)
(2018.7)